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chelmico×長谷川白紙 特別対談 ルーツ音楽、ファッション、お笑い……自身を構成する“好きなモノ”を語り合う

リアルサウンド

20/9/8(火) 16:00

  前作『Fishing』からおよそ1年ぶりとなる、通算3枚目のアルバム『maze』をリリースしたchelmico。まるで短編映画のオムニバスのように、1曲ごとにガラリと景色を変えるバラエティ豊かな本作には、思い出野郎チームや斉藤雄哉(yonawo)、U-zhaanなど錚々たるアーティストがゲストとして名を連ねている。中でも子供時代の「トラウマ」をテーマにしたという「ごはんだよ」では、気鋭のシンガーソングライター長谷川白紙を作編曲に起用。現代音楽とヒップホップを融合したような、これまで誰も聴いたことがなかったようなサウンドスケープを展開している。

chelmico「ごはんだよ」

 今回リアルサウンドでは、そんな異色の組み合わせとなるchelmicoと長谷川白紙による対談を、前編・後編に分けてお届けしている。前編では「ごはんだよ」の制作秘話についてたっぷりと語り合ったもらったが、後編ではお互いのルーツミュージックや、今ハマっている音楽、さらには「お笑い」「ファッション」についてなど、トークのテーマは多岐に及んだ。(黒田隆憲)

<前編>

chelmico×長谷川白紙に聞く、初コラボ曲「ごはんだよ」で表現した“トラウマ” 「今までのリリックとは全く違う」

両者のルーツや音楽との出会い方は?

ーーここで、3人の音楽的ルーツについて改めて聞かせてもらえますか?

Rachel:私とマミちゃんが仲良くなったきっかけはRIP SLYMEなので、やっぱりRIP SLYMEの影響がchelmicoの真ん中にはある気がします。さっき白紙さんが、私たちの印象として言ってくれた「音楽性とキャラクターが一致している感じ」とかは、まさにRIP SLYMEに対して思っていたことだし、楽しそうにラップしているところとかも含め、その人たちの存在を丸ごと好きになっちゃうところとか「いいなあ」って思っていたので。でも、もっと小さい頃に聴いてきた音楽となると、それぞれ違ってくる。マミちゃんってちっちゃい頃は何聴いてたんだっけ。

Mamiko:父親がレゲエ好きだったから、レゲエと、あとハワイのおばさんが太鼓と声だけでやっている音楽があって、それをすごく気に入って聴いてましたね。あとは山下達郎さんとか。もちろんテレビも好きだったから、モー娘。(モーニング娘。)もよく観てましたし、あやや(松浦亜弥)とか好きでしたよ。

Rachel:私もお母さんが聴いていた曲の影響が大きかったな。日本と海外の流行りの音楽がよくラジオから流れていて、それを聴いて育ちましたね。日本だと宇多田ヒカルさんや倉木麻衣さん、それからやっぱりモー娘。。海外の音楽は、母親が「今、これが流行ってるんだよ」と教えてくれて、「そうかこれを聴いてるとカッコいいのか」って(笑)。あとは、アメリカの童謡なんかもみんなと盛り上がれるので聴いていましたね。白紙さんは?

長谷川:私は記憶の始まりが中学時代からと結構遅いのですが、その頃は邦ロック全盛時代に差し掛かっていましたね。

Mamiko:白紙さんが中学生ということは、私は17歳くらいか。サカナクションやチャットモンチーとか?

長谷川:そうですそうです。それこそ最初に買ったCDがサカナクションで。

Rachel:そうだ、新作(『夢の骨が襲いかかる!』)で「セントレイ」のカバーしていたもんね。あれめっちゃ良かったわ。てことは相対性理論(同作で「LOVEずっきゅん」も取り上げている)とかも?

長谷川:はい。RADWIMPSとか。チャットモンチーあたりが「大御所」的な雰囲気に徐々になってきて。そのフォロワーが面白いことをやり始めたくらいですね。ただ、その辺りに直接的な影響を受けているのかというと、ちょっと違うかもしれないです。それでいうとインターネットミュージックの方が、自分にとって大きいですね。マルチネ(Maltine Records)周辺と、あとジャズと現代音楽。この三本柱です。

ーージャズはどうやって入ったんですか?

長谷川:新宿ディスクユニオンのジャズ館ってあったじゃないですか。そこに通ってたらオシャレでカッコいいんじゃないか? と思ったんですよ。

Rachel&Mamiko:あははは!

長谷川:その時に、店内でブラッド・メルドーがリーダーを務めるThe Art Of The Trioの3作目か4作目が流れていて。それが衝撃的で、速攻でレジへ走って行って「これなんですか?」って。しかもレジにいた店員さんがめちゃくちゃいい人で、「これが好きならこういうアルバムもありますよ?」って教えてくださったんです。結局その方とはそれ以来お会いできていないんですよ。もしかしたらあの人が、私にとって最初のメンターだったのかもしれない。

Rachel:いつか再会できるといいね。

長谷川:現代音楽は、確かYouTubeのサジェストでヤニス・クセナキスを聴いたんですよ。「なんじゃこりゃ!」ってなって、こういう音楽を正気でやっている人がこの世にいるんだと思って、そこからどんどん興味が湧いていったんです。これもやっぱり、最初に聴いたのがクセナキスで良かったなと。クセナキスは、現代音楽の作曲に向かう思考のエッセンスと、それこそ「ポップス」にも通じる概念との橋渡しになるような人だと私は考えているんですよね。

ーー以前のインタビューで白紙さんは、「リズムは全ての音楽から影響を受けているけど、メロディとなると影響元はもっと狭まる」とおっしゃっていました。具体的にはどんなところからインスパイアされているのですか?

長谷川:メロディメイクという意味ではサカナクションとレイ・ハラカミからの影響が、ものすごく大きいと改めて思っています。実は最近、サカナクションの分析を久しぶりにしてみたのですが、サカナクションは「調性の主音」をすごく意識的に使っているアーティストだと思うんです。「主音がどういう役割を果たすのか?」ということをすごく考えていて、それってダンスミュージック的態度だとも思うんです。

 例えばハイハットがこのパターンで鳴っていると、あるいはキックがこのパターンで鳴っていると「踊れる」というのと同じ理由で、「ここに主音があるから踊れる」みたいな捉え方をしている。主音が持つ「リズム的な力」が、「和声的な力」と同じくらい強い上に、主音を音色的に捉えているというか。主音をキックやハイハットなどと同じように「音色の一つ」として扱っているところが面白いんです。あとは、メロディの調薬の仕方もそう。そこはサカナクションと同じくらいレイ・ハラカミにも影響を受けています。レイ・ハラカミは、係留やタメの作り方に特徴があるんですよね。

ーーなるほど。ちなみに3人は、普段どうやって音楽を掘っているんですか?

Mamiko:私の場合は、友人から「あれ、良かったよ」みたいな感じで勧めてもらうことが多いかなあ。それかプレイリストで聴くことが多いかも。

Rachel:私も好きなアーティストや信用できる人のプレイリストから掘っていったり、あるいはBandcampで音楽が好きな人をフォローして、その人が買っているCDを買ったりしてるかな。いろんなところから情報を集めているから、「こうやって聴いてます」「このアーティストが好きです」みたいな感じで話すのは難しいかも。

ーー白紙さんも、Twitterのタイムラインに上がってきた音楽は、目についたら片っ端から聴くようにしているとおっしゃっていましたよね。

長谷川:はい。

Rachel:ああ、確かにそれもある。友達がInstagramのストーリーとかで使っている音楽は絶対に聴きますね。そんなに興味なさそうだなと思っても、「この人が聴いてるなら」みたいな。知らない音楽があると知りたくなります。

「ごはんだよ」仮タイトルが「ディエス・イレ(怒りの日)」だった理由

ーーちなみにアルバム『maze』を作っている時はどんな音楽を聴いてましたか?

Mamiko:なんだろう……Awichを聴いてたかな。あとはMoonChildとか。

Rachel:私はあんまり音楽は聴いていなくて、それより本をたくさん読んでいました。それこそ「ごはんだよ」に出てくる〈なつのひかりに現れたやどかり〉というラインは、江國香織さんの小説『なつのひかり』のオマージュなんですよ。ある日、部屋にヤドカリが現れて、追いかけるけど捕まえられないだけの話なんですけど、それが夢の中にいるような、記憶の中を歩いているような感じで気持ち悪くて(笑)。「ごはんだよ」の世界観とリンクしているなと思ったんですよね。

長谷川:へえ!

Rachel:そういえば、白紙さんから送られてきた「ごはんだよ」の仮トラックのタイトルが「ディエス・イレ(怒りの日)」だったのは何故ですか?

長谷川:あれは、グレゴリオ聖歌「ディエス・イレ」の旋律を要所要所で引用しているからです。最後に出てくるやつがもろにそうなんですけど。

Rachel:あ、そこが一番好きなんですよ!

長谷川:「ディエス・イレ」はキリスト教における終末思想の一つですが、グレゴリオ聖歌「ディエス・イレ」はレクイエム(死者を弔う聖歌)としてミサで歌われてきたものなんですね。「ごはんだよ」ではこの旋律を、根源的な恐怖を呼び起こすモチーフとして引用していて、そこにコードではなくCのメジャースケールを全部鳴らそうとしている。つまり「恐怖」が他の要素で覆い隠されて分からなくなっているという状況を、音楽的な構造で表現してみたわけなんです。

Mamiko:はー! そんなことをやっていたんだ。

Rachel:仮タイトル、ずっと気になってたから聞けて良かった。「ディエス・イレ」、ちゃんと聴いたことなかったから聴いてみます。

ーーところで白紙さんとMamikoさんって、「お笑い」好きという共通点があるんですよね?

Mamiko:え、「お笑い」好きなんですか?

長谷川:はい。この間のインタビューで、自分の言語的な感覚は「お笑い」からの影響がかなり大きいという話をしたんです。

Mamiko:えー、早く言ってよ(笑)。

長谷川:最近はダイヤモンドという2人組が好きで。

Mamiko:あははは。結構ちゃんと追ってるんだね。

長谷川:神様クラブの周(AMANE)さんから「ダイヤモンドはヤバいよ?」と教えてもらって(笑)、そこから好きになりました。単独公演とかにも行ってるんです。あとはサツマカワRPGとか。

Mamiko:すごい。結構パンチがある人たちが好きなんですね。バラエティ番組を観て、というよりはネタから入るパターンですか?

長谷川:そうです。家にテレビがないので、テレビでどんなことをやっているかは全く知らないんですよね。

Mamiko:私もテレビがなくて、最近はあまりネタをしっかり追えてなかったから観てみます。

ーーちなみにMamikoさんが最近ハマってる「お笑い」は?

Mamiko:最近は、マセキ芸能社の銀兵衛が好きですね。是非、白紙さんに観て欲しい。

長谷川:観てみます!

chelmicoのラップを聴いて「声」の持つ力に気づかされた

ーー3人は、コロナ禍で何か変化はありました?

Mamiko:家の中を強化しました。エスプレッソマシンを買ったり、ロッキングチェアを買ったり。家にこもるのめっちゃ好きだから、楽しむように工夫しましたね。

Rachel:私はゲームの配信を始めました。自分のチャンネルを持ったし、機材とかも詳しくなったので「進化」した感じがします(笑)。ゲーム実況ってラジオ的な機能も果たしているというか。自分の近況とか、思っていることとかを観てくれている人とチャットで話したりとか、コミュニケーションが取れるので楽しいですね。

長谷川:最近はずっとフェミニズムの本を読んでいます。映画を見るのはもともと好きなんですけど、家にこもる時間が長くなってからはアピチャッポン・ウィーラセタクンの作品をめっちゃ見ていましたね。あと、アレハンドロ・ホドロフスキーがDOMMUNEにリモート出演していたのがきっかけで、ホドロフスキー作品も見返していました。

ーーアピチャッポンもホドロフスキーも映像が印象的ですが、やはりそういったテクスチャーに惹かれることが多いですか?

長谷川:そうなのかもしれないです。今、そう言われてハッとしました。あと、お洋服を買う量が半端じゃなく増えましたね、着て出かける機会も減っているのに(笑)。そこは変わったところかな。

Mamiko:通販で買うんですか?

長谷川:そうですね。やめたいけど、楽しくてやめられない。コレクターズ気質のところもあって、自分が本当に似合わないと思う服でも「アーカイブとしての価値がある」と思ったら買ってしまうんですよ。それが結構、ヤバいんです。

Mamiko:えー、気になる。クローゼット見てみたい。

Rachel:いつも可愛いお洋服着てるもんね。

長谷川:最近はクレイグ・グリーンというデザイナーの服を買ったんですけど、カーキの生地にオレンジで刺繍がしてあって、そでに手袋がついているんですよ。「多分似合わないだろうな」と思いながらも刺繍が綺麗なので買ってしまいました。

Rachel:今、調べてみたけど、確かに似合う人が限られそうな服だ(笑)。

長谷川:そうなんです(笑)。クレイグもそうですが、テック系の服に最近惹かれることが多くて。というのも、性別を必要としない服という意味では、現代だとテックファッションが一番近いのかなと思うんですよ。要するに「機能性」がまず優先される。そこから拡張されたり異化されたりする部分はあると思うんですけど、基本的には性別を要求しない服なのかもしれないなと。そう思ってからは、着ていて快適というか。自分の中でも辻褄が合った気がしたんです。

Rachel:確かに、白紙さんはテック系の服のイメージはあるね。似合っているし。

長谷川:ありがとうございます。

ーー今日は、3人から音楽以外の話もたくさん聞けて楽しかったです。最後に、アフターコロナの世界でどんな活動をしていきたいと思っているかを教えてもらえますか?

長谷川:コロナ禍になってからの影響は特にないんですけど、最近は「音色」への興味が湧いてきていて。例えば自分の新作『夢の骨が襲いかかる!』では、音色や発声をコラージュしたり積み重ねたりしていくこと、楽曲のコンポジションや文脈だけではなく「音色の連なり」をフェティシズム的に楽しむというか。そういう方向に自分の関心が向かっていっているのは、それこそ「ごはんだよ」を作っているときにchelmicoの2人のラップを聴いて、「声」の持つ力に気づかされた部分もとても大きかったんですよね。

Mamiko:へー! なんか嬉しいなあ(笑)。

Rachel:chelmicoとしては、先日配信ライブをやったときに自分たちのアイデアをいっぱい出せたんですよ。単にライブをやるだけじゃなくて、色々演出を加えたりテーマを決めたり、セットや美術を自分たちのお部屋みたいにしたりしたのがすごく楽しかったので、今後さらに自由に出来たらいいなと思っています。「配信」ならではの強みというか、そういうものをもっと出す方法をこれからは追求していきたいですね。

長谷川:逆に、ライブでしか表現できないことってなんですか?

Rachel:それはもうシンプルにお客さんがその場所にいることだと思う。それだけで自分のテンションは上がっちゃうし馬鹿でかい声も出る(笑)。chelmicoの曲はコール&レスポンスも多いし、そこでお客さんの声がないとテンションが盛り下がっちゃいますよね。とにかく、ライブでしか得られない興奮や緊張感というものがあって、そこから得られる表現はライブならではだと思う。

長谷川:聞けて良かったです。私みたいにインターネットで全てが解決すると思い込んでいるタイプの輩は(笑)、そういう空気感、同じ時間を共有していることへの理解の解像度がちょっと低いなあと思っていて。さっき「音色」の話をしましたけど、ライブの「空気感」も音楽が持っている「音色」の一つだと思うし、それも込みで作品を作ってきたchelmicoのお2人が「配信」という形でどんな世界を見せてくれるのか、これからも楽しみにしています。

Mamiko&Rachel:頑張ります!

■chelmico リリース情報
3rdアルバム『maze』
2020年8月26日(水)リリース
<形態>
初回限定盤 [CD+DVD] ¥3,500 + 税
通常盤 [CD] ¥2,800 + 税
購入はこちら

『maze』特設サイト

■関連リンク
chelmico公式サイト
chelmico公式Twitter
chelmico公式Instagram
chelmico YouTubeチャンネル

■長谷川白紙 リリース情報
『夢の骨が襲いかかる!』
完全生産限定CD
2020年7月8日(水)リリース
¥1,800(+税)
発売元:株式会社ミュージックマイン
販売元:株式会社ウルトラ・ヴァイヴ

長谷川白紙 Twitter
長谷川白紙 YouTubeチャンネル

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