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2020年のヒット作はこうして生まれた!関係者に聞く人気の秘密 Vol.1 映画館に“救世主”と称された「TENET テネット」

ナタリー

21/3/6(土) 12:30

「TENET テネット」

新型コロナウイルスの流行により、人々の生活が激変した2020年。映画館の休業、新作ドラマの放送延期などエンタテインメント業界もかつてない大打撃を受けた。一方で話題作も数多く生まれている。

1月30日、31日に開催されたオンラインイベント「マツリー」で先行公開した「2020年のヒット作はこうして生まれた!関係者に聞く人気の秘密」では、2020年にヒットした映画とドラマの関係者にインタビューとアンケートを実施。コロナ禍におけるヒットの舞台裏を語ってもらった。

初回でスポットを当てるのは、第3次世界大戦を防ぐミッションを課せられた名もなきエージェントの姿を描いた「TENET テネット」。監督を務めたクリストファー・ノーランが映画館での公開にこだわり、コロナ禍で窮状に置かれた劇場の救世主とも称されている。このたびは宣伝プロデューサー・小宮脩氏に、初めて作品を観たときの率直な感想やヒットの手応えを感じた瞬間を聞いた。

取材・文 / よしひろまさみち

大ヒットと捉えてます

──2020年に公開された洋画では興収トップとなった「TENET テネット」。1月8日にBlu-ray & DVDがリリースされましたが、まだ興収は伸びてるんですよね?

現在(※インタビューは2021年1月初旬に実施)、約27億2千万円ですね。もう上映している劇場も少ないので、億単位での伸びはないと思います。

──通常の状態で洋画の大ヒットラインと言われている興収20億円はクリア。それをあの2020年にできたのは素晴らしい。

実はノーラン作品で20億超えしたのは、「インセプション」の34億円だけなんですよ。「ダークナイト」3部作でも20億を突破していなくて、「ダークナイト ライジング」が最高で約19億円。ですので、弊社として「TENET テネット」は大ヒットと捉えています。

──正直なところ、小宮さんたち日本のスタッフが最初に作品を観たときどう感じました?

まったくわかりませんでした(笑)。公開されてからご覧になった皆さんと同じ感想ですね。観終わってから、宣伝だけでなく営業のスタッフも含め、あーでもないこーでもない、とみんなでストーリーの答え合わせをしたんですよ。しかも、私たちが最初に観たのはノースーパー(字幕なし)だったので、ケネス・ブラナー演じるセイターのロシア語なまりの英語セリフとか、酸素マスクをつけた主人公のセリフとか、聞き取りづらいところもたくさんあって、「?」だらけでしたね。

──ノースーパーでセイターのセリフはきついですね。けっこうしゃべりますし。

そうなんですよ。弊社の英語話者でも「何言ってるかわからない」って言うくらいで。それに、完成品を観るまでに配布されている資料が……。

──ノーラン作品の常ですが、事前情報がすごく少ないですよね。

そうなんです。大筋のプロットは書いてあるんですが、キャラクターの設定や相関など、詳しいことは何ひとつ知らされず。おまけにセリフの聞き取りも曖昧だったので、後々見直したあとで「セイターの悪事にも目的があった」とか気付きました。エンドロールでトラヴィス・スコットの「The Plan」が流れることも知らなかったので、「ああ、これトラヴィス・スコットだ」ってなったり(笑)。

コア層とは別のお客さんが観に来てくれた

──では、公開されてからのお客さんの反応は想定内でした?

そうですね。間違いなく「わからない」って声が上がるだろうと思ってました。予想以上の反響でしたが。

──世界中がコロナ禍に陥って初めて、ハリウッド大作の明かりを取り戻した作品でもありますね。

おかげさまでそうなりますね。タイミングの問題もありますが、ノーラン監督最新作という話題性は、公開日決定よりも前からずっと盛り上がっていましたから、監督の持っている引きのパワーと作品へのこだわりがあって、2020年を代表する大作になったんじゃないかと思います。担当者だからというわけではなく、いち映画ファンとしても、暗い話ばかりだった2020年の映画界の中で明るいニュースになったのはうれしいことです。

──これがノーランの作品でなければ、容赦なく延期に延期を重ねて、2020年の公開は実現しなかった可能性もありますよね。

ありえますね。彼がフィルムメーカーとしての実績を持っていたこと、劇場での体験にこだわっているクリエイターであることが、とても大きく作用したと思います。

──公開後、意外だったことはありますか?

リアクションに関して特に意外性はなかったんですが、今までのノーラン作品と違ってライト層がとても多い気はします。これまでの作品の場合、コアなファンが感想を語り合ったり、わからないところを語り合ったり、SNS上でやり取りしているのが散見されたんですが、本作の場合はすごくソーシャルっぽいワードで感想を書いていたのをよく見かけました。ですから、これまでのコア層とは別のお客さんが観に来てくれたと感じられましたね。

──ソーシャルっぽいワードって、具体的には?

例えば、「わからない! でも興奮する」とか「わからないから、もう一度観る!」とか。「わからない」っていう言葉が「泣ける」とかと同じようにポジティブな意味として使われていたんですよ。ノーラン作品ではとても珍しいことなんですよね。作品のクオリティの高さを評価されて、興行的にも成功を収めている稀有な映画監督でありながら、日本では、ライト層向けではない、どこか玄人向けというイメージも強かったので。「わからない」ことをポジティブな売りにすることによって、リピート率も上がったと思っています。それと、パンフレットに物理学視点からの解説を掲載しているんですが、とてもよく売れました。誰かと一緒に作品を楽しんでもらって、パンフレットの解説で補完しながら、謎について語り合ってもらう。それを1つのパッケージにできたのは大きかったと思います。

──監督自身もおっしゃってましたが「時間の概念はあくまでコンセプトで、ジャンルはスパイ映画」という娯楽作の売り出し方は間違っていなかったんでしょうね。

そうだと思います。このようなコロナ禍ではなく、通常の状態で公開するとなったら、宣伝展開もまったく違ったでしょう。多くの洋画大作が公開されていたら「今年観るべき洋画大作!」と強く打ち出しにくくなりますから。

──2020年だったからこそ、多くの人に観てもらえた大作といえますね。

そうですね。特に日本においては、7月から邦画の新作で劇場に人が戻り始めていましたから、9月の公開は満を持してハリウッド大作として打ち出しやすかった面もあります。それに、もともと7月にアメリカ公開予定でしたが、どんどんずれていくことで、アメリカ本国とほぼ同時公開予定だったヨーロッパ各国ではすでに宣伝展開を始めていた状態。でも、日本はもともと世界でも一番遅い公開予定だったので、実は我々が当初考えていた宣伝スケジュールとさほど変わらずにいけたんですよ。

──日本におけるハリウッド大作公開の遅れという悪しき慣習が、まさかの功を奏したと!

そうそう。そういうことです(笑)。この独特の慣習って、映画ファンの方からは常にお叱りを受けていることですが、日本でのプロモーションのためだけに存在するものなんですよ。それが今回は大きくプラスに働いた。2020年だからこそできたことの1つではあるんじゃないかと思います。

ノーランに足向けて寝られない(笑)

──「TENET テネット」のヒットの手応えを感じたのはいつ頃ですか?

人によりけりだとは思うんですが、私自身は最後まで疑ってましたね。ただ、ほかの作品同様、先売りの状況を見て、比較的ヒットすると感じていましたけど。池袋のグランドシネマサンシャインなど、いくつかの劇場で日本最速上映を行った際、その売れ行きがとてもよかったのがいい手応えになりました。

──あれ、夜中スタートでしたよね。

そうです。0時スタートです。コアなノーランファンの皆さんで(笑)。その層がこぞって最速上映に来てくれたってことは、私たちが仕掛けていた宣伝がうまくいって反応が出ているという証拠にもなったので、励みになりましたね。

──ちなみにグランドシネマサンシャインが「TENET テネット」封切り週末におけるIMAXシアター全世界最高益をあげてノーランからお礼状が届いたニュースがありましたが、あれは仕掛けたこと?

いえいえ。偶然ですよ。もちろん日本が4連休だったことや、座席数半減の条件解禁などは大きかったんですが、とはいえ、あそこが一番になったのは偶然です。ただ、日本ではIMAXフィルムカメラの映像をフルサイズで観られるのは池袋のほかは、大阪(109シネマズ大阪エキスポシティ)だけですから。劇場さん側からも多大なるご協力をいただいて記録が作られたんだと思います。

──池袋に足向けて寝られないですね。

ノーランにも足向けて寝られない(笑)。本当にうれしかったですし、コロナ禍が明けたあと、ノーラン監督の新作が公開される際には「絶対に舞台挨拶は池袋へ」と言えるな、と思いましたよ。

──間違いなくやってくれますね。

「TENET テネット」ダウンロード配信中、Blu-ray / DVD販売中、レンタル中

発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

Tenet(c)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

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