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カネコアヤノ、スカート、藤巻亮太……弾き語りやアコースティックアルバムならではの“歌”の表情

リアルサウンド

20/2/1(土) 8:00

 シンガーソングライターの音楽の始まりは今でこそDTMも定番に挙げられるが、やはりギター1本、ピアノ1台に歌という形態も未だに多いだろう。さらに、制作過程で他の楽器を加えることなく、楽曲をそのままシンプルに聴かせる作品を残すアーティストも多い。本稿では生楽器を軸に再編されたアコースティックアルバムに注目し、その多様さを紹介したい。

 カネコアヤノの『祝祭 ひとりでに』『燦々 ひとりでに』は彼女が2018年に発表した『祝祭』、2019年に発表した『燦々』という2枚のバンドレコーディングアルバムを弾き語りで全曲を再録した作品である。2020年1月からはサブスクリプションサービスでの配信も開始された。

DRIP TOKYO #2 カネコアヤノ

 『燦々』は「第12回CDショップ大賞2020」にも入選した話題作だ。オリジナル音源はライブでのバンドメンバーを中心に歌に寄り添うアレンジを施し、高い完成度を誇っている。一方、『燦々 ひとりでに』は歌+1台の楽器という編成で、まるですぐそばでカネコアヤノが歌い上げているかのような楽曲のありのままの姿が収められている。

 彼女の弾き語り盤には“歌の近さ”を感じる。そのたおやかでタフな歌声に至近距離でじっくり浸れるのだ。彼女の楽曲は、暮らしの中にある愛しさや気持ちの揺れを言葉にして紡いだものが多い。それを素朴な伴奏で歌えば裏返る声すらもリアリティとなり、今この瞬間に生まれた歌のように聴こえてくる。

 『~ひとりでに』で楽曲のアレンジをがらりと変えたものもある。サイケデリックな「りぼんのてほどき」は、しっとりとしたピアノ曲に仕上がっている。〈なんとか生き抜いた〉と歌うサビも声を張らず、ひやりとしたムードで整えられており、その言葉の切実さをより際立たせている。『~ひとりでに』シリーズはカネコアヤノの溢れる表現力をありありと伝えるための、もう一つのアウトプット先なのだろう。

 サッポロビールの「第96回箱根駅伝用オリジナルCM」年始特別バージョンテーマソングや、テレビ東京の新ドラマ『絶メシロード』の主題歌など年始から新曲公開が活発なスカートも、2019年に弾き語り盤を発表した。6月のメジャー2ndアルバム『トワイライト』、その初回盤付属の『トワイライトひとりぼっち』はアルバム全曲を弾き語りで録音した作品だ。

スカート『トワイライト』

 スカートは澤部渡のソロプロジェクトで、当サイトのインタビューでも「スカートの音楽に絶対的なものがあるとしたら、自分が歌とギターでやっても成り立つものなんじゃないかなと」と語っている通り、バンドも弾き語りもフラットに捉えていることが分かる。アレンジも両盤でイメージを共有したような統一感があり、「沈黙」などではバンドver.にも匹敵するような激しいギターカッティングが炸裂している。

スカート-トワイライト/ずっとつづく(TOKYO MX LIVE in Music More)

 『~ひとりぼっち』とオリジナルの差異は“ぽつんとした気分”の強調ではないか。スカートの楽曲は元より穏やかさと切なさを帯びているが、アコギの鳴りによってセンチメンタルな叙情がさらに強く放たれる。バンドver.の「君がいるなら」はその題通り、温かな慈しみに溢れているが、弾き語りでは“君”がいるのか定かではない程、聴き心地はどこか寂しげだ。このように元来の魅力をより引き出すのにもアコースティックver.は効力を発揮する。

 藤巻亮太が2019年に発表した『RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010』は、フロントマンを務めるバンド・レミオロメンの楽曲を多彩なアプローチで再録している。本作は先述までの作品と異なり、生楽器によるバンド演奏が主体だ。「五月雨」など、原曲と異なるリズムワークも聴きごたえがある。とりわけ「永遠と一瞬」で打楽器のようにアコギを用いて高揚感を演出したリアレンジには驚くはず。

藤巻亮太「RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010」[Trailer]

 この作品の真ん中にあるのは“歌”だ。元よりその太く柔らかな声質は唯一無二であったが、キャリアを重ねてさらに滋味を増し、表現の幅は広がり続けている。「太陽の下」では新アレンジのフォーキーさに沿う朗らかな歌を乗せ、エレクトロポップを弾き語りに変換した「Sakura」では爽やかで落ち着いた歌を光らせている。

 レミオロメンには華やかな管弦や鍵盤による編曲も多いが、このアコースティック盤では歌と言葉を響かせるためにその要素が削ぎ落されている。壮大なオーケストラが鳴る「もっと遠くへ」の原曲にある力強さも素晴らしいが、本作ではクラップを取り入れてそっと背中を押すような1曲に姿を変えた。

 「3月9日」はほぼ全編弾き語りで時折挟まれるブルースハープが切なく、「粉雪」は、あの著名なギターイントロを排し、ピアノと歌のみで幕を開け、終始ピアノが楽曲を引っ張っていくバラードへと変貌を遂げた。大ヒット曲も隠れた名曲も分け隔てなく、今歌いたいという気持ちで新たな命を吹き込む。バンド時代を過去にするのでなく、今の自分へとチューニングを合わせていくような、丁寧で意義深い志が刻まれたアルバムだ。

 シンガーだけでなくストレイテナーやACIDMANなど、バンド編成でアコースティックアルバムを発表するバンドも多く、持ち曲に異なる表情を与える選択肢としてお馴染みになりつつある。楽曲の本質を深堀りできるアイテムとして、今後も様々なアーティストのアコースティックや弾き語りバージョンを聴いてみたいと思う。

■月の人
福岡在住の医療関係者。1994年の早生まれ。ポップカルチャーの摂取とその感想の熱弁が生き甲斐。noteを中心にライブレポートや作品レビューを書き連ねている。
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