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16歳の天才女優、その演技が人々に与えた影響とは? 『アクタージュ』夜凪景の“巻き込み力”を考察

リアルサウンド

20/6/24(水) 12:26

 『週刊少年ジャンプ』にて連載中の『アクタージュ』(原作:マツキタツヤ、作画:宇佐崎しろ)は、メソッド演技を独学で身につけた主人公・夜凪景が、役者として成長する様を描くマンガだ。松井周の脚本・演出による『アクタージュ act-age ~銀河鉄道の夜~』として、2022年には舞台化が予定されている。本公演に先がけて、夜凪景役を決める全国リモートオーディション募集もスタート。彼女の存在はますます注目を集めるだろう。そこで、本稿では主人公の夜凪景について掘り下げたい。

参考:『アクタージュ』が役者マンガの傑作たる理由 神がかった演技を描ききる、絵の説得力

 夜凪景は高校2年生の16歳(連載スタート時)。過去に母親を亡くし、父親も失踪している状況で、役者業をしながら弟妹と生活している。景は父親が残した映画ソフトを見て育ち、無自覚にメソッド演技を体得した。メソッド演技とは、ある役柄を演じるために、その感情と呼応する自らの過去を追体験する手法のこと。

 芸能事務所スターズの社長星アリサは、俳優発掘オーディションにおいて、景の演技は「いずれ身を滅ぼす」と判断。一度落としていた。しかし、カンヌ・ベルリン・ヴェネツィアの世界三大映画祭全てに入賞経験のある映画監督・黒山墨字は、景を「本物の役者」と評価。その才能に惚れ込み、再度オーディションを受けさせる。最終審査では景の演技が抜きん出ていたこともあり、アリサから合格を告げられた。以来、景は黒山の設立したスタジオ大黒天に所属し、役者の道を歩みはじめる。

 彼女は、もともと演技経験はないために、役者としては素人だった。序盤、景は「過去の自分の感情を呼び起こす」ことしかできず、撮影ではNGを連発した。しかし、景は黒山から「自分の中に自分の知らない自分が眠っている。芝居を通してそれを探し続けろ」とアドバイスを受け、映画「デスアイランド」のオーディション以降、その演技が変わりはじめた。

 彼女の魅力は、天然のメソッド演技を生かしたキャラクター性だけではなく、「巻き込み力」にある。景は黒山のアドバイスを生かしながら、共演者や制作者の「自分の中に眠っている自分」までも呼び起こすようになっていく。

 例えば、映画「デスアイランド」撮影編。ここでは、監督の手塚由紀治と主演の百城千世子が、景の演技に対する姿勢に感化された。オーディションの即興劇審査では、景はメソッド演技と彼女自身が作成した未経験の自分を想像しながら演じた。その結果、彼女は同じグループの流れを壊し、演技を中断に追い込んだ。しかし、手塚は景の着眼点を評価して、合格させたのだ。手塚は監督デビュー作でキャリアを追われた経験から、“雇われ監督”的役割に徹していた。プロデューサーの用意した有名原作と有名俳優に、ルーティンワーク化した演出、撮影テイクはどれも一発OKで通してきた。しかし、景と出会ってから、撮影では冒険もするようになったのだ。

 千世子は〈天使〉と称されるほどの若手トップ女優。制作側の要望や世間の求める偶像に応じ、自身の見られ方を徹底的に作り込むことに長けていた。一方で素顔を晒してありのまま演じることはせず、景から「顔が見えない」と告げられ、手塚からは千世子の仮面の演技は見飽きたと語られる。しかし、景に触発された手塚の現場で、景との共演シーンでは素の感情が入り交じる演技を見せるようになった。その結果、「デスアイランド」で景と千世子の共演シーンは、虚実の入り交じる迫真の画になったのだ。

 夜凪景の「巻き込み力」は以降の展開でも生かされ、共演者や制作者との関係性をスリリングなものにしてきた。マンガで見られる景の今後はもちろんのこと、舞台で生身の役者が演じる景の姿も楽しみだ。

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