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和田彩花の「アートに夢中!」

『渡辺省亭ー欧米を魅了した花鳥画ー』『クールベと海 展―フランス近代 自然へのまなざし』

月2回連載

第58回

今回ご紹介いただくのは、明治期に活躍した知る人ぞ知る花鳥画の鬼才、渡辺省亭の回顧展と、19世紀フランスの巨匠、クールベの描く「海」に注目した展覧会。万博を機にパリに渡り、印象派との交流もあった省亭、そして写実主義絵画を追求し当時の美術界に敵対する態度を表明しつつ、モネとも親交が深かったクールベ。それぞれ印象派ともつながるふたつの展覧会を、和田さんはどのように見たのでしょうか。

※『渡辺省亭ー欧米を魅了した花鳥画ー』『クールベと海 展―フランス近代 自然へのまなざし』ともに、緊急事態宣言発令により現在休館中です。再開につきましては、美術館の公式HPにてご確認下さい。

『渡辺省亭ー欧米を魅了した花鳥画ー』

渡辺省亭を知ったのは、展覧会のチラシを頂いたことがきっかけでした。鮮やかな牡丹の花がきれいで一目惚れしてしまったんです。普段から展覧会のチラシは眺めたり、集めたりしてはいたのですが、一枚のチラシにここまで心を惹かれるっていうのは久々のことです。

『渡辺省亭ー欧米を魅了した花鳥画ー』チラシ

それまで知らなかった省亭ですが、彼が明治から大正にかけて活躍した画家で、渡航先のフランスで人気が出て、ドガと交流があったり、マネの弟子も作品を購入していたという話を聞いてさらに興味が深まりました。印象派の人々も心惹かれたって部分ももちろんなのですが、そもそもマネの弟子って少ないんですよ、いったい誰なんだろう?ってところが、マネ好きなもので非常に気になってしまいました。そして、展覧会で彼の作品を実際に見て、久しぶりにすごくきれいなものを見たなという感覚になりました。

《牡丹に蝶の図》 1893(明治26)年/絹本着色/一幅/個人蔵

省亭は色の使い方が絶妙で、グラデーションも描写が特徴的です。そして、作品全体も非常に奥深いと感じました。たとえばチラシに掲載されていた《牡丹に蝶の図》。チラシではトリミングされていて、牡丹の花の大きな部分だけがクローズアップされています。このトリミングされたチラシ部分だけでも非常に魅力的なのですが、全体を見てみると、さらに魅力が深まります。牡丹を支える支柱が作る垂直の線が画面を寸断し、左側には花びらがほとんど落ちてしまった花が、そして、落ちた花びらは大輪の牡丹の根本にある。なんとも不思議な構図です。蝶が牡丹に止まった瞬間を描いている絵なのに、その周りにはいろいろな時間が閉じ込められている感じがするのです。また、正面にあるピンク色の牡丹は斜め下を向いてうつむいていたりして、普通の花鳥画とは少し違う目線です。そのためか、ずっと見ていたくなります。

また、省亭の絵はたっぷり絵の具を載せていたように感じました。迎賓館赤坂離宮「花鳥の間」の七宝額のための下絵などに特にそう感じたのですが、花やニワトリのとさかの赤色など非常にはっきりした色。自分は油絵を観るとき、画題や描写と同じように、筆触や絵の具の厚みなどに関心を払って鑑賞するのですが、そのときと同じ感覚を持ちました。日本美術を見ていて、この感覚になることってほとんどなかったので驚いています。

迎賓館赤坂離宮・七宝額原画《懸巣に蔦》絹本着色/一面(全三十図のうち)/東京国立博物館/Image TNM Image Archives.tif

あと、説明的じゃないところもいいですね。ふつうの日本画は、池にいる鯉を描くとき、そこがどんな場所だかひと目で見てわかるように池の縁や砂浜を描くことが多いと思います。そして、地面を緑で塗って、木を生やして枝を垂れさせて…みたいな描写をします。けれども、省亭の絵は水と対象しか描かない。状況の説明をしないけれど、その場所がどんなところで、どんなシチュエーションかわかる。これはすごいことだと思うんです。ドガの目の前で描いて贈ったとされる《鳥図(枝にとまる鳥)》もそう。お約束みたいなものがなくて、描きたいものだけを描いている。

《鳥図(枝にとまる鳥)》1878年(明治11年)紙本淡彩/一面/クラーク美術館 Clark Art Institute. clarkart. edu

そして余白がある。この余白っていうのは、単なる空いたスペースじゃないんです。たとえば省亭の月夜の絵。月の周りになにもなくても、ちょっとした雲があったり、木々の葉でその月をわずかに隠すだけで、物語を見ている人がどんどん付け加えられるところがいいなと思います。

動物の絵も良かったです。今回の展覧会では、一枚の画面のなかに複数の動物がいる作品が多く展示されていたのですが、それらの動物のうち必ず一匹はこちらを見ているような感じのものが多かった気がします。群れているウサギやスズメの姿を客観的に描いたってわけではなく、なにか意図を込めて描いたように感じました。それにしても、動物のふわふわした毛並みの感じがとても写実的で美しいですね。

《月夜木菟》絹本着色/一幅/個人蔵

それにしても、ドガたちは省亭の絵や、彼自身が描いている姿を見てどう感じたんでしょうね。フランスには浮世絵がすでに大量に輸出されていましたが、いわゆる日本画って、一点物ですし、万博が開催されるまでフランスの人たちは多くは目にしていなかったはず。画家にとって、どうやって描いているかを知るって、非常に大切な刺激だと思うんです。ドガの当時の気持ちや、具体的に画風にどのような影響を与えたのかも知れるといいなと思いました。

今回の展覧会は、個人蔵のものも多かったですね。どの作品も非常に保存状態が良くて、だから色が鮮やかでした。これだけきれいってことは、どの作品のコレクターの方も、みんな省亭が好きで大切に持っていたんだなということも思ったりしました。省亭にも刺激を受けたし、ドガやマネの弟子たち、フランスのことにまで思いをはせることができたし、コレクターさんの愛も知ることができたし、とても楽しい展覧会でした。

開催情報

『渡辺省亭ー欧米を魅了した花鳥画ー』
3月27日(土)~5月23日(日)、東京藝術大学大学美術館にて開催中
https://seitei2021.jp
※会期中展示替えあり(前期3/27~4/25、後期4/27~5/23)
※緊急事態宣言発令により4月25日より休館中
※本展は事前予約制ではありませんが、今後の状況次第で変更及び入場制限等を実施する可能性があります。詳細は公式HPにてご確認下さい。

明治から大正にかけて活躍し、繊細で洒脱な日本画を描いた渡辺省亭。同展は、1878年のパリ万博への出品や、迎賓館赤坂離宮の七宝額原画を描くなどその実力は認められながらも、展覧会などで取り上げられる機会が少なかった省亭の全貌を明らかにする初めての展覧会。海外からの里帰り作品を含め、これまで知られていなかった個人コレクションを中心にその画業を展観する。

『クールベと海 展―フランス近代 自然へのまなざし』

『クールベと海 展』は、いろいろ考えることがたくさん生まれた刺激のある展覧会でした。あまりにも考えることがたくさんあった展覧会なので、クールベは得意なはずなのにどこから語ればいいのか迷ってしまうほどです(笑)。

今回の展覧会は、クールベの描いた海が主要なテーマなんですが、西洋絵画のなかで「自然」がどのように扱われてきたのかというところをしっかりふまえていたのがよかったです。クールベより前の時代の画家たちは、自然を描くときはすごく遠くから偉大さが出るように描き、その自然のなかに上手に聖書のお話などを落とし込んでいました。自然をなにかのエピソードの一部としてしか捉えられていなかったんです。

けれども、自然の描かれ方は時代が進むに連れ変わってきます。牧歌的な風景としてであったり、身近な牛や馬と一緒の絵であったりと、自然へのまなざしがどんどん画家の世界に近づいていくのです。この展覧会は、その移り変わる様子をクールベの絵を通して見ることができたのがよかったです。

そして、クールベの絵の変遷も非常に興味深かったです。年を経るにつれて絵の具の具合がどんどん変わっていくんですよ。若い頃は筆の跡も見せないように故郷の岩や崖を描いていたのに、海を描くようになった壮年期は筆を使わずパレットナイフに載せたままキャンバスに乗せ、絵の具の質感そのものをむき出しにしている。前回お話したコンスタブルも若い頃と最盛期とでは絵の雰囲気は若干変わっていたのですが、ここまで激しくはありませんでした。コンスタブルはクールベの30年くらい先に活躍していた画家なので、その30年の間に大きな変革が起きたんだなって感じます。

ギュスターヴ・クールベ《フランシュ=コンテの谷、オルナン付近》1865年頃 油彩・カンヴァス 茨城県近代美術館
ギュスターヴ・クールベ《狩の獲物》1856-62年頃 油彩・カンヴァス 個人蔵

本題の海のお話に来るまでにかなりの時間がかかってしまいました。それだけこの展覧会は見どころがたくさんあるんですよね。そもそも、海がリゾート地であるという考え方は、とても新しいもので、19世紀のコンスタブルが活躍していた頃にイギリスではじめて生まれました。近代化が進んで電車が開通し、海に行きやすくなってから、フランスの海岸もリゾート化していきます。なので、クールベが活躍していたころは、人々の海に対する概念が大きく変わっていった時代なんですね。

ウジェーヌ・ブーダン《浜辺にて》油彩・カンヴァス 個人

とはいうものの、クールベが描く海にはその変化は現れません。彼の描く海は、基本的に水平線と波だけ、人や浜辺は描かれないんですよね。というか、作品を見ていると海よりも、うねる波をしっかりと描きたかったんじゃないかと感じます。だから、波のディティールを追求しすぎて、後ろにある水平線と不整合が起きているような作品もあったりします。クールベは22歳になるまで海を見たことがなかったそうです。けれども、その後たくさんの海の絵を描くようになる。海の姿に感動したんだなあと感じます。

ギュスターヴ・クールベ《波》1869年 油彩・カンヴァス 愛媛県美術館
ギュスターヴ・クールベ《波》1870年 油彩・カンヴァス オルレアン美術館
©2020 Musée des Beaux-Arts, Orléans蔵

そんなクールベの海の絵ですが、特に心惹かれるのは波の中心部。サーファーの方が滑る斜面のところ、ここが非常に暗く描かれているんです、この部分を見ていると吸い込まれそうな気分になるんですよね、ブラックホールみたい。クールベは《世界の起源》という、女性の性器をクローズアップした作品を描いているのですが、その絵も中心部分に視線を引きつけようとする描き方をしています。一連の海の作品を見ていると、どこかしら通じるところがあるように思いました。

クロード・モネ《アヴァルの門》1886年 油彩・カンヴァス 島根県立美術館
ギュスターヴ・クールベ《エトルタ海岸、夕日 》1869年 油彩・カンヴァス 新潟県立近代美術館・万代島美術館

とはいうものの、波の部分はたしかに暗いのですが、クールベが描く海って、意外と明るい色味なんですよ。彼の作品って、全体的に暗めの絵の具を選んで使っているイメージがあるのですが、海の絵に関しては波の中心部分を除けばとても明るい。モネや、モネの師であるブーダンとともに、エトルタの海で一緒に制作していたからでしょうか。夕焼けの空の色が海に移って、ピンク色になっている作品がとてもよかったです。

クールベはモネよりもだいぶ年齢が上なのに、下の世代たちの技法を学んで、取り入れていってるんですよね。下の世代の新しい表現方法を受け入れられない芸術家も多い中、クールベの柔軟性も素晴らしいなと思います。

クールベは生まれた土地の風習だったり、価値観だったりの影響を大きく受けているというのもわかってよかった。いままで、彼のことを近代絵画を切り開いたとか、写実主義とか、反体制主義などのオーソドックスな枠組みのなかで考えていたんですけど、彼の生まれた山間地のオルナンが反体制的な価値観を持つ地域であることなどを知ることで、クールベを新しい視点で見ることができるなって思いました。彼の作品をもっとたくさん見てみたいと思いました。

それにしても、三菱一号館美術館のコンスタブル展とパナソニック汐留美術館のクールベ展が同時期に開催されているって素晴らしいことですね。油絵が好きな人はふたつの展覧会を見比べるととても楽しいのでおすすめです。

開催情報

『クールベと海 展―フランス近代 自然へのまなざし』
4月10日(土)~6月13日(日)、パナソニック汐留美術館にて開催中
※緊急事態宣言の発令により4月27日より休館中
https://panasonic.co.jp/ls/museum/exhibition/21/210410/
※日時事前予約制
※会期中展示替えあり

19世紀フランスを代表するレアリスムの巨匠ギュスターヴ・クールベの風景画家としての側面に焦点をあてる展覧会。特に画家が1860年代以降に集中的に取り組んだ「波」連作を中心に紹介し、クールベが捉えた海の風景画の特異性を探っていく。

構成・文:浦島茂世 撮影:藤田亜弓

プロフィール

和田 彩花

1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。同年に「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2015年よりグループ名をアンジュルムと改め、新たにスタートし、テレビ、ライブ、舞台などで幅広く活動。ハロー!プロジェクト全体のリーダーも務めた後、2019年6月18日をもってアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業。アートへの関心が高く、さまざまなメディアでアートに関する情報を発信している。

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