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みうらじゅんの映画チラシ放談

『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』 『モクソリ』

月2回連載

第62回

『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』

── 最初の作品は『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』です。1作目もアメリカで大ヒットしましたね。

みうら 僕、それを観てないもんで、この副題“破られた沈黙”を読み解くと今回はとてもヤバイことになるわけですね。

── はい。「音を出したら“何か”が襲って来る」という設定なんです。

みうら つまり1作目はどうにか“キープ・オン・沈黙”で逃げきったってことですよね。でも今回の副題は、もはや全然クワイエット・プレイスじゃなくないですか? それって『ゼロ・グラビティ』を観に行ったら、原題が『グラビティ』だったときくらい矛盾してますよ。でも沈黙を破った以上は、ここでシリーズは完結っていうことですかね?

── いや、実は3作目が予定されているらしいです。

みうら それはわずらわしいくらいの騒ぎになるんですか?

── 主演の女優さんが、そもそも“パート3”を想定して作ったと発言していたので。

みうら “赤ん坊が泣いたら全員即死”って書いてありますけど、例えば小さなオナラとかゲップも音に入るんですか?

── それは、気づかれたらダメな気がしますね。1作目では、音で気づかれないように、滝のそばに行けばようやく喋れるっていう場面がありました。

みうら 滝の音でかき消されるってことですか? それってトイレで音をかき消してくれるTOTOの“音姫”さま効果じゃないですか。じゃあ、大小の便はここで済ませばいいですね。襲ってくる方もそれはエチケットとして音姫さまだけは見逃してくれてるってわけですね。随分デリカシーがある敵ですね。で、“何か”って一体、何ですか?

── 1作目がすでに公開された後なんでネタバレじゃないと思って言いますけど、視力は発達してないけど聴覚がすごく発達したバケモノっぽい何かなんですよね。

みうら そうなると臭覚はどうなんですか? 大概、獣は聴覚とともに臭覚も発達してるもんですよ。そいつらはどこから来たんですか? 想像するにクワイエット星みたいなところからでしょうね。

── どこから来たかまでは明かされてなかったですね。

みうら でも、クワイエット星から来たのなら、地球を選んだのがそもそも間違いでしたよね。宇宙の中でも特に地球はうるさいでしょうから。

と、なるとその怪物を歌舞伎町とかにおびき寄せて復讐するのはどうなんですかね? 音に敏感っていうことは、強みでもあり弱みでもあると思うんです。こいつらは敏感耳だから、ドンキホーテの前あたりに連れ出して一気に退治するって手もアリですよね。

── 今かなり作品の核心に迫っていますよ。

みうら え? マジですか? まあ人間の悪知恵も相当ですから、騒音作戦には出ますよね。で、この赤ん坊は最近生まれたんですか?

── そうです。敵に音を聞かれないようにどうやって出産するのかが、1作目のクライマックスになっていました。

みうら 出て1発目のオギャーは大切ですからね。音姫さまは許してくれるんだから、出産くらいは大目に見てほしいですよね。怪物だってのどかな田舎でそんなにイラついてちゃ、都会で暮らしていくのはもっと大変ですよ。ところでこの主人公一家は、なんでそんな危ない場所に行っちゃったんですか?

── 人類全体が存亡の危機なんだと思うんです。明確には描かれていないですけど、かなり広範囲がパニックに陥っている感じでした。

みうら “プレイス”っていうから、その場所に行かなきゃ安全だと思ってました。

── 1作目は自宅兼農場が舞台だったんですが、今回は農場の外の世界へと旅立っていくようです。

みうら と、なると今後3作目以降があるなら、ジェイソンとかプレデターみたいに大都会ニューヨークに行く可能性も当然、出てくるでしょうね。豚のベイブだってニューヨークには一度、行ってますからね。

おそらく『クワイエット・プレイス3』は上京編という副題がつくでしょうね。これを思うと『2』で“破られた沈黙”を使っちゃったのは悔やまれます。『2』はせめて“破られた?”とかぐらいの疑問形にしとくべきだったと僕は思いますね。

僕、上京したての頃、アパートの隣人に何度もうるさいって壁を蹴られたことがあったんです。だから、今度音を立てたら殺されるんじゃないかという恐怖はよく分かるんですよね。

この映画の怪物はそんなアパートのメタファーだと思います。この監督も、学生時代は四畳半くらいの狭いアパートに住んでたんでしょう。隣からオナラも聞こえてくるような薄い壁に諸行無常の響きありってね。きっと上京組なら共感できる気がするんで、ぜひ観に行ってみたいと思います。

『モクソリ』

── 2本目もホラー映画のチラシを選んでいただきました。

みうら (笑)。いや、僕はもう基本的にホラーしか観てないんですよね。ホラーは分かりやすくていいです。しかも、これはおカネかかってなさそうなチラシですよね。

実はチラシの裏面を見たら遊園地が出てくるんで選ばせていただってこともあるんです。僕、昔っから遊園地で調子に乗った若者がひどいメに遭う映画が好きなんです(笑)。昨年、観たピエロが出てくるやつも良かったです。

── 『ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷』ですか?

みうら それです! イーライ・ロス製作の。夜のお化け屋敷で散々なメに遭わされるんです。きっとこの『モクソリ』も、若者たちが「入ってみようぜ」って言って、潰れた遊園地に忍び込むんだと思うんですよ。当然、女子たちもいて、さらに調子に乗るんでしょう。

僕、生まれてこの方、一度もジェットコースターに乗ったことがないんです。大学時代も、友達の車で旅行に出かけた際、「ちょっと寄ってかない?」って富士急ハイランドに行かされてね。

── 富士急ハイランドと言えば絶叫マシンの聖地ですよね?

みうら そうなんですよ。友達はその絶叫マシン目当てなんですけど、僕は急に腹が痛くなったと言い訳し、その近くのベンチに座って奴らが戻ってくるのを待ってました。

『ゾンビランド』でも潰れた遊園地でえらいメに遭ってましたでしょ。『ファイナル・デッドコースター』なんて公開初日に観に行きましたから(笑)。そして、僕は思うわけです。「そんなところ行くからだ!」「そんなのに乗るからだ!」ってね。

たぶんこの『モクソリ』も、絶叫マシンが向いてない人たちを歓喜させてくれるんだと思うんです。そして、「言わんこっちゃない」って言って映画館を後にしたいものですね。

── 以前この連載で『コンジアム』という韓国映画を取り上げましたよね。

みうら はい。僕が“コンジローマ”と間違えたやつですよね(笑)。

── チラシには、その『コンジアム』と時をほぼ同じくして公開されて、“まったくの偶然ながら廃屋、学生、若手俳優、ホラーという類似性を持っていたこともありスマッシュヒットを記録”って書いてあるんです。

みうら え? それって、売り文句なんですかね(笑)?

── そうなんですよ。宣伝チラシなのに、便乗してヒットしましたって告白してるんです。

みうら 別にそんな正直に書かなくていいと思いますがね(笑)。ということは、遊園地じゃなく、偶然ながら廃屋なんですね、舞台は。

── しかも全然チラシに怖い要素が書いてないですね。“今や人気俳優となりつつある彼らのデビュー間もない演技はどんなだったか? お宝要素満載の韓国ホラー”が売り文句なようです。

みうら え? でも、偶然にもホラーじゃなくて? しかも、人気俳優になりつつあるって(笑)。チラシに“ささやき声”って書いてあるのも、ゴーストの声じゃなくて、この映画のプロデューサーから「お前は近い将来、売れると思うな」とかの声かもしれませんね(笑)。

たぶんそんなに怖くないでしょうね。それよりも、うっかりヒットしてしまった監督の気持ちを追体験する気で観に行くのがいいでしょうね。でも、こんなに謙遜してるチラシって本当、新しいですよね!

取材・文:村山章

(C)2019 Paramount Pictures. All rights reserved.
(C)2018 FIVE DAY/Kkuljam Compnay,ALL RIGHTS RESERVED.

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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