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なぜ会話劇ドラマに魅せられる? 『俺の話は長い』『G線上のあなたと私』『ブラック校則』をもとに考える

リアルサウンド

19/12/6(金) 6:00

 秋ドラマが佳境に入っているが、視聴者から熱い支持を集めている3つのドラマがある。それが『俺の話は長い』(日本テレビ系)、『G線上のあなたと私』(TBS系)、『ブラック校則』(日本テレビ系)だ(『ブラック校則』は11月26日放送分で終了)。いずれも大ヒットとは言えないかもしれないが、視聴率がそれぞれ尻上がりに上昇しているということは、熱心なファンがついている証拠である。

【写真】『ブラック校則』の男子高校生・創楽と中弥

 3作品をカテゴライズするならば、「ホームドラマ」、「恋愛ドラマ」、「学園ドラマ」とそれぞれまったく別のジャンルになるが、ひとつ大きな共通点がある。それは3作品とも「会話劇ドラマ」だということだ。ひらたく言えば、どれも大きな事件などは起こらず、登場人物たちの「おしゃべり」をもとにストーリーが進んでいく。

 ホームドラマの『俺の話は長い』は、30歳過ぎなのにニートで屁理屈ばかり言う満(生田斗真)と強気なキャリアウーマンの実姉・綾子(小池栄子)との丁々発止の会話が見どころ。40歳過ぎでニートの仲間入りした綾子の夫・光司(安田顕)、綾子の娘・春海(清原果耶)、満と綾子の母・房枝(原田美枝子)ら家族全員がいつも食卓を囲んで会話に参加している。

 恋愛ドラマの『G線上のあなたと私』は、バイオリン教室に通う元OLで無職(後に転職)の也映子(波瑠)、専業主婦の幸恵(松下由樹)、大学生の理人(中川大志)がいつもおしゃべりに興じている。女性2人のテンポの良い会話がドラマの明るいムードをつくっているが、クールに見える理人も序盤から積極的に2人に絡んでいるのが意外で面白い。

 学園ドラマの『ブラック校則』は、学校の校則を変えようとしている主人公の男子高校生・創楽(佐藤勝利)と中弥(高橋海人)がいつも海岸でおしゃべりしていて、2人で時系列がシャッフルされたさまざまな出来事を振り返りながらストーリーが進んでいく。

 どの作品も登場人物たちのおしゃべりが魅力で、ドラマの推進力になっているのが特徴だ。当然ながら脚本家の腕が問われるところだが、『俺の話は長い』は『世界一難しい恋』(日本テレビ系)などの金子茂樹、『G線上のあなたと私』は『きのう何食べた?』(テレビ東京系)などの安達奈緒子、『ブラック校則』は同じく男子高校生2人の会話劇『セトウツミ』(秋田書店)の原作者・此元和津也がそれぞれの脚本を担当している。なるほど、おしゃべりが面白いわけだと納得してしまう顔ぶれだ。

■おしゃべりが生み出す「家族」「恋愛」「闘争」

 用事ならアプリなどでメッセージを交わすだけで事足りるし、SNSでコミュニケーションを楽しむことができる。だが、人と人が対面して行うおしゃべりはコミュニケーションの根幹ともいえるものだ。他愛のない話題で笑い、時には意見を交わし、そして感情と本音をぶつけ合う。

 3作品を見ていると、おしゃべりは「連帯」を生み出していることがわかる。普段は立場や住む環境が異なっていて交わらないような人同士でも、おしゃべりによって通じ合うことができるようだ。

 『俺の話は長い』では、満と姉の夫・光司がおしゃべりによって連帯を深め、「ニートブラザーズ」が爆誕してしまった。難しい年頃の春海も満に信頼を寄せているようだ。『G線上のあなたと私』では、元OLで無職の也映子と専業主婦の幸恵というが意気投合し、おしゃべりを通じてシスターフッド(女性同士の連帯)を築いている。こちらは理人を含めて「バイオリン三銃士」だ。『ブラック校則』では、クラスでの立ち位置やキャラが違う創楽と中弥がおしゃべりを通じて絆を深めている。残念ながらコンビ名はない。

 そして、おしゃべりの延長線上に、『俺の話は長い』では「家族」が、『G線上のあなたと私』では「恋愛」が、『ブラック校則』では「闘争」が生み出された。

 『俺の話は長い』では、これまで離れて暮らしていた家族が改築をきっかけに一つ屋根の下に集まって暮らすようになり、食卓を囲んでおしゃべりをすることで、より家族としての絆を深めつつあるように見える。『サザエさん』(フジテレビ系)を見ればわかるとおり、「家族」というテーマと「食卓」と「おしゃべり」は切り離せないもので、『カルテット』(TBS系)や『anone』(日本テレビ系)という一連の坂元裕二脚本作品では、血のつながらない他人同士が食卓を囲んで行う他愛のないおしゃべりによって擬似家族のような存在になっていた。

 『G線上のあなたと私』では、バイオリンのレッスンやおしゃべりを通じて也映子と理人は(本当に少しずつではあるが)距離を縮めていく。わざわざ相手の家や居酒屋にも足を運んで、おしゃべりすることもある。本来は誰とも喋らなくても楽しめるカラオケボックスや、メッセージアプリやSNSを使うためのスマホでおしゃべりが繰り広げられるのも象徴的だ。それだけこのドラマがおしゃべりを重要視している証明だろう。

 『ブラック校則』では、校則でスマホもSNSも禁止されている中、おしゃべりから生まれたラップが闘争の手段になる。創楽はたどたどしいが、中弥は器用にラップをこなし、吃音症で口を閉ざしていた東(達磨)は自作のトラックに乗せたフリースタイルラップで感情を爆発させる(映画版でも彼のラップが登場する)。町工場で働く井上(光石研)と外国人労働者たちがラップで工場長に待遇改善を迫るというシーンもあった。

 会話劇が中心のドラマが増えた背景には、良質な会話を書くことができる脚本家の存在とそれを演じる俳優たちへの信頼がある。制作費の削減も関係しているのかもしれない。

 作劇に関して言えば、いまどきの人々は突飛な行動はなかなか起こさないことも理由のひとつではないだろうか。家族同士でケンカになったとしても取っ組み合いにはならないし、誰かにプロポーズしようとして走ってくるトラックの前に飛び出したりもしない。学校に腹を立てても校舎の窓ガラスを壊してまわったりもしない。それが今の時代のリアリティである。登場人物たちが突飛な行動を起こすのは、刑事ものや医療もの、あるいは『今日から俺は!!』や『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(ともに日本テレビ系)のように物語の枠組みや設定が突飛なものだけである。このような背景の中で、日常の会話に着目したドラマが増えてきたということなのだろう。

 おしゃべりは他人とかかわることであり、かかわろうとする意志でもある。満はニートだけど家族とは積極的にかかわろうとするし、也映子は結婚が破談になって傷ついていたが幸恵と理人には臆せずに話しかけていた。創楽は中弥とのおしゃべりを支えにして、希央(モトーラ世理奈)を助けるために立ち上がることができた。スマホやSNSでコミュニケーションが完結しがちな昨今ではあるが、だからこそ今後もおしゃべりを通して人と人とのかかわりや感情の細やかな機微を描き出そうとするドラマは増えていく予感がする。

(大山くまお)

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