年老いた人々の顔だけを撮った珍しいドキュメンタリーだ。監督は『愛情萬歳』（1994）などで知られる台湾のツァイ・ミンリャン。彼の映画の常連であり、彼の分身ともいえるリー・カンションもいるが、残りはすべて市井の普通の人たちである。クロースアップで撮られた人間の顔については、90年以上も前に映画理論家、ベラ・バラージュが適確な洞察を加えているが、変化する独特の表情や眼差し、刻まれた皺などに当人の人生が刻みこまれていて、そこにはドラマが見え隠れする。ただしここでは、ある人は身の上話をし、またある人はハーモニカを吹いてカメラに向き合うことで自らの人生を演出している。この映画を観ると、鏡に映る自分の顔を見ながら、思わず人生を振り返らざるをえなくなるだろう。