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星野源「うちで踊ろう」はなぜ一大ムーブメントとなったのか? 3つのポイントから考察

リアルサウンド

20/4/12(日) 13:00

 星野源がInstagramに投稿した「うちで踊ろう」が大きなムーブメントを巻き起こしている。

(関連:星野源にとって“弾き語り”という表現が持つ特別さ 歌うたいとしてのルーツから考える

 ことの発端は4月2日の深夜、星野源が自身のアカウントに投稿した約1分ほどの弾き語り動画から始まった。動画には「家でじっとしていたらこんな曲ができました」「誰か、この動画に楽器の伴奏やコーラスやダンスを重ねてくれないかな?」との文言が添えられ、フォロワーに投稿への参加を呼びかけた。すると瞬く間にハッシュタグ「#うちで踊ろう」に国内外問わず自作の動画が投稿されていく。

 投稿された動画はコーラスを重ねたものから、歌に合わせて踊るものまでさまざま。すぐにこの動きは他のSNSへも波及し、TwitterやTikTok、YouTubeといったサービスでも見られるようになる。著名人の投稿も相次ぎ、もはや社会現象と呼べる規模にまで膨れ上がった。

 こうした状況を受けて彼は7日深夜、自身のラジオ『星野源のオールナイトニッポン』でこの動画を投稿した経緯について語った。

「家にいましょうとか、外に出るなということではない曲を作りたいと思ったんです」

「家の中で楽しくなれる、面白がれる”仕組み”を作りたいなと思って。そういう”仕組み”を作りたいという気持ちと、歌を作りたいなという気持ちをドッキングさせて、そのどっちも出来るようにしたのが『うちで踊ろう』という曲」

 今回の投稿に対する反響はInstagramだけでも3日で1万の投稿を超え、その勢いは日に日に加速している。

 2020年の音楽業界における最大のトレンドになりつつある「うちで踊ろう」。なぜここまで大きな広がりを生み出せたのか、いくつかのポイントを整理しておきたい。

(1)誰でも参加できる”敷居の低さ”

「歌とかコーラスとか、音とか好きに重ねて下さい。ダンスでもいいし、イラスト化してもいいし、アニメを重ねてもいいし、この動画を好きに使ってほしい」(同ラジオ番組より)

 と本人が言うように、なにかを”重ねる”という行為は誰もが可能なアクションだ。加えて、許可も連絡も不要とあらば、多くの人びとが気軽に参加できる。なんなら自撮りを貼り付けるだけでもいい。その”敷居の低さ”が参加意識を高めたのだろう。

 昨今注目されているVTuberからもバーチャルセッションと称した投稿が続いているようだ(参考:MoguLive)。“歌ってみた”や“踊ってみた”風に言えば、この企画はいわば”重ねてみた”。その方法は無限大である。

(2)”自粛”のイメージを覆すポジティブなコンセプト

 今回の新型コロナウイルスによって人びとに要請されている”外出自粛”。この”自粛”という言葉は、ともすれば”我慢”や”節約”といったある種の修行のようなイメージに結び付きかねない。しかし、そうした”自粛”にまとわりつく辛いイメージを「うちで踊ろう」は見事に払拭する。

「家にいても、どれだけ離れていても、僕らはこういう風に面白がれるという仕組みになるんじゃないか」

「病院関係者の方とかが、朝仕事に出てヘトヘトで夜帰ったときに、素敵なアレンジが上がっていたらその時間を楽しみに出来るだろうし」

「それこそずっと家にいる人たちは、”いま”、”ここ”で、みんなと一緒に自分が思う面白いことをやれると思った」

 家にいても面白いことができるというこうしたポジティブなコンセプトこそが、多くの人びとを呼び込んだように思う。おそらくこれがもし、”外に出るな”という強いメッセージソングだったとしたら、ここまでの規模には至らなかっただろう。まさに発想の転換と言ったところだ。

(3)星野源の持つ力

 こう言ってしまうと元も子もないが、星野源本人のタレントパワーの強さもある程度このムーブメントの一助になっただろう。しかし、では、他の著名な音楽家が同じことをやっても同様の現象が起きたかと言われれば、決してそうではないはず。彼の醸し出す親しみやすいアーティスト像や押し付けがましくないイメージ、そして一種の庶民的な感覚が人びとを引き寄せたのだと思う。

 豪華な機材によるハイクオリティの演奏ではなく、自宅でiPhoneで撮ったという今回の動画は、かえって人びとの協力したいというモチベーションを駆り立てている。さらに歌や楽器の演奏ができなくとも、それぞれが好きなスキルを持ち寄ればよい。

 また、今回の盛り上がりに一役買った渡辺直美や高畑充希、三浦大知や宮野真守といった人気番組『おげんさん』のファミリーたち、そして大泉洋やバナナマンといった音楽業界だけにとどまらない繋がりがムーブメントの火を加速させたのは言うまでもない。音楽活動だけでなく、俳優業などもこなす彼だからこその結果とも言えるだろう。

 星野源と言えば「恋ダンス」のブームが記憶に新しい。多くの日本人にとって、彼を見て一番に思い出すのが「恋」だろう。思えばあの曲も人と人の交わり、あるいは”距離”の歌だった。

 「うちで踊ろう」に参加している人の中には〈一人を超えてゆけ〉と歌い踊った、数年前の記憶を重ね合わせている者もいるかもしれない。それを考えれば、今回の「うちで踊ろう」のブームは「恋」の頃から一貫していた彼の姿勢が生んだ成果とも言えよう。

 2020年に訪れた世界的な危機。人類に襲いかかるウイルスの脅威は、人体のみならず、人との接し方にまで及んでいるように思う。こうした困難な状況を乗り越える”アイデア”こそ、いま私たちは求められているのだろう。(荻原 梓)

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