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いま、最高の一本に出会える

ロマン・デュリス

フランスから世界的名優へ。ロマン・デュリス、新作でシングルファーザー役を熱演

ぴあ

19/4/23(火) 12:00

セドリック・クラピッシュ、フランソワ・オゾン、トニー・ガトリフら名監督たちの映画の主演を飾ってきたロマン・デュリス。今や本国フランスのみならず世界からオファーを受ける彼が新たな主演作ではベルギー出身の新鋭監督とタッグを組んだ。

その映画『パパは奮闘中!』は、まだ40代に突入したばかりの新鋭ギヨーム・セネズ監督による1作。ベルギーとフランスのふたつの国籍を持つ彼は2015年に発表した長編デビュー作『Keeper』がトロントやロカルノなど70を超える映画祭に招待され、20以上の賞を獲得した。今最もヨーロッパで注視される若手監督のひとりといっていい。

実はデュリス、『Keeper』を観ており、作品を気に入っていたそう。そうしたこともあって、出演はふたつ返事で受諾したという。「シナリオが完成する前に話がきたんだけど、『Keeper』を観て、一緒に仕事をしてみたいと思っていたから、出演は即断だった」

セネズ監督の演出は、出演者にシチュエーションのみを伝え、その状況に身を置いた役者が自ら言葉を探して発するという、いわゆる即興。ここにこそ心を惹かれたと明かす。「『Keeper』では、俳優たちがひじょうに自由なスタイルで演技をしていた。それを知っていたから監督から“次も同じスタイルでやりたいと思っている”と言われた時は、願ったり叶ったりというかな。一気にモチベーションが上がった。もし、スタンダートなスタイルでという話だったら断っていたかもしれない」

実際、このセリフなしという演出方法での撮影をこう振り返る。「自分にとって初めての体験だったことは確か。ただ、戸惑いはなかった。というのも、僕はそもそも自分の演技メソッドを持ち合わせていない。変な話、撮影がしばらくなくて、現場から離れてしまうと、“どうすればいいんだっけ?”となるぐらい自分の中に確固たる演技メソッドがない。どちらかというと現場で、監督とのディスカッションなどを経て、彼らが理想とする人物像になるように臨機応変に対応していくタイプでね。ひとつのメソッドに従って演技することはすごく苦手。だから、今回も現場に身を置いて感じるままにやるだけ。そして、ありがたいことに、僕が主人公のオリヴィエになりきれる条件がきちんと整えられていたんだ。たとえば通常は1週間に仕事は5日のみなんだけど、今回は6日で。しかも自宅から離れた地方での撮影だったので、パリに戻ることなくオリヴィエの生きる街で多くの時間を過ごすことができた。オリヴィエの生活環境に身を置くことで、彼が抱く喜怒哀楽の気持ちが自分の中に沁みこんでくる感じでね。オリヴィエとして想像できる時間を得たことで、すごく自然に彼から出てくるものを表現できた気がするよ」

演じたオリヴィエはオンライン販売の倉庫で働く労働者。ある日、何の前触れもなく妻が家を出てしまったため、彼はまだ幼い子どもふたりの育児と家事、そして仕事とすべてこなさなくてはいけなくなる。そんな苦境に立ったオリヴィエの姿を通し、現代の家族の肖像といつの時代でも変わらない父と子の深い愛が描かれる。

「オリヴィエの妻は、理由がわからないままいなくなり音信不通となる。通常、夫婦といのは別れるにしろ、よりを戻すにしろ、いくつかの段階を経て結論を出すもの。ところがこの物語の妻は不意にいなくなる。ある意味、これほど暴力的な失踪というのはないんじゃないかな。残された方としてはなにをしていいかわからないよね。ほとんどの人は途方に暮れるんじゃないかな。僕も子どもを持つ父親だから、同じ境遇になったらと想像したけど、こんな状況に放り出されたらやはり大変。子どもときちんと向き合い、仕事にも支障をきたさないと断言できない。だからこそ、すべてをクリアできたらヒーローだよね。オリヴィエは試行錯誤しながら、なんとか光明を見い出す。だから、ヒーローといっていいんじゃないかな」

作品は、オリヴィエの姿を通し、現代の家族の肖像といつの時代でも変わらない父と子の深い愛を描き出す。心に残るシーンがいくつもあるが、中でもオリヴィエと子どもとの自然なやりとりがとりわけ印象深い。

「自分自身に子どもがいるということにも助けられてのことだと思うけど、子役のふたりとはほんとうに自然に親子になれた。別にとりたてて何かしたということはないんだ。演技指導はないので、彼らの生の声に対応していくしかなかったんだけど、ふたりともに心をオープンにしてくれていて心と心で演技をすることができた。すばらしい時間だったよ」

セドリック・クラピッシュ監督に見出され『青春シンドローム』でデビューしてから25年あまりが経つ。当時はここまで俳優を続けるとは思わなかったという。「もともと美術学校の生徒でイラストレーターとして生計を立てられたらと思っていた。それがたまたま出会いがあって、俳優としてデビューすることになったんだよね。ただ、よくよく考えると僕は学校でばかなことばっかりやっているおちゃらけた生徒でね。人を面白がらせることがとても大好きだった。だから、コメディアン的な資質があったんじゃないかな。だから、この仕事の面白さに気づいて、ここまで続けられている気がする」

これからもいい意味で何ものにも染まらず、まっさらな状態で俳優を続けていきたいという。「毎回、新しい物語が来て、そのたびにまっさらでいたいというか。まるでこれが自分にとって最初の作品のようにフレッシュな気持ちで取り組むことを心掛けているんだ」

ある意味、キャリアは彼にとっては邪魔なのかもしれない。「もちろん自分のキャリアは大切なもの。でも、そこに胡坐をかきたくはない。それよりも先を見ていきたい。キャリアが役立つのは、そうだな、たとえばリドリー・スコット監督の『ゲティ家の身代金』に出演したけど、あれだけの巨匠の映画の現場だから、ナーバスになりますよ。上がってしまったりもする。でも、これまで数々の現場を経験してきたことで、多少あがっていても、自分をうまくコントロールしてそれを力に変えることができる。僕は、キャリアが生かせるのはそれぐらいでいいと思っているんだ」

『パパは奮闘中!』
4月27日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

取材・文・写真:水上賢治

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