春日太一 実は洋画が好き
“外れ”のない監督、ジョン・バダムが観客を楽しませることを徹底的に貫いた『ブルーサンダー』
毎月連載
第27回
『ブルーサンダー』 (C)1982 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
10代になるかならないかの頃、映画について本格的に興味をもつにつれて、“映画監督”という存在が気になるようになった。
『スクリーン』『ロードショー』といった映画雑誌を読んだり、あるいは自分で作品を多く観るようになったことで、「どういうことをする役割なのかはよく分からないけど、監督によって映画の出来は大きく異なる」ということが理解できてきたのだ。そして、気づいたら“監督”でも映画を追うようになる。
といって、それは作家として際立っていたり、カルト的な人気を得ているようなタイプの監督たちではなかった。
たとえば『グーニーズ』や『リーサル・ウェポン』シリーズのリチャード・ドナー、『ランボー/怒りの脱出』『コブラ』『リバイアサン』のジョージ・p・コスマトス、『ダイハード』『レッド・オクトーバーを追え!』のジョン・マクティアナン、『デルタ・フォース』『オーバーザトップ』のメナヘム・ゴーラン……。
ビデオショップで単独のコーナーが作られることはないし、後年になって作家的に掘り下げられたりすることもあまりないが、「この人の撮った映画は確実に面白い」と思わせてくれた監督たちだ。彼らによって、面白くて楽しくてワクワクしてハラハラドキドキして……と、娯楽としての映画の魅力を教えてもらった。
娯楽映画としての面白さで右にでるものはいない“監督”
そして、なんといってもジョン・バダムだ。先月の『ハード・ウェイ』を久しぶりに観て、改めて思った。なんと面白い映画を撮る監督なのだろう……と。純粋な娯楽性のみの観点でいうと、今の映画界、世界中どこを観てもここまで面白い映画を撮れる監督はそういないのではないだろうか。それほどまでに、ワクワクさせてもらえた。
とにかく、ジョン・バダムの映画には“外れ”がなかったような気がする。『サタデー・ナイト・フィーバー』『ウォー・ゲーム』『ショート・サーキット』『張り込み』『ニック・オブ・タイム』……どれもこれもがカラッとした面白さに貫かれていた。
そして、なんといっても『ブルーサンダー』。最新鋭ジェット・ヘリを駆使するロサンゼルス航空警察ヘリ部隊の活躍を描いた、最高にゴキゲンなアクション映画である。
冒頭から素晴らしい。夜の街をヘリでパトロールする場面を通して、ところどころ笑いやお色気を入れながらのアクション描写と、操縦する主人公・フランク(ロイ・シャイダー)のベトナム戦争時のトラウマを挿入。ワクワクと楽しみながらグイッと作品世界に引き込まれつつ、登場人物たちのキャラクターや関係性もはっきり際立つ。エンタテインメント作品として、この上ないスタートだ。
ロサンゼルスでのオリンピック開催にともなうテロ対策のために開発されたヘリ“ブルーサンダー”の登場シーンもかっこいい。夕日をバックに威風堂々と現れ、「とんでもない奴が現れた!」という高揚感を与えてくれる。そこからの性能を見せつけるテスト攻撃の場面も、圧巻。その攻撃性の高さをまざまざと見せつけられる。
このテストで操縦に失敗したパイロットのコクラン(マルコム・マクダウェル)が実はフランクとベトナムで因縁があるという設定も、この後の展開への不穏な予感満々で、実に盛り上がる。ちょっとした家族団らんの場面もカーチェイスっぽいアクションが入り、片時も飽きさせない。主人公に厳しく当たりながらもここ一番ではハッキリと盾になる上司を演じるウォーレン・オーツの叩き上げ感もステキだ。
そして最後はブルーサンダー対F16戦闘機からのブルーサンダーVS軍用ヘリ。ロス市街上空や高層ビルの合間を縦横に使っての空中戦は、とてつもないド迫力である。しかも、カーチェイスも前座にしての大サービスぶり。
観客を楽しませる……。そのことを徹底的に貫いたジョン・バダム演出の魅力を、存分に味わうことができる。
関連情報
デジタル配信中
Blu-ray 2,381円(税別)/DVD 1,410円(税別)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(C)1982 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
プロフィール
春日太一(かすが・たいち)
1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』『仁義なき日本沈没―東宝VS.東映の戦後サバイバル』『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代』など多数。近著に『泥沼スクリーン これまで観てきた映画のこと』(文藝春秋)がある。