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『あゝ無情』は一番“面白い”ドキュメンタリー映画に 第2期BiS解散を通して見えたWACKの精神性

リアルサウンド

19/10/31(木) 16:00

 BiSH、BiS、GANG PARADE、EMPiRE、WAggが所属する芸能事務所、WACK。毎年合宿形式による1週間のオーディションを開催しており、2018年にはドキュメンタリー映画『世界でいちばん悲しいオーディション』が公開された。

 ところが、2019年11月1日に公開される『IDOL-あゝ無情-』では異変が起きている。昨年同様に壱岐島で行われたオーディションの模様を追い、昨年同様に岩淵弘樹が監督をしているのだが、内容には大きな違いがある。オーディションを撮っていたはずが、『IDOL-あゝ無情-』は途中から第2期BiSの解散ドキュメンタリーへと変わってしまうのだ。奔流に誰もが抗えないかのように。

 誰も予測していなかった状況を記録している、という点において、『IDOL-あゝ無情-』は正しく「ドキュメンタリー」である。WACK社長の渡辺淳之介、監督の岩淵弘樹、そしてオーディションに参加したGANG PARADEのヤママチミキは何を見たのか、話を聞いた。(宗像明将)

●岩淵「この合宿には感情が渦巻いている」

——『IDOL-あゝ無情-』は、蓋を開けてみたら第2期BiSの解散ドキュメンタリーじゃないですか。渡辺さんは、BiSがオーディション中に解散に向かうことは予想していましたか?

渡辺淳之介(以下、渡辺):半年ぐらい話し合いをしていて、解散は決まってたんです。でも、発表する時期があそこではなかった。彼女たちが解散を覆すっていうんで、「じゃあ合宿が終わってからもう一回話をしようか」っていう状況だったんですよ。

——岩淵さんは、そういう状況を聞いていたんですか?

岩淵弘樹(以下、岩淵):いや、聞かないようにしてました。オーディション3日目にBiSのメンバーの方たちが来て、渡辺さんとのやり取りを見ていくなかで、候補生たちの話よりも濃度が高かったので、そっちに密着しなきゃと思って。関係者の皆さんの話を集めながら、過程を追っていった感じです。

——ヤママチさんは、そもそもなんで合宿へ行くことになったんですか?

ヤママチミキ(以下、ヤママチ):な……なんででしょうか(笑)。

渡辺:なんとなく。

ヤママチ:「自分の番がそろそろ来るな」とは思っていたんです。多少の覚悟はずっと持ち続けていました。

——こういう映画になるのは予想はついていましたか?

ヤママチ:いや、ついてなかったです。できあがったやつを見たら「あっ、こういう内容なんだ」って、そこで初めて。

——合宿の頃のBiSの雰囲気を、ヤママチさんはどう見ていましたか?

ヤママチ:うーん、ずっと風の噂でBiSの状態を聞いていたし、合宿で戦力外通告を受けた4人(アヤ・エイトプリンス、YUiNA EMPiRE、トリアエズ・ハナ、ムロパナコ。合宿で脱落した場合、BiS脱退と決まっていた)とずっと過ごしていくなかで、「あまり良い状態ではないんだな」っていうのはずっと感じていました。

——渡辺さんと岩淵さんから見て、オーディション参加者としてのヤママチさんはどう見えました?

渡辺:ヤママチは他の合宿参加メンバー以上に自分のロール(役割)を全うしようとしていたし、一番必死だったんじゃないんですかね。野菜を食えないんで。

ヤママチ:(苦手な)野菜も食べました(笑)。

渡辺:だから「食えんじゃん」って言って。

ヤママチ:食えない、死にそうでした(笑)。死ぬほどドレッシングをかけて、味を変えることにしました。あとは飲み込むっていう(笑)。

渡辺:合宿は勝ち残らなきゃいけないし、そのロールがちゃんとわかってるので、「無理をしてでも残らないと意味がない」っていうのを彼女なりに表現してくれてたんじゃないかなと思います。

——ヤママチさん自身は、自分のロールはどういうものだと思いましたか?

ヤママチ:やっぱり合宿の期間だけは「私=GANG PARADE」って見られるので、その責任はしっかり負わないといけないっていうのがありました。

岩淵:見ていて、弱さや不安もあるけど隠して、積極的に候補生たちに向かっていたので、「ちゃんとしてるな」と思いました。

——今回、この映画で私が一番胸を打たれたのは、元BiSのムロパナコさんが壊れていく過程なんです。ムロパナコさんが最後の夜、BiSが解散するかどうかのメンバーだけの話し合いの場で「これ以上やったら自分が壊れる」って言いはじめて、泣き果てた姿で「ここまで諦めないでやったことに何の意味もない」って言っていて。あのメンバーだけの話し合いの光景の撮影はどなたですか?

岩淵:そこはエリザベス宮地くんとバクシーシ山下さんに任せました。ドキュメンタリーを撮れるふたりだから、ちゃんと物怖じせずにカメラを向けられると思ったので。

——ああいう被写体の子たちに感情移入することはないんですか?

岩淵:女性のカメラマンを今回は連れていったんですけど、脱落が決まって泣いている女の子たちを見てたら感情移入しちゃって、カメラ持ちながら泣いちゃったりして、渡辺さんにも感情的に「なんでこんなことするんですか」とか聞きにいったりして、カメラマンとしての職務がちゃんとできなくなっちゃっていたんです。この合宿って感情が渦巻いているので、そこに飲み込まれてしまうんだなっていうのは思いましたね。

——岩淵さんはそういう映像をフラットに見られますか?

岩淵:はい。徐々に大人になっていったので。

——大森靖子さんの映画(2014年の『サマーセール』)の頃は?

岩淵:全然できてないですね。だんだん冷静になってきました。去年の『世界でいちばん悲しいオーディション』は、自分的にやっと“ドキュメンタリー”が作れたなって思いました。

——人としての感情を捨てる部分もあるでしょうか?

岩淵:うーん……撮影上、言葉を引き出すために見せなきゃいけない感情というのあると思うんですけど。一番大事なのは映画を作ることなので、そのためのプロセスをやるべきだと僕は思っていましたね。

——ヤママチさんの目には、こういう岩淵さんはどう映ります?

ヤママチ:いや素晴らしいと思います。自分の職業に誇りを持っているからこそ言えることだと思うし、愛があるからこそ言えることだと思う。

●渡辺「彼女たちはBiSが好きじゃなかった」

——渡辺さんは、映画にもう何本も出演しているじゃないですか。映画での渡辺さんって、純粋に渡辺さんなのか、演じてる部分があるのか、どっちだと思いますか?

渡辺:やっぱり自分であって自分じゃないというか。台詞を作ってるみたいな感覚はあるかもしれないですけどね。基本的には本心で言ってるんですけど、「面白くさせないといけない」って考えるので、「今面白くないな」と思ったらやっぱり変えなきゃいけないっていう、強迫観念めいたものはありますね。

——解散するかどうか、BiSメンバーだけで話し合った映像を後から見て、渡辺さんはどう思いましたか?

渡辺:絶望しましたね(笑)。半年ぐらいメンバーと話し合いを重ねてきて、「もう解散しかないんじゃない?」という話だったんですよ。メンバーが口々に「9人でBiSだ」って言うんですけど、あの話し合いを見てて、「9人でBiS」な感じがしないじゃないですか。本当に9人でやりたかったら、どうやってここから渡辺を説得して、もう一回9人いるBiSをやるのかっていう建設的な話をする場じゃないですか。だから、彼女たちはBiSが好きじゃないんですよ。あるものを奪われるのが嫌なだけなんですよ。

——BiSが好きじゃないというのは、具体的にはどこで感じたんですか?

渡辺:自分たちのことしかしゃべんないじゃないですか。「BiS返そうよ」とかそういう話じゃないはずだし、「BiSを返す」なんて言葉がプー・ルイから出てくるわけがないから。普通に考えたら、カメラも回ってて、映像が世に出るんですよ。だったら、その後につながるような話をしなきゃいけないのに、誰もしてないじゃないですか。「あたしたち、みんなに嫌われてなーい?」みたいな話なんて、甲子園に行こうと言ってる野球部が「なんでこんなに練習しなきゃいけないんだろうね?」って言ってるのと同じなんですよね。甲子園に行く野球部は「もっと練習するにはどうしたらいいんだろう? どうやったら勝てるんだろう?」っていう話になると思うんです。だから「意味わかんねえな」って思いました。

——BiSがあんな状態になっている間、ヤママチさんは何をしていたんですか?

ヤママチ:……何してたんですかね? 寝る準備してたんじゃないかな?(笑)

渡辺:最終日で結果を待つだけなので、候補者もやることないもんね。

——岩淵さんからしたら、撮っている間にメンバーが解散を決めるわけじゃないですか。あの間はどんなことを考えていましたか?

岩淵:編集するときのために、なぜ解散になるのかっていう、人の証言を集めておきました。オーディション中は、渡辺さんの考えていることを読まなきゃいけないので、ずーっと集中して、今合宿所で何が起きているのかっていうのを想像しながら、そこにカメラを持っていくという感じだったんです。だから、あっち行ったりこっち行ったりしてました。

——渡辺さんに「今どういう状況なんですか?」って聞く余裕もない?

岩淵:渡辺さんも、BiSがどうなるかわからないわけですから。明日のことが何もわからない状況で動いているので、とにかく現在をちゃんと撮らなきゃっていう感じでした。

——渡辺さんは、BiSメンバーによって話がひっくり返ると思っていましたか?

渡辺:いや、「本当に9人でやりたいんだったら勝手にやれば?」って思って、僕は僕で新しいBiSを作ろうと思っていただけなので。「9人でBiS」って、たぶん同調圧力で言わされてた奴がいるんですよ。ぶっちゃけやりたくない奴もいたと思うんです、言い出せなかっただけで。既得権益を守ろうとする同調圧力に負けてただけなので、「全然まとまってないじゃん」って。「このBiSは、どの社員に押しつけようかなー」みたいな感じでした。

——そんな渡辺さんの姿は、ヤママチさんの目にどう映っていましたか?

ヤママチ:うーん……渡辺さんでしかないというか(笑)。どのグループにも愛情を注いでくださる方なので、「なんか今BiSに取られてる」みたいな感じというよりかは、「大変そうですね……あー……」っていう感じの気持ちでした。

●映画の中に刻まれたWACKの精神性

——渡辺さんは、第2期BiS解散の赤坂BLITZで、メンバーのMCに「くっだらねえこと言いやがってバカ」ってずっと文句を言っていましたね。

渡辺:「最後まで理解しないで去っていくんだな」って。「ざまあみろ」とか何言ってるんだろうな、「いや、おまえがざまあみろだろ」って。

——今回の映画を、第2期BiSのファンが見たら激怒するかもしれないですよね。

渡辺:刺されるかもしれないですね(笑)。でも、良識的な大人が見たら、どう考えても彼女たちと一緒に仕事をしたくないと思うので、「わかるんじゃねえかな」とは思ってますけどね。まあでも、これが別に解散の真相ではないというか……遅かれ早かれこうなるであろうものを、ちょっと早めに僕が閉じたというだけなので。YUiNA EMPiREは、今何もなかったかのごとくCARRY LOOSEとかやってますけど、あのときは「アイドルなんかやらない、みんな信用できない」とか言ってたじゃないですか。なのに、今は「信じてやっていこうね!」みたいな(笑)。あのときのあの子たちは、本当に関わり合いになりたくないぐらい負のオーラを放っていて、解散発表するまでツアーも売り切れなかったわけですよ。だからお客さんももうわかってたんですよ、楽しそうじゃないって。

——映画の中で、BiSとGANG PARADEは、集まったときに雰囲気が真逆に見えたんですよ。ヤママチさんから見て、何が違ったんだと思いますか?

ヤママチ:うーん……なんでしょうね……?

岩淵:ちょっと先にいいですか? アヤさん(アヤ・エイトプリンス)の脱退が決まったときに、東京に残っていたBiSのメンバーは「はあー……」みたいな感じだったんですけど、カミヤさん(カミヤサキ/GANG PARADE)だけ心配して泣いてたんです。だから合流したときに、アヤさんに「大丈夫だった?」って言ってたんですけど、そういうのがBiSの人たちはなかったなーと。

渡辺:何が違うのかって言うと、圧倒的に違うのは、BiSが好きじゃないんですよ。ギャンパレは「ギャンパレ=自分」なんですよ。BiSHは「自分たちがBiSHだ」って思ってるし、第3期BiSも「自分たちがBiSだ」ってすごくちゃんと思えている。僕も初期BiSをやってるときは「BiSのためだったら、俺、死んでもいい」と思ってたから、そういう覚悟がたぶんないと思うんですよ。とにかく俺が一番悲しかったのは、俺が一番好きなBiSなのにも関わらず、彼女たちがすごい軽いものとして扱っていたこと。それが許せなかった。

——ヤママチさんとしては、この映画を見て、あのオーディションってどういうものだったと思いますか?

ヤママチ:オーディションというものは候補生があるから成り立つもので、本当はBiSの物語にはならないはずだなって思って。そう考えると、第2期BiSって「BiS」っていう存在ではなかったのかもしれないというのはすごい思いました。

——この映画になった一連の出来事を経て、エンタメ業界で生きていくための教訓みたいなものはあるでしょうか?

渡辺:あるんじゃないんですか? BiSの違う未来としては、松隈ケンタ(サウンド・プロデューサー)が「いや、俺は曲書こうかな」って言ったり、外林健太(カメラマン、衣装デザイナー)が「やっぱり俺はBiS好きだから撮るよ」って言ったりするのもあったと思うんですよ。でも、自分のことしか考えられてないと、周囲に好きになってもらうこともできなくなる。一番近くにいる大人たちも諦めちゃったんですよ。結局、お客さんがいるいないは関係ないんですよね。一番人気だろうがなんだろうが、一番近くの大人たちに好かれないと、結局アイドルはやっていけないと思います。まぁ普通の大人たちはそこまで言わないで、ニコニコしながら「ちょっといろいろあってねー」とか言いながらなぁなぁに終わらしていくんだと思うんですけど。

ヤママチ:やっぱり周りの方に好かれるっていうのは、すごい難しいことではあるんですけど、一番重要だって、活動していくなかでずっと思ってきたし、渡辺さんからも常々言っていただいてきたんです。そこは映画を通して改めて感じることができました。

——オーディションの期間を通して、何か気づいたことはありますか?

ヤママチ:思っていた以上にメンバーに頼りまくってたなって。合宿で自分が「こうしたほうがいいんだよ」って候補生にアドバイスするっていうのも、ギャンパレで活動していたら私はサキちゃんに任せていた部分が多かったので。

——岩淵さんは、このオーディションを撮ってみて感じたことはあるでしょうか?

岩淵:WACKっていうものが巨大になっていって、今年の合宿はスタッフ投票とかもあったんですよ。渡辺さんが「下の者に判断を委ねていかなきゃいけないんですね」っていう話を最初の頃はしていて、「そういう話になるのかな?」とか思っていたんですよ。でも、結局一番大事なところは渡辺さんが判断はしていかなきゃいけないんだなって。そういう決断をみんなしていて、決断できてない人はあまり良い結果にならなかったのかなーと。

——渡辺さんから見て、この映画はWACKの歴史の中でどういう位置づけになると思いますか?

渡辺:今まで作ってきた中で、間違いなく一番面白い映画。最後のメンバーの「なんか私たち誰にも好かれてなくない?」という言葉は、自分に原因を求めてないじゃないですか。WACKは、嫌われながらも好かれる努力をしていくし、振り向いてもらうためには変なこともしていかないといけない。だから僕としては、見るたびに自分も気を引き締めなきゃなって。

——ヤママチさんから見て、この映画の中にWACKの精神性みたいなものはあると思います?

ヤママチ:あると思います。渡辺さんが話してくださっていることがすべてだと思うので。

渡辺:僕の発言の精神論的な部分は変わらないんですよ。嘘はいっぱいつきますけど(笑)。

(取材・文=宗像明将/写真=池村隆司)

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