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いま、最高の一本に出会える

波瑠、中川大志、松下由樹のリラックスした空気感 『G線上のあなたと私』仕事と恋愛以外の幸せ

リアルサウンド

19/10/16(水) 12:00

 「バイオリンを弾いてみたい。あの曲、弾きたいって思った、あの感情以外、前に進めるものが、何もないんです」

参考:『G線上のあなたと私』は大人にエールを送る作品に 世代も環境も異なる3人が音楽と向き合う

 火曜ドラマ『G線上のあなたと私』(TBS系)が、いよいいよ幕を開けた。原作は、いくえみ綾の同名漫画。そして主演を務めるのは波瑠、とくれば同じく火曜ドラマで制作された『あなたのことはそれほど』(通称、『あなそれ』)を思い出す方も少なくないはず。

 本作は『あなそれ』のスタッフが再集結している。主演女優、そして原作漫画の活かし方を十分に心得ているチームだけに自ずと期待も高まる。そんな制作陣への信頼感からだろうか、波瑠の演技は主人公・也映子のキャラクターも相まって、実に清々しくサッパリとした印象。いい意味で肩の力が抜けた自然体な雰囲気に、共演者たちもリラックスして、コミカルな掛け合いを見せている。

 人の内側へ内側へとジリジリと掘り下げていく、いくえみ綾漫画らしさはしっかりと感じられながら、軽やかな会話劇が火曜の夜に見るドラマとしてはちょうどいい心地よさ。また、『あなそれ』で不倫相手を演じた鈴木伸之が、本作で再び恋愛関係に問題を感じるキャラクターを演じているのも、もしかしたら火曜ドラマファンへの目配せかもしれない。

 物語の舞台は、大人のバイオリン教室。結婚直前にフラれた元OLの也映子(波瑠)、兄の元婚約者に恋心を寄せる大学生の理人(中川大志)、姑との同居に夫の不倫と悩みの尽きない日々を過ごす主婦・幸恵(松下由樹)。それぞれの生活の中では、決して出会うことのなかった男女3人が、バイオリンを通じて新たな友情を育んでいくというストーリーだ。
結婚は破断になり、仕事も寿退社の体裁を保ったまま辞めてしまった也映子。これから何を目的に生きたらいいのか、呆然としていたときに聞こえてきたのが、バイオリン講師・眞於(桜井ユキ)の弾く「G線上のアリア」だった。これからプロを目指すわけでもない。お金だって余裕があるわけではない。ただ純粋に弾けるようになりたい、そう思った也映子は大人のバイオリン教室の門をたたく。

 そして、たまたま同じ時間、同じ場所に居合わせた幸恵もまた「私も同じよ。バイオリン弾いてみたいって思ったの。あのときここで。今まで一度もそんなこと、思ったことなかったのに」と、日常を変えるきっかけをバイオリンに見出していた。

 「私、明日から、どう息をすればいいかもわからないほど、わたしにはもう、何もない」。也映子は、仕事と恋愛を一度に失うことで、生きる目的さえわからなくなってしまった。それだけ私たちの人生において、この2つの要素が占める割合が大きいのだと気づかされる。仕事と恋愛が充実していない=幸せではない。そう判断されてしまう時代が長く続いてきたからだろうか。

 だが、私たちは仕事でのステイタスや恋愛結婚以外にも、幸せを感じる瞬間があるのを知っている。それは「酔狂」と言われるくらい、好きなことに没頭できる時間。音楽、アート、グルメ、スポーツ、ゲーム、エンタメ……仕事や恋愛、結婚と違って、どれも生活に直結しているわけではない。

 しかしだからこそ、現実生活と少しだけ距離と取る大事な時間になる。いわば、仕事や恋愛に絶望したとき、すぐに溺れないための心のセーフティーネット。そこに、また新たな友情という繋がりができれば、より広い視野を保つことができる。

 「そんなに夢中になって何になるの?」と、ときには揶揄されてしまうこともあるかもしれない。そうやってからかう人は、きっとどこかで羨ましいのだ。自分にはない居場所(心のよりどころ)を見つけた人が。

 その感覚は、理人の恋愛をネタに盛り上がってしまった也映子と幸恵にも通じるものがある。10代のような勢い任せの恋愛をすることは、もう自分にはないだろうという少しの寂しさと、恥ずかしくなるほどの若さに人生の先輩として一言いってやりたくなる歯がゆさ。
そして「嫁が平日の夜にバイオリンを習い始めたと思ったら、お酒を飲んで帰ってくる」と、幸恵の姑が井戸端会議のネタにしているのも、また然り。自分が新たな場所に繰り出す勇気はない人ほど、皮肉っぽくなっていく。

 また、からかってくるのは他者だけではない。ときには自分自身の中から聞こえてくることも。「夢中になっても意味ない」「やるだけ無駄」などと、一歩踏み出す前に諦めさせようとする、もう1人の自分が出てくることもある。

 「やめなさい。2人とも! お互い、照れ隠しなのはわかってます」。そうした声が聞こえてきたときは幸恵が放った、この喝を思い出したい。「好き」「始めたい」「できるようになりたい」という自分の中に生まれたポジティブな感情は、あまりにピュアでまるで青春のように甘酸っぱい。それゆえに、大人になるほど恥ずかしく感じてしまうけれど、照れたりしなくていいのだ。

 そして、このドラマを「好き」になり、今シーズン「見たい」と思ったことも、また新たな青春の始まり。今はネットですぐに仲間も見つかる時代だ。偶然「好き」が重なった人と繋がって、思う存分この青春を謳歌してほしい。

(文=佐藤結衣)

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