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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

玉川奈々福の 浪花節的ココロ

偏屈上等~左甚五郎的なひとたち

毎月連載

第7回

19/6/7(金)

 東海道の掛川宿。宿の半ばの遠州屋はその名知られたご本陣。その前に一人の男が通りかかり、張り出してあった紙の前で立ち止まる。
 「近日尾張大納言様お宿に付、御常客様でも宿は一切お断り申し候」
これが男のカンに障った。
 「宿屋てえのは客を泊めるのが商売だ。徳川御三家の大大名が泊まるからといって客を泊めないのは生意気だ。よし番頭をからかって上がり込んでやろう」
 張り紙の文面も確かに傲慢だが、こういうお客に遭った番頭は災難。さんざんごねられ脅され翻弄された上、行燈部屋に泊める羽目に。
 折から表へまた一人、竹の杖をついたよぼよぼの老人。これまた張り紙の前で立ち止まる。やはりカンに障ったらしく、よぼよぼしながら入ってきた。番頭が立ちはだかる。
 「表の張り紙をご覧になりませんでしたか、尾張大納言様がお泊りになるんでどなたも泊めないんですよ!」
 「……ありがとうよ、それじゃあ早速上へ上げてもらおう」
 「だから……耳が遠いのかなあ? 誰も泊めないんだよ!」
 「はあ?」
 「尾張大納言様がお泊まりになるんだよ!」
 「わしも泊まるよ」
 「お爺さんは泊めないよ!」
 「今のところが聞こえない」
 さんざん翻弄されて、これも行燈部屋へ。

 この二人、宿屋が尾張大納言のため新築した新座敷に深夜に入り込み、金屏風に絵を描くは、床柱に大黒様を彫るは……せっかくの新座敷が、墨と木くずでべとべととなる。

 実はこの二人、名工・左甚五郎、そして絵師、狩野派の総帥・狩野探幽だった。

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