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スパイの妻

20/10/12(月)

(C)2020 NHK, NEP, Incline, C&I

黒澤「明」の『羅生門』が世界の喝采を浴び、日本映画の実力を知らしめた1951年のヴェネチア国際映画祭から69年、黒沢「清」監督の『スパイの妻』が同じヴェネチアで銀獅子賞を獲得した。国際映画祭における日本映画のプレゼンスの低下が言われて久しいが、日本映画にはまだ世界水準での力があるという希望を示してくれた。 それはそれとして、『スパイの妻』にはいくつもの驚きがある。ホラー表現で世界に知られた黒沢監督が本格的な近代史サスペンスに挑むという物語の外見もそうだが、実は「映画を映写する」という行為がこのドラマの鍵となっているのだ。戦前期にも、趣味として9.5mmフィルム(8mmフィルムの前に日本でも流行したフランス・パテ社のフィルム規格。戦時期の輸入停止以降、日本の愛好者はほぼいなくなる)で自作を撮っていた裕福なアマチュアがいたが(コスモポリタン都市神戸はその地に似つかわしい)、この映画はそうした青年たちの肖像でもある。 そしてそんな幸せなフィルムと、大陸から手に入った別のおぞましい映像を収めたフィルムが、すぐ隣に接続されているかのような怖さがこの映画には演出されている。現代のデータディスクにはない、光にかざせば画像が見えてしまうアナログフィルムの避けがたい物質性が、このドラマの根底には横たわっている。気品ある妻を演じてきた蒼井優が、今は使われない9.5mm映写機を必死になって操作する姿を、ぜひ目撃していただきたい。

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