Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

春日太一 実は洋画が好き

『グーニーズ』の少年にいったい何が!? いまだに悪夢に出てくる 『13日の金曜日 PART4 完結篇』

毎月連載

第32回

今では考えられない話だが、1980年代はホラー映画のショッキングな映像がテレビを通して日常的に流れていた。

劇場で新作のホラー映画が公開される際はテレビCMが連発される。悲鳴、おどろおどろしい声のナレーション、不穏なBGMに乗って怖い映像がいきなり飛び込んでくるものだから、小学生だった身からすると道端で通り魔に出くわしたような衝撃があり、その日は一日ずっと眠れなかったりした。

実際に観てみると緩かったりチープだったりして、意外とそうでもないこともあるのだが、CMとなると15秒とかの短い時間にその作品の最も怖いシーンを効果的に編集して見せてくるわけで、それは怖いに決まっている。子供なら、なおのことだ。

それから、毎日どこかの局でゴールデンタイムにやっていた洋画劇場の枠でも、特に夏になるとホラー映画はよく放映していた記憶がある。幾多のCMによりトラウマを植えつけられていたので、テレビ欄にホラー系の映画のタイトルを発見した時は、朝の段階からその局はつけないようにしていた。スポットCMでそのホラー映画の映像が流れる恐れがあったからだ。

恐怖よりコリー・フェルドマンへの興味が勝って、我が家でついにホラー映画が解禁!

そんな子供時代に、テレビの洋画劇場で観たホラー映画が一本だけある。それが『13日の金曜日4 完結編』だ。

TM & Copyright (C) 1984 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. Friday the 13th(TM) is a trademark of New Line Productions, Inc. All Rights Reserved. TM, (R) & Copyright (C) 2010 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

ホッケーマスクを被り、クリスタルレイクという湖畔のキャンプ場にやってきた若者たちを惨殺していく怪物・ジェイソンの恐怖を描いたシリーズの一本。本来なら絶対に避ける類なのだが、つい観てしまったのには理由がある。

『スクリーン』誌の「今月のテレビ放映作品紹介コーナー」を眺めていたらこの作品が飛び込んできた。そして主演のひとりである少年に目が留まった。それがコリー・フェルドマン。“映画好き”への道に誘ってくれた『グーニーズ』で主人公グループのひとりを演じた子役だ。彼が『グーニーズ』の前に出演した作品だったのだ。

驚いたのは、その記事に掲載されていたコリー・フェルドマンの写真だ。頭は丸坊主。どこか病んだような青白い顔をして、ナイーブな眼差しを真っすぐに向けている。その明らかに異様な表情に、魅入られてしまった。あの『グーニーズ』の少年にいったい何が……。気になって、たまらなくなっていた。それなら、この放映で観て確認するしかない。ジェイソンへの恐怖よりも、コリー・フェルドマンへの興味が上回った。こうしてついに、我が家のテレビにホラー映画が映る日が来たのだ。

前作のラストでジェイソンは死んだようで、その巻き起こした惨劇の現場を警察が収容するところから物語は始まる。

TM & Copyright (C) 1984 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. Friday the 13th(TM) is a trademark of New Line Productions, Inc. All Rights Reserved. TM, (R) & Copyright (C) 2010 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

最初の惨劇の舞台はジェイソンが搬送された病院。なぜか蘇ったジェイソンにより医者とナースが次々と血祭にあげられる。そのままジェイソンはクリスタルレイクへ。そして、近くのキャンプ場に陽気な若者たちがやってくる。

コリー・フェルドマンが演じるのは、キャンプ場の近くに母と姉と暮らすトミー。彼氏とイチャついたり、湖で裸ではしゃいだりする女の子たちにニヤつく程度にはマセている。当時はこちらもトミーと同年代。ホラー映画なことを忘れてトミーと同じくドキドキしながら観ていた。シリーズの法則を知っていれば、それがこの後の前振りでしかないことは分かるはずだが、今回が初めての身には何もかもが新鮮だったのだ。

TM & Copyright (C) 1984 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. Friday the 13th(TM) is a trademark of New Line Productions, Inc. All Rights Reserved. TM, (R) & Copyright (C) 2010 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

ただ、前半の楽しげなトミーと、あの写真のトミーが全く結びつかない。ジェイソンもなかなか現れず、若者たちの恋模様を中心に意外と牧歌的に過ぎていく時間に、いささか拍子抜けしていた。

そろそろ夜も遅くなり、眠気が……というタイミングでジェイソンによる大殺戮が始まる。といっても唐突な殺され方も多いため、CMを観て感じてきたトラウマ級の恐怖はなかった。その恐怖を避けてきたはずが、いつしか求めている。それこそがホラー映画の魅力だと気づいたのは、もう少し後になってのこと。

ジェイソンを上回るトミーの狂気に驚愕!

TM & Copyright (C) 1984 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. Friday the 13th(TM) is a trademark of New Line Productions, Inc. All Rights Reserved. TM, (R) & Copyright (C) 2010 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

若者たちが全滅してからの最終盤になって、恐怖はやってくる。暗闇にあってどこからジェイソンが現れるのか分からない恐怖。お化け屋敷と化した家の中を悲鳴をあげながら逃げ惑う姉。そして、ついに姿を現し追いすがってくるジェイソン。どこにも助けはない。それでも臆さず立ち向かう姉の奮闘ぶりも凄い。

で、姉がジェイソンと互角に近い死闘を繰り広げている間、トミーはなぜか髪を剃っていた。そして、姉が危機一髪の時に現れる。少年時代のジェイソンそっくりの見た目になって。トミーは特殊メイクが得意で、ジェイソンを精神的に錯乱させるためにそうしたのだ。

それが、まさにあの写真にあるコリー・フェルドマンだった。これのことだったのか……と驚いたり納得したり……ということはなかった。そこからの展開が強烈過ぎて、そんなことを考える余裕はなかったからだ。

トミーの変身からラストまでは数分しかない。が、そこでトミーが見せてくる狂気があまりに怖かった。それは、「ミイラ取りがミイラになる」ならぬ「ジェイソン殺りがジェイソンになる」といったところ。なまじトミーに感情移入していただけにひたすら戦慄するしかなかった。ジェイソンはトミーの狂気を見せるための“かませ犬”でしかなかったのだ。『スクリーン』がなぜジェイソンでなくトミーの写真をフィーチャーしていたのか、よく分かった。

ラストカットのトミーの顔が頭にこびりつき、いまだに悪夢に出てくる。

関連情報

TM & Copyright (C) 1984 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. Friday the 13th(TM) is a trademark of New Line Productions, Inc. All Rights Reserved. TM, (R) & Copyright (C) 2010 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

『13日の金曜日 PART4 完結篇』

DVD: 1,572円(税込)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント
TM & Copyright (C) 1984 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. Friday the 13th(TM) is a trademark of New Line Productions, Inc. All Rights Reserved. TM, (R) & Copyright (C) 2010 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
※2021年8月の情報です。

プロフィール

春日太一(かすが・たいち)

1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』『仁義なき日本沈没―東宝VS.東映の戦後サバイバル』『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代』など多数。近著に『泥沼スクリーン これまで観てきた映画のこと』(文藝春秋)がある。

アプリで読む