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みうらじゅんの映画チラシ放談

『樹海村』 『イルミナティ 世界を操る闇の秘密結社』

月2回連載

第54回

『樹海村』

── 今回の1本目は『樹海村』です。

みうら 以前の村の名は何でしたっけ?

── 『犬鳴村』ですか? この連載でも取り上げました。

みうら 失礼しました。“老いるショック”で観たのにパッと出てきませんでした(笑)。『呪怨』の清水崇さんですよね。今度はどんな村かってことですよね。『パラサイト』のチラシみたいに、これも目に黒線が入って、目消ししてありますね。

“犬鳴村”は、トンネルの向こうでしたけど、 “樹海村”ってのはどこなんでしょう? 青木ヶ原って書いてありますけど、樹海にも村がある? これは松本清張さんも気がついてなかったことですよ。そもそも樹海をそういう恐ろしいところにしたのは松本清張の小説『波の塔』からだと思いますが。でもそこに村があった。

となると、樹海の中で自殺する話じゃない気がしますね。むしろ、インディ・ジョーンズ的。樹海に村があった驚きの方がメインになるかもです。

── このチラシは見開きになっていて、内側は樹海の地図になってますね。

みうら 言うなれば、村の案内図ですよね。中には結構、陽気な感じの村人たちがいるんじゃないかな。樹海って、磁場の影響で方位計とかも狂うっていうじゃないですか。ここまではっきりした樹海の地図を見たのは生まれて初めてですもの。

道路も通ってる。当然、人が住んでるわけですから道もありますよね。

僕、去年の終わりくらいに新東宝の『九十九本目の生娘』っていう映画のDVDを買ったんですよ。かつて観たことあったんですけど、初DVD化って聞いてつい(笑)。岩手県の北上川上流にある、人里離れた村で恐怖の儀式が行われていて、迷い込んだ人が生贄になるんです。たぶんこの『樹海村』のチラシの目消しされてる人たちは、迷い込んだ人たちですよ。

── 迷い込んだのか、面白がって入っていったかのどちらかでしょうね。

みうら 若者はね、つい調子乗りがちですからね。「肝試しだ!」なんて樹海に入ったらなんと、そこには村があって捕まってしまい……。

── 見開きチラシの表面の絵には、首を吊ってる人が描かれてます。

みうら いや、吊ってますがね。これは村に入ってこないようにするための脅かし人形じゃないですかね? 映画はそうやって村に入れないように頑張ってる村人たちの、奮闘記なんじゃないですかね。

── まさかの村人視点(笑)。あの手この手で樹海から追い出そうとするお話ってことですね。

みうら そりゃ、いろんな方法で脅かしにかかるんだと思うんです。地図には野犬の群れも描かれてますけど、これは犬鳴村から動員された犬なんじゃないかと思うんですよね。

あと地図には“埋蔵金?”って書いてありますよね。きっと、徳川の埋蔵金がこんな所に埋まっていることを知られないよう守ってるんじゃないですか? だって、このチラシにはホラーとはどこにも書いてないですからね。「行ってはならない場所がある」って言ってるだけで。

── 確かにホラーとは限りませんね。チラシのイラストもちょっとファンタジー寄りというか、ファンシーな雰囲気ありますし。

みうら このイラストの男の子と女の子は、たぶん樹海村で生まれた子たちでしょう。次の樹海村を担う世代で、おそらく樹海第一小学校に通ってるんでしょう。

── 地図には女の子ふたりが倒れている姿も描かれています。

みうら きっと小学校の伝統で、日々こうやって脅かす練習をしてるんだと思います。

ゆるキャラみたいなのも描かれてますね。樹海の“ジュカちゃん”でしょうか? これは単なる村シリーズの第2弾ではないですよ。かなり捻ってある。このチラシを見る限りでは、一大テーマパーク映画な気がしてきました。

── チラシの写真、よく見たらあちこちに不気味な手とか顔がありますね。心霊写真みたいになってる。

みうら それはもう樹海のCGデザイナーの仕業でしょうね。いや、これは村人総出でやってるアトラクションですよ。

── この連載で取り上げたブラジル映画『バクラウ 地図から消えた村』のことを思い出しました。

みうら あのUFOが写ってたチラシ! 僕が「村が合併されるのが嫌で、村人が総出で悪徳市長に立ち向かう」って言ったやつですね(笑)。

── あの後『バクラウ』を映画館で観たんですが、だいたいそのとおりの内容でしたよ。

みうら え? ホントですか!? 最近、チラシ探偵も冴え過ぎでもはやネタバラシになってます? 清水監督が、もし、この連載を読んでらしたら叱られるかもしれませんね。すいません! 先に謝っておきます。

『イルミナティ 世界を操る闇の秘密結社』

── 次に選んでいただいた『イルミナティ』ですが、“観ると消される”って書いてあります。

みうら 秘密結社は、『ムー』の愛読者としてやはり、気になりますからね。

でも、秘密結社って秘密なのになぜ、映画が存在するかですよね?

── 日本フリーメイソン協会とかは、普通に公式サイトがありますからね。

みうら 公式って何なんですか?(笑)。ちなみに今回のこれはフリーメイソンじゃないんですか?

── チラシによると“フリーメイソンをも支配する世界最大の闇の権力”だそうです。

みうら “をも”って(笑)。それ後出しジャンケンじゃないですか。闇の権力なのに、“イルミナティ”っていう名前があること自体、どうなんですかね?

── でもちょっとはバレてないと、映画もできませんよね?

みうら ようやくちょっとだけ分かったってことですかね。でも、ちょっと分かってしまったと言っても“観ると消される”んでしょ? そんなの公開しちゃダメじゃないですか。

コレは困りましたね。大変なチラシを選んじゃいました。ここで下手にいじっただけで消される可能性もありますからね。さすがにチラシを見た段階で消されるのはナシですよね? それに、このハリー・ポッターみたいなフクロウは何なんでしょうね。

── ウィキペディアの“イルミナティ”のページによると、フクロウがエンブレムのようです。

みうら ウィキペディアまであるんですか! エンブレムまでバレてるとなるとマズくないですか? 単に趣味で胸にフクロウのブローチつけてるだけで、「あいつイルミナティだ!」って言われちゃいません? そんなメジャーなものじゃなく、誰も知らないような生き物のエンブレムにするべきかと?

── フクロウは縁起がいいって言われてるみたいです。

みうら イルミナティも縁起をかつぐんですかね? 北海道の土産物は木彫りの熊とフクロウが有名ですから、今後、気をつけなければですね。

ちなみに彼らの“陰謀”って何なんですかね。結社の名前も、エンブレムも分かっちゃいましたたけど、肝心なのは陰謀ですよ。

── 陰謀なのか分かりませんが、“よりよく賢明なる世界の創造”が彼らの第一の目的らしいです。

みうら なんとなく「いいこと言ってんな」って思って入ってしまいそうなところが怖いですね。

映画館に行ったら、フクロウのエンブレムは売ってますかね? いや、配布してるかもですね。一応近くに座った客はイルミナティのメンバーかどうか疑った方がいいですね。

── もはや1本の映画のスケールの話じゃなくなって来ましたね(笑)。

みうら でも、まだこの段階ではチラシしか見てませんからね。相当勇気ある人が観に行く映画なんだと思います。チラシにコメントを寄せてる人も、下手なこと言えないでしょうね。あくまでも「消されたいな」って思ってる人しか観に行っちゃいけない映画だということですね。

── よく見たら、チラシに“協力:エデン”って書いてありますね。

みうら エデンって? それ、江戸木純さんの会社じゃないですか! ちょっとホッとしました。だったらタイトルは『死霊のイルミナティ』とか『イルミナティの盆踊り』とかにしてもらわないと。これは完全にヤラレましたね(笑)。もう、江戸木さんったら!

取材・文:村山章

(C)2021 「樹海村」製作委員会
(C)Praetorian motion pictures LLC. In association with Eden Entertainment Inc.

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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