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立川直樹のエンタテインメント探偵

ぶっちぎりの快走が続く“いのうえ歌舞伎”、強力なパワーを持ったゾンビ映画『デッド・ドント・ダイ』など

隔週水曜

第47回

20/4/8(水)

「我々は見えない敵と戦っている」というマクロン大統領の言葉通り、新型コロナウイルスの感染拡大は全く予測のつかないものになっている。東京はまだパリやロンドン、ローマ、ニューヨークのように外出禁止の措置がとられていないので試写室や開いている美術館やギャラリーに行くことができるが、そんな状況下の3月22日にTBS赤坂ACTシアターで観た劇団☆新感線の「いのうえ歌舞伎『偽義経冥界歌』」は本当に劇場の灯が消えることがないようにという思いを強く抱かせてくれる素晴しい演し物だった。キレッキレの身のこなしで舞台狭しと駆け回る主演の生田斗真をはじめ、おなじみ三宅弘城、りょう、山内圭哉、早乙女友貴といった面々に、粟根まことをはじめとする老練した劇団員に新感線初参加の中山優馬、藤原さくらが加わった出演陣はそれぞれが役になりきって芝居を楽しんでいるし、音楽、美術、照明、映像、音響、特殊効果……という全ての要素がうまくかみあって休憩25分をはさんで3時間半の公演は全く長さを感じさせないものだった。中島かずきの本のおもしろさは勿論のこと、いのうえひでのりの演出ももはや他の追随を許さない域に達していて、この“伝奇時代活劇”路線はぶっちぎりの快走を続けている感じがする。

『デッド・ドント・ダイ』Credit : Abbot Genser / Focus Features (C) 2019 Image Eleven Productions, Inc.

そのぶっちぎりということでは3月27日から先行上映が始まったジム・ジャームッシュの最新作『デッド・ドント・ダイ』がここまでやるのかと思えるゾンビ・コメディで、もう1本、近日公開のナタリー・ポートマン主演の『ポップスター』も2月半ばに前作『シークレット・オブ・モンスター』で僕を震撼させてくれたブラディ・コーベットのねじれた感覚が炸裂している怪作だった。それにしても昨年のカンヌ国際映画祭のオープニング作品として上映され、「大爆笑!」「この世のものとは思えない凄いキャスト」「ゾンビジャンルへの楽しい試み」などメディアから熱いレビューが寄せられ、熱狂を呼んだ『デッド・ドント・ダイ』は、ジャームッシュ監督とは4度目のタッグになるビル・マーレイに『パターソン』からジャームッシュ組に加わったアダム・ドライバーにティルダ・スウィントン、トム・ウェイツ、クロエ・セヴィニー、スティーヴ・ブシェミ……といった常連組にイギー・ポップやセレーナ・ゴメスまで加わって映画を楽しんでいるのが強力で、こういうエンタテインメント感覚とパワーが今の日本の映画界には必要なのではないだろうかと思った。その数日後に中国で大ヒットしたというウェン・ムーイエ監督の『薬の神じゃない!』と、『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』で衝撃的に出現してきた中国のビー・ガン監督の長編デビュー作『凱里ブルース』をたて続けに観た時にもその思いはより強くなった。

上野の森美術館『VOCA展2020』、東京工芸大学 写大ギャラリー『土門拳写真展』

『VOCA展2020 現代美術の展望─新しい平面の作家たち─』

そしてその気持ちは上野の森美術館で開催されていた『VOCA展2020 現代美術の展望─新しい平面の作家たち─』に多数展示されていた作品の中で目をひいた2つの作品が両方とも韓国人作家のものだったことにもつながっていく。金サジの『女たちは旅に出、歌と肉を与えた』と李晶玉の『Olimpia 2020』は本当に力のあるアート作品。僕はまず金サジの作品を観た時、映画『パラサイト 半地下の家族』のことを思い出し、物を作る人間にはパワーと意識、センスが必要なのだということを改めて感じたが、それは3月16日の夜11時からWOWOWで4時間にわたって放映された『サウンドブレイキング レコーディングの神秘』という優れた音楽ドキュメンタリーと、東京工芸大学 写大ギャラリーで5月17日まで開催されている土門拳写真展『東京 1936-1967』を観た時にも思ったことだった。

また、そこから感じられるのは、きちんとしたものは生命力と存在感があるということ。ビートルズとジョージ・マーティン、エルヴィスとサム・フィリップス、ロネッツとフィル・スペクター……という関係が生み出した作品とその背景が永遠の名曲とともに映し出されていくのを見ている時、僕はとても幸福な気分になった。土門拳の写真は幼少時代に一瞬にして連れて行かれる魔力のような物を持っていた。

土門拳写真展『東京 1936-1967』

作品紹介

いのうえ歌舞伎『偽義経冥界歌』2020年劇団☆新感線39興行・春公演

日時:2020年2月1日~3月24日
会場:TBS赤坂ACTシアター
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:生田斗真/りょう/中山優馬/藤原さくら/粟根まこと/山内圭哉/早乙女友貴/他

『デッド・ドント・ダイ』(2019年・スウェーデン=米)

2020年近日公開
配給:ロングライド
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
出演:ビル・マーレイ/アダム・ドライバー/ティルダ・スウィントン/クロエ・セヴィニー/スティーヴ・ブシェミ

『VOCA展2020 現代美術の展望─新しい平面の作家たち─』

会期:2020年3月12日~30日
   ※新型コロナウイルス感染拡大防止のため27日で閉幕
会場:上野の森美術館

『サウンドブレイキング レコーディングの神秘』

放送日:2020年3月16日、23日
※WOWOWライブで4話連続放送(全8話)

土門拳 写真展『東京 1936-1967』

会期:2020年3月9日~5月17日
会場:東京工芸大学 写大ギャラリー

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。

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