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立川直樹のエンタテインメント探偵

STAY HOMEで出会えた“大いなる拾いもの”。“本物の音楽”を証明したWOWOW『ジョン・ロードに捧ぐ』

隔週水曜

第58回

20/9/9(水)

ジョン・ロード(2011年5月22日) (写真:Shutterstock/アフロ)

コロナ禍とは十分に関係があるとは思うが、家にいる時間が増えたせいで、これは“大いなる拾いもの”というようなライヴや映画にテレビで出会える。その最たるものが8月13日の夜9時から(こんな時間に家にいるなんてコロナ以前ならありえなかった)WOWOWで放映された『ジョン・ロードに捧ぐ』だろう。

2014年4月4日にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで開催されたディープ・パープルのキーボード奏者ジョン・ロードを偲び、彼の音楽を回想するイベントだが、司会がジョン・ロードの妻ヴィッキー・ロードと、ディープ・パープルのドラマー、イアン・ペイスを紹介し、2人がジョンのクラシックへの熱心な取り組みについて話して始まった3時間を越すライヴはきちんと弾けて、しっかりと歌える本物のミュージシャンたちが集まり、“本物の音楽”とはこういうものなんだということを理屈抜きで証明してくれた。

ディープ・パープル。後列左からリッチー・ブラックモア、ロジャー・グローヴァー、イアン・ペイス、前列左からイアン・ギラン、ジョン・ロード(1970年9月17日) (写真:Photoshot/アフロ)

俳優のダニー・デヴィートにそっくりな指揮者ポール・マンがコントロールするオリオン・オーケストラとロック系の人たちとの完璧なコラボレーション。最初の曲『Fantasia』一発で連れていかれ、リック・ウェイクマンなどが加わって演奏されたディープ・パープルの『Hush』までバラエティに富んだ構成は音楽が音楽だった時代を懐かしく思い出させてくれたが、このライヴが引き金になって記憶に残るCDを棚から引っぱり出して聴き始めたら、もう現代に戻れなくなってしまった。

ブラッド・スウェット&ティアーズ『子供は人類の父である』、アル・クーパー『アルズ・ビッグ・ディール』など。“本物”を聴いて“いい音楽”の価値観を認識

10代半ば過ぎでボブ・ディランの歴史的名盤『追憶のハイウェイ 61』にセッション・ミュージシャンとして参加し、ハモンドオルガンの抜群なプレイを聞かせ、その後のディランの何枚かのアルバムに参加、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンでエリック・クラプトンやジョージ・ハリスン、ニール・ヤング……など錚々たるアーティストが集結して開催されたディランの30周年記念コンサートでも音楽監督を務めていたアル・クーパーが結成したブラッド・スウェット&ティアーズのファースト・アルバム『子供は人類の父である』の、アルバムとは何たるものかを示している時代も流行も完全に超越した素晴しさ。その後はアル・クーパーの多彩で多岐に渡る活動を1枚に収めたベスト・アルバム『アルズ・ビッグ・ディール』を聴きながら、ジャンルに限らず、エンタテインメントの判断というのは“性が合う”かどうかも大きなポイントであることを感じることができたが、ピーター・ガブリエルやセザリア・エヴォラ、ハロルド・バッドやジョン・ハッセルといった人たちのアルバムを聴くと、“いい音楽”の価値観というのも認識できる。

ブラッド・スウェット&ティアーズ『子供は人類の父である』(発売元:ソニー・ミュージックレーベルズ)

だから、マイルス・ディヴィスの名盤『カインド・オブ・ブルー』が聴きたくなって、レコードとCDの棚をチェックした時、何故かそれだけがなくて、銀座の山野楽器に行ったところ、レコード売場がびっくりするほど縮小されており、なおかつ累計セールスは1000万枚を超え、ジャズの枠を飛び越え、「20世紀が生んだ最も偉大なアルバム」のひとつにも数えられる傑作が売場になかったのである。

購入できたのはピーター・バラカンと『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』のトーク・イベントのために立川シネマ2に行った時、すぐそばにあるHMVのショップだったが、ここも1年か2年前に較べると、まともなCDやDVDの売場は驚くほど縮小されていた。最近のヨーロッパ車にはCDを聴くシステムが装備されていない現実を考えると、CDもいよいよアナログ・レコードが辿ったようになってしまうのだろうか。

そして音楽の扱いがどんどん雑になっていく。最近愕然としたのはNHKのBSプレミアムで放映されていた『美の壺 スペシャル「日本のすし」』で流れていたジャズ。音量のバランスも含めて、何でこんなことになってしまうんだろうと暗澹たる気持になったが、映像だけでなく飲食店などの場所も含めて本当に音楽というのは使い方ひとつで毒にも薬にもなる。

これもWOWOWで観た『ホテル・アルテミス』という変なのに妙に魅力のある映画の中で流れていたバフィー・セントメリーの『ヘルプレス』の抜群のはまり方に感心して、エンドクレジットをしっかりとチェックしたら、ミュージック・スーパーバイザーとして2人の名前がクレジットされていた。結論は“本物を見極める力”とセンスということかも知れない。ヴィム・ヴェンダース監督の『世界の涯ての鼓動』や、現代演劇界の巨匠ピーター・ブルックが監督した『テル・ミー・ライズ』あたりにもその論理はぴったりとはまる。

作品紹介

『ジョン・ロードに捧ぐ』

放送日:2020年8月13日
WOWOW

ブラッド・スウェット & ティアーズ『子供は人類の父である』

発売日:2013年3月6日
価格:1800円(税抜)
発売元:ソニー・ミュージックレーベルズ

アル・クーパー『アルズ・ビッグ・ディール』

発売日:2005年9月21日
発売元:ソニー・ミュージックダイレクト

『ホテル・アルテミス』(2018年/英・米)

監督:ドリュー・ピアース
出演:ジョディ・フォスター/スターリング・K・ブラウン/ソフィア・ブテラ/ジェフ・ゴールドブラム/ブライアン・タイリー・ヘンリー
放送日:2020年8月22日
WOWOW

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。

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