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SHE’S「Letter」インタビュー メンバーが考える“いい曲”の条件とサウンドへのこだわり

リアルサウンド

19/10/22(火) 18:00

 バンド初のデジタルシングルを3カ月連続リリース中のSHE’S。アイリッシュなテイストを現代的に昇華した新機軸「Masquerade」に続く第2弾「Letter」は、ゆったりしたテンポ、シンプルなアレンジ、そして何より語りかけるような井上竜馬のボーカルが最大限に生きるバラードに仕上がっている。

 そこで今回は「Letter」の制作プロセスをはじめ、SHE’Sにとっての「いい曲」に欠かせないポイントや理由をメンバー全員に問いかけてみた。さらに、2回目にして即完売したストリングス&ホーンを迎えたスペシャル公演『Sinfonia “Chronicle”』開催に込められた意図についても話を聞いた。(石角友香)

(関連:SHE’S「Masquerade」インタビュー 3カ月連続で新曲届ける理由と自然体なバンドの姿

■聴かせることに重きを置く曲ができる“強み”

――まず、新機軸だった「Masquerade」の反応はどうですか?

井上竜馬【Vo/P】(以下、井上):「新しいSHE’Sがまた見れた」っていう意見もありつつ、結構、知り合いから連絡が来たんですよ。「アイリッシュの感じが素敵です」っていう声をすごくもらって。そもそもアイリッシュのつもりで作ったけど、メンバーには「ラテンの方が近いんちゃう?」と言われていたので、改めて「アイリッシュな感じ、すごく好きです!」と言われるのは嬉しかったですね。ちゃんと伝わってたんだなと。

服部栞汰【Gt】(以下、服部):ライブでもう毎回かやってるんですけど、お客さんが一緒に歌ってくれていて。ライブで映える曲になったかなと思いますね。

木村雅人【Dr】(以下、木村):いい意味で「変わったな」って言われたのは嬉しかったです。

広瀬臣吾【Ba】(以下、広瀬):表立って出すマイナー調の曲って最近あまりなかったので、それでいい評価をもらえたのはすごく嬉しいですね。

――SHE’Sの場合、当初からサブスクリプションで音源を公開していましたけど、このタイミングでデジタルシングルをあえてリリースしたわけで。そのことによって新たなリスナーにリーチした手応えはありますか?

井上:あるのかな? まだ実感はないですけど、いち早く新曲を聴きたい人にとっては便利だと思うし、CD派の人のためにCDも作っているので(12月4日発売の5thシングル『Tricolor EP』)、両方のリスナーに満足してもらえる形が作れたんじゃないかなと思いますね。

――10月配信の「Letter」はキャリア史上1、2を争うくらい素直なイメージの曲ですね。

井上:そうですね。音にしてもすごくシンプルに作られている曲なので、なおさらメロディとかサウンドとか歌詞が入ってきやすい楽曲ではあるから緊張はしますよね。これで「いい曲」って言われなかったらもう無理だから(笑)。

――「素直さ」はSHE’Sにとって、いい曲の基準ですか?

井上:そういうわけではないんですけど、すべての曲で「何に重きを置いて伝えようとしてるのか?」っていう条件があるのかなとは思いますね。「Masquerade」では、もちろん歌詞や伝えたいこともあるんですけど、それよりも僕の中では記憶に残る哀愁や不思議な民族楽器のメロディがあって、そこに軽快なビートがあって、あまり日本のポップスにないようなリズム感を出したかったのが重きをおいた点だった。そしてそこに、その世界に合うような歌詞を乗せていくという作り方をしているので、そういうピースがすべて合わさって、「いい曲やな」っていう感覚が生まれるんだと思う。たぶん「Letter」で、人を攻撃するような歌詞を書いていたらいい曲にはなっていなかった。だからうまいことあらゆる条件がマッチしたのかなと思いますね。

――いい曲の必須条件はバランス?

井上:バランスはあると思う。これでいろんな音を入れたとしても違うと思うし。そういう意味で、楽曲の求めているものに対して素直に構築していくっていうのはいい曲の条件なのかもしれないですね。

――この曲のデモを聴いた時のメンバーの皆さんの印象は?

服部:「Masquerade」みたいなインパクトや驚きはなかったんですけど、メロディも綺麗だし、SHE’Sらしさが前面に出ているという点でのインパクトはありましたね。「あ、これきたか!」っていう。今まで培ってきたものをすんなり出せる曲だなと思いました。

広瀬:レコーディングの時も素直に弾いただけでしたね。余計なことは全く考えなかった。曲調によっては、「間が持たないな」と思ったら何かやったりするんですけど、こういう素直な曲は歌だけで引っ張っていけるので、全然何もしなくても大丈夫っていう。

――「何もしない」というのは、具体的には?

広瀬:存在をなくす。とりあえず僕の音をリスナーに気になられたら嫌なんですよね。いい曲って、例えば僕が小学生の時にMr.Childrenの曲を聴いて「いいな」と思った時、別に楽器の演奏に注目して聴いてないんですよね。今になって聴くと「ああ、すごくかっこいいな」と思うけど、リスナーには1回目からそんなことは気になって欲しくなくて。桜井(和寿)さんの歌だけに集中できる、そのアレンジがミスチルはすごいなと思っていて。だからそこを目指してますよね。

――木村さんはいかがですか?

木村:僕もいかに歌を邪魔しないか、曲の雰囲気を壊さないかというところで、ドラムも結構、淡々と同じことをしてるんですけど、どこかでこのフレーズがあるから聴けるというか、退屈にさせないポイントは自分の中で考えつつ。シンプルだけど、このフレーズにかけるみたいな、そういう気持ちがこの曲にはありましたね。

――プレイ面でのポイントは?

木村:歌のメロディとか、リズムに合ったフレーズの入れ方、ギターソロが始まる手前とか、そういう、一個一個、数を打つんじゃなくて一音一音の長さを感じるフレーズを入れる。そういうのがこの曲で初めてしっかりはまったんじゃないかなと思います。手数を打つんじゃなくて、しっかり間を持たせた余韻の長いフレーズがポイントですね。

――そしてやはり盛り上がるギターソロが登場するのがSHE’Sらしいところで。

井上:いややっぱ、入れるでしょ(笑)。

服部:でも詰め込むわけではなく、声も後ろでリバーヴがかかっているので、歌と一緒に引っ張っていける伸びやかなソロは意識しましたね。

――ギターソロとともに歌われる〈探している 知りたくて 探している〉という言葉が効いていますね。

井上:効いていたら嬉しいなぁ。割と難しいことをやってるんですよ。ギターソロと歌のメロディのリフレイン、どっちが主役なん? みたいなところはエンジニアの人とも話しながら、細かく調整しましたね。やっぱり歌詞が聴こえなくなっちゃったらもったいないと思うし、でもギターソロは聴きたいしみたいなところで……音のバランスは何回も試したもんな?

服部:うん。だからギターソロも前半と後半でピックアップの位置も変えたりしてるんで。そういうところは今まで以上に何回も聴いて試したところではありますね。

井上:だって栞汰のギターを聴かせなくしちゃったら、ギターソロする必要ないので。存在感あるソロだから。……A5ランクの神戸牛を……ミンチにしてみ?

服部:それはそれで贅沢(笑)。

井上:でもステーキの方が嬉しい。

――(笑)。この曲の歌詞は、最初、自分が自分におかえりと言うところから始まりますね。順番通りに書いていったんですか?

井上:順番通りに書きましたね。〈大人になっていくことが~〉の歌詞とサビの歌詞はもともと、何年前かわかんないですけど、メモの中に入ってて。「あ、これは今歌えるかも」と思って、メロディを書き始めた感じです。

――何年か前というのは今より大人になることに対する怖れがあった?

井上:うん。もっと敏感に感じてたと思うし。今もまだ大人と子供の中間だと思うんですけど、確実にこう、27歳って大人寄りになっていってるし、それよりも24、5歳って、「大人になりたい、けど全然なれない」と思っているような年頃で。大人を意識するからこそ、いいとこだけが見える年齢なのかなとも思うし。そういう時期だったんじゃないですかね。

――SHE’Sの楽曲の中には、一人で聴くとより沁みて、自分事として受け取れる曲がいくつかありますが、この曲もそのタイプかなと思います。

井上:そうですね。「しんどいなぁ」と思った夜を越えるための歌、みたいになれば嬉しいですね。自分と向き合う時は自分を責めがちなんで。自分を顧みるのは大事なんですけど、でも肯定してあげられる要素があると前に進みやすいですよね。

――「Letter」というタイトルになった理由は?

井上:自分自身への手紙というか、「覚えておいた方がいいぞ」という意味も込めてなんですけど。歌詞にあるようなことを自分に語りかけているところもあるので、手紙を読んでいるように歌う曲にしたいなっていうのはありましたね。

――なかなか同世代のバンドにはないタイプの曲ではないでしょうか。

井上:確かに。なかなかこれだけ静謐な感じを貫こうとするというか、聴かせることに重きを置く曲って、ライブ至上な音楽シーンの中で少なくなってるのかなと思いますよ。ライブでどれだけ掴むか? 盛り上がるか? とか、リアルなものを提供するか? みたいなものになってしまってるというか……それはもちろん悪いことじゃないんですけど。いろんな音楽があっていいけど、SHE’Sはそれをメインの武器として戦うバンドではないので。こういう曲ができるのはある種強みではあるのかなと思いますね。

――そう思います。

井上:だから弦楽器も入れたくなかったんですよね。今までバラードはストリングスを入れたりしてますけど、できるだけ音数は絞って。声の広がりがメインで、それを大事にしようと思った曲だったので、コーラスは多いですね。

――じゃあこの曲はSHE’Sにとってのいい曲の進化形?

井上:うん。なんかもうバラード完成したよね?

服部:(笑)。

――初期の楽曲と聴き比べるとアレンジやサウンドプロダクションの成長がよくわかるんですよ。

井上:そうなんですよ。改めて自分たちの昔の曲を聴いたりするんですけど、ちゃんとレベルアップはできてるなと思いますね。

■2マンツアーで得たもの、チケット即完“シンクロ”への期待

――そして話は変わりますが、SHE’Sは先日、全国対バンツアーを終了したばかりですね。2マンツアーでバンドにフィードバックされるものってなんでしょう?

井上:たっぷりライブを観れるから、面白いですよね。ワンマン以外でバンドのライブをまじまじと長尺で見ることって意外と少ないから。それは2マンにおける大きいテーマかな?

服部:長尺だと「あ、こういうMCするんや」みたいな、盛り上げ方もバンドによって全然違ってくるので、僕ら自身もいろんな発見があります。

井上:セットリストの構成の仕方とか。「中盤で上げていくんや」とか「序盤しっとりから入るんや」とか。

――主にライブの運び方を見ている?

井上:見てますね。音楽性ももちろんですけど。2マンにお呼ばれするの時のライブの仕方って、単純ではないというか。こういう言い方は正しいかわからないけど、ホームではないから。呼んでくれた側のバンドをメインで見てくれる人が多い中、どうやって自分らのライブを展開しよう? っていう。今回はそれの逆で、SHE’Sを見にきてるお客さんが大半の中、どうやって掴んでいくんやろう? というのは勉強になります。同世代だろうと後輩であろうと先輩であろうと、みんな戦い方が違うなっていうのは今回思ったので。それはバンドのフィードバックとしては大きいんじゃないですかね。

――例えば今度、自分たちが招かれた時、どういうスタンスでいたいですか?

広瀬:いろいろ踏まえた上で、いつ何時もブレない方がいいなっていうのは改めて思いますね。盛り上げるにしても、やっぱり曲の力で引っ張っていきたいです。

――そしてさらにストリングス&ホーンとの共演『Sinfonia “Chronicle“ #2』のチケットが即完しましたね。

井上:嬉しかったな。去年、土日で売り切れなかったんですよ。ツアー直後っていうのもあったと思うんですけど。1年経って、平日に東京、大阪とも同じ規模ですぐに売り切れたのはかなり嬉しかった。

服部:即完して、しっかりリベンジできる気持ちになりました。

――SHE’Sのストリングスの入ったライブは、ちょっと入れてみました、なんて程度じゃないですからね。

井上:熱いんですよね。

広瀬:良すぎてどうしよか? と思ったから(笑)。

服部:僕らも実際にやってみてすごく高まったし、だからこそ「なんでみんなこーへんねん!」と嘆いてました(笑)。

井上:そもそも僕らはオーケストラと一緒に演奏する前提でバンドを組んで曲を作ってきたので。「とりあえず入れてみましたっていうのとは違うで」っていうのはライブをやっていても実感しましたね。「やっぱりこうなるよな、よっしゃー」って。

――2回目ともなると、またいろいろな作戦が?

井上:作戦会議してます。より“シンクロ”(Sinfonia “Chronicle“)である理由というか、必要性みたいなものを感じられる2回目になるんじゃないかと。前回とはまた全く別物として作ろうと思います。

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