Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

続きを読む

【おとな向け映画ガイド】

ファッショナブルなスゴいホラー!『ラストナイト・イン・ソーホー』

ぴあ編集部 坂口英明
21/12/5(日)

イラストレーション:高松啓二

今週末(12/10~11)に公開される映画は16本。全国100館以上で拡大公開される作品が『あなたの番です 劇場版』『ラストナイト・イン・ソーホー』の2本。中規模公開、ミニシアター系の作品が14本です。今回はそのなかから、新感覚のホラー『ラストナイト・イン・ソーホー』をご紹介します。

舞台は“スウィンギング・ロンドン”

『ラストナイト・イン・ソーホー』

ディズニープラスで配信中の『ザ・ビートルズ:Get Back』はご覧になりましたか? 解散寸前のザ・ビートルズ、最後のレコーディングを収めた映像をリストアし、『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンが新たな視点で編集、構成したドキュメンタリー。フィナーレともいえる、アップル・レコード本社の屋上から冬枯れのロンドンの空に向かって歌いかけた“ルーフトップ・コンサート”は、いま観ても感動的でした。あのライブが行われたのは1969年の1月です。

『ラストナイト・イン・ソーホー』の舞台となる時代は、その4年前、1965年の夏。ビートルズと並ぶイギリスのカルチャーアイコン、ジェームズ・ボンドシリーズの『007/サンダーボール作戦』が封切られた年でした。その映画のビルボードが街を飾っています。ファッションもカルチャーもロンドンが発信地だったあの頃、いわゆる“スウィンギング・ロンドン”の時代を背景にしています。そのロンドン黄金時代と現代が交錯する、これまでに観たことのないサイコホラーです。

映画は、ピーター&ゴードンの曲『愛なき世界』で幕をあけます。当時、ピーターの妹がポール・マッカートニーの恋人で、楽曲の提供をうけた、レノン=マッカートニー作のラブソングです。映画のタイトルも、デイヴ・ディー・グループの名曲『ソーホーの夜』からとったもの。他にもペトゥラ・クラークの『恋のダウンタウン』、ダスティ・スプリングフィールドの「ウィッシン・アンド・ホーピン」、キンクス、ザ・フー、ウォーカー・ブラザーズ……これでもかってほど、当時のイギリス製ポップソングが全編を彩り、音楽好きにはたまりません。

60’sファッションに憧れ、デザイナーを目指し、ロンドンのファッション系大学に入学した主人公エロイーズ(トーマシン・マッケンジー)が、学生寮を出て、ソーホーでひとり暮しを始めます。間借りをしたのは、ミズ・コリンズという謎のお婆さんが所有する古い屋敷。そのどこかいわくがありそうな家に住み始めた夜、風変わりな夢を見ます。エロイーズは60’sのロンドンにワープし、歌手をめざすサンディ(アニャ・テイラー=ジョイ)という同年代の女性に“シンクロ”してしまうのです。それは一晩では終わりません。夢から覚めると、現代のファッション学科の学生、夢のなかでは“スウィンギング・ロンドン”まっただなかでショービジネスに生きる新人歌手、というまさに錯綜した日々が続くのです。それが惨劇の始まりで……。

ポップでファッショナブル、映像的にも斬新なこの作品の脚本を書き、製作、監督したのはエドガー・ライト。ゾンビ映画のパロディ『ショーン・オブ・ザ・デッド』で監督デビューし、地球征服を企てる宇宙人と酔っ払いのイギリス人が戦う『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』、iPodで音楽を聴きながら超絶ドライビングテクニックで逃げまくる銀行強盗『ベイビー・ドライバー』など、着想がいまの映画界では図抜けてすばらしいイギリス出身の作家です。

ライトは筋金入りの映画オタク、過去の名作にインスパイアされたり、引用した部分があったり。その出どころを考えるのもライト作品の楽しみ方のひとつです。この作品は、ロマン・ポランスキー監督、カトリーヌ・ドヌーヴ主演のホラー『反撥』や、ニコラス・ローグ監督の『赤い影』に影響を受けた、といいます。さらにキャスティングもあちこちに目配せを感じます。エロイーズが住む家の老婆役は『女王陛下の007』の“ボンド・ウーマン”ダイアナ・リグ、祖母役のリタ・トゥシンハムはリチャード・レスター監督の『ナック』に出ていました。そして謎の銀髪の老人役が『コレクター』のテレンス・スタンプ……。役者だけではなく、時代の象徴のような音楽、衣装、建築物、主人公の部屋に貼られた映画ポスターなど、細部という細部にこだわったとてもぜいたくな作品です。

【ぴあ水先案内から】

高崎俊夫さん(フリー編集者、映画評論家)
「エドガー・ライトの最高傑作……」

高崎俊夫さんの水先案内をもっと見る

伊藤さとりさん(映画パーソナリティ)
「……60年代の音楽や衣装がお化け屋敷的役割を果たす面白さと、その街に歴史ありと気付かされる建物や路地の存在感にゾクゾクする魔術のような映画……」

伊藤さとりさんの水先案内をもっと見る

渡辺祥子さん(映画評論家)
「お洒落で独特のテイストを持つ監督が60年代音楽とサイコやホラーの世界に魅せられて作ったエキセントリックな映画……」

渡辺祥子さんの水先案内をもっと見る

高松啓ニさん(イラストレーター)
「……サンディを演じるアニャ・テイラー=ジョイの存在感が圧倒的。ちょっと離れた大きな目が印象的で惹き付けられる。特に白いトレンチコートを着て闊歩するのがかっこいい!……」

高松啓ニさんの水先案内をもっと見る

(C)2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

アプリで読む