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池上彰の 映画で世界がわかる!

『GOGO 94歳の小学生』―世界最高齢小学生の奮闘記から分かるケニアと日本の学校教育について

毎月連載

第31回

あなたは、勉強が楽しいですか?

学校時代、勉強が楽しかったですか?

社会に出ると勉強不足を痛感し、改めて勉強を始めると、その楽しさを発見するということは、よくあります。人生100年時代。歳をとってもいくらでも勉強することは可能です。なにせケニアでは、94歳になって初めて小学校に入学して勉強しているおばあちゃんがいるのですから。

これはアフリカ・ケニアの奥地で世界最高齢の小学生になった「ゴゴ」(現地の言葉で「おばあちゃん」の意)のドキュメンタリーです。

彼女の幼少期、少女は学校に行くことが認められませんでした。「女に教育はいらない」というのは、世界どこの国でも過去にあったことです。親の農業を手伝う貴重な労働力だからです。日本も明治時代、娘を学校に通わせようとしない親を説得して子どもを学校に来させることが、学校の先生たちの仕事でした。

ゴゴは小学校に通うこともできないまま成長。祖母に助産師の仕事を教わり、学歴がないまま仕事を続けてきました。いまや3人の子ども、22人の孫、52人の曾孫がいます。

ところが、曾孫たちが学齢期になったのに小学校に通っていないことに気づきます。

これはいけない。いまは少女も学校に通える時代になったのだから。そこで彼女は率先垂範。曾孫たちと一緒に小学校に通って勉強することを決意します。かくして世界最高齢の小学生が誕生しました。

とはいえ、最寄りの小学校は遠く、とても自宅から通うことはできません。そこで、小学校の敷地内の寄宿舎に入って勉強を始めます。曾孫や、その同級生と一緒です。教室のゴゴの横には曾孫が座り、勉強を手伝ってくれます。

ゴゴが話すのは現地のカレンジン語。でもケニアなど東アフリカの共通語であるスワヒリ語を話せなければなりません。さらに小学校では英語も学びます。自分の孫のような年齢の先生に英語の間違いを叱られて落ち込むゴゴ。本当に小学生になっています。

小学校では英語のほかに算数も学ぶのですが、簡単な掛け算にもつまづくゴゴ。94歳になって新しいことを学ぶのは大変です。

ゴゴは寄宿舎に入れましたが、寄宿舎が足りないために学校に通えない少女たちも大勢います。ゴゴは校長に掛け合い、新たな寄宿舎の建設を取り付けます。ところが、この工事が遅々として進まない。ゴゴは建設現場の労働者に掛け合うという行動力を見せます。

小学校生活といえば、楽しみなのが修学旅行。野生動物の保護区であるマサイマラ保護区へ行くことになります。その行程はバスで12時間。道中、小学生たちはキリンやライオン、象を見て興奮します。

アフリカの人はキリンやライオンをいつも見ていると思い込んでいませんか。ケニアでは、住民たちが暮らす町から遠く離れた野性動物保護区に行かなければ、こうした動物を見ることはできないのです。動物園に行けばいつでもキリンやライオンを見ることができる日本の子どもたちとは違います。

日本では小学校、中学校が義務教育。さらに99%の子どもが高校に進学しますが、ケニアでは義務教育は小学校まで。中学校に進学するには小学校の卒業認定試験に合格しなければなりません。ゴゴも、この試験に合格すべく猛勉強を開始するのですが、耳が遠くなり、眼も悪くなった彼女は勉強に苦労します。果たして彼女は試験に合格することができるのでしょうか。

映画の撮影が始まったとき、ゴゴは映画というものを理解していませんでした。結果として、演技のない自然なドキュメンタリーが撮影できました。

これを見ると、日本がいかに恵まれているかがわかります。そんなに恵まれていたことに気づかないまま、あなたは勉強をさぼっていませんでしたか。ゴゴに負けずにもう一度勉強したくなるのではないでしょうか。

掲載写真:『GOGO 94歳の小学生』
(C)Ladybirds Cinema

『GOGO 94歳の小学生』

12月25日(金)シネスイッチ銀座他全国順次公開
配給:キノフィルムズ
監督:パスカル・プリッソン

プロフィール

池上 彰(いけがみ・あきら)

1950年長野県生まれ。ジャーナリスト、名城大学教授。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。記者やキャスターをへて、2005年に退職。以後、フリーランスのジャーナリストとして各種メディアで活躍するほか、東京工業大学などの大学教授を歴任。著書は『伝える力』『世界を変えた10冊の本』など多数。

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