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舞台『キオスク』出演、橋本さとしインタビュー 「僕たちがいるべき場所はここなんだ」と感じた日々

ぴあ

21/1/23(土) 12:00

橋本さとし 撮影:源賀津己

舞台『キオスク』が、石丸さち子の演出でストレートプレイ版として日本初演される。オーストリアの人気作家ローベルト・ゼーターラーによるベストセラー小説を、原作者自身が戯曲化した本作。1937年、時代のうねりにのみ込まれていくオーストリアを舞台に、17歳の主人公・フランツ(林翔太)の青春を、みずみずしく切なく描いている。1月22日(金)に兵庫県立芸術文化センターにて開幕した本作にオットー・トゥルスニエク役として出演する橋本さとしに、作品の魅力や共演者とのエピソード、コロナ禍で思った事などを聞いた。

ストレートプレイに飢えていた

――最初に、ご出演が決まった時の心境を教えてください。

ここのところ、劇団☆新感線の『偽義経冥界歌』というエンタテインメント性の高い舞台や、『ビリー・エリオット』というミュージカルに出演させていただいたので、「ど」が付くストレートプレイに自分の中で飢えていたところがありました。このタイミングでお話をいただいたのは、僕にとってはとてもありがたくて、喜ばしいことだったんです。

やはり僕はストレートプレイが自分の原点だと思いますので、この作品でもう一度、自分の演技的な基本に立ち返って、自分の中から湧いてくる感情に乗せたセリフ回しというものを、再スタートと言えば、少し大袈裟な言い方になるかもしれませんが、ここから何かを構築させていければなと。気合十分です。

――『偽義経冥界歌』も『ビリー・エリオット』も、どちらも「父」役でしたね。

 

そうなんですよ。一方は地獄のお父さんで、もう一方は炭鉱夫のお父さん。いろいろなお父さんを演じさせていただいて、僕もそういう役柄を演じるような年齢に差し掛かっているのかなとすごく実感しました(笑)。

殺されて生き返るような冥界にいるお父さんと、超現実的な1980年代の労働者組合のストライキの真っ最中で戦いながらも、家族の間で揺れ動くリアリティのあるお父さんの役と、幅広かった。両方演じられてとても楽しい1年になりましたね。

――その中で、今回は舞台となるキオスク(タバコ店)の店主オットー・トゥルスニエク役を演じられます。

オットーという役も、まさに血はつながっていないですが、フランツという青年にとっては、親父的存在でいる役柄なんです。フランツという田舎で育った純朴な青年が、ウィーンの街に出てきて、第二次世界大戦目前の、ナチスドイツが台頭する現状を目の当たりにする。そのきっかけになる、オットー・トゥルスニエクというおじさんで、彼が人生観のスイッチを押してあげる役という意味では、親父的ポジションにいるのではないかなと思います。

――現段階でどのような部分に難しさややりがいを感じていますか。

ストレートプレイというのは、言葉のキャッチボールや感情の受け渡しあい、バトンをしっかり相手に渡すということがとても大事になってきます。特にこの作品は、原作が小説で、日本では先にリーディング版として上演して、今度はストレートプレイになります。演者が実際に演じるという形をとっていますから、緻密に小説で描かれているところを、舞台版ではある意味すっ飛ばして描いていたりする。その分、行間の芝居と感情がすごく大事なんです。

どういうものを背負って、今この場に立っているか。それが、演者にとってはとても重要なことになってくると思いますし、難しいところですね。お客様の想像力をかき立てられるような立ち方で舞台の上に立ってないと、それは本を持っていないだけであって、ただのリーディングになってしまう恐れもありますから。

――役者としての説得力というのでしょうか。たたずまいから観客の想像力をかき立てるにはどうしたらいいと思いますか。

正直、セリフが多いんですよ。特に長台詞。長台詞をひとつひとつ分解して、解明していくと、やっぱり不思議と全然感情が入っていなかったり、自分の中でイメージがなかったりするセリフは、セリフ覚えが悪くなって入ってこないんですよね。

僕たちがよくセリフを入れるという段階は、ただ覚えて暗記するという意味ではなくて、腹に落とし込んで、それが、心臓を通って、脳みそを通って、自分というフィルターを通して、言葉にすること。それができて初めて、セリフが入ったと言えるんですね。だからそのセリフを入れる段階というのが、僕にとってはすごく重要になってきています。

単純に年々セリフ覚えが悪くなっているというのもあるんですけども(笑)、そこが一番苦労するところで、役者が孤独な作業をする段階ではあります。1日でも早く、自分というフィルターを通して、感情がぎゅっと締め付けられるようなセリフを気持ちよく吐きたいですね。

林君のポジティブな気持ちがいい空気をもたらしてくれる

――主演の林翔太さんをはじめ共演者の方々にはどのような印象をお持ちですか。

林翔太くんはとてもピュアで、僕に比べたら超真面目。すごく真摯に芝居にぶつかっていく。合っていようが間違っていようが、まずぶつかっていく姿が、とてもピュアで、いろいろな垢にまみれた自分にとっては、すごく刺激にもなるし、見習うところでもありますよね。こちらも純粋な気持ちで一緒に芝居を作っていけるというのは、共演者としてはありがたい存在です。あと、弱音を吐かないんですよね。「ダメだな」とか「疲れたな」とか全然言わない。主役というのは他の作品でも一番大変な思いをするけれど、特にこの作品はフランツという青年が背骨になっている作品なので、負担はとても大きいと思うんです。で、僕も心配になって、「調子はどうだ?」と聞いたら「バッチリです!」とか、元気に答えてくれる(笑)。そういう彼のポジティブな気持ちや心構えが、僕たちカンパニーにいい空気をもたらしていると思います。

若手で言えば、(上西)星来も、とてもフレッシュですね。彼女はまっさらな状態でこの芝居に臨んで来ているので、まっさらなキャンバスにどんどん色がついてくのが、日に日に見えていて。それを見ているのも、おじちゃんとしては楽しいかな(笑)

一路(真輝)さん、山路(和弘)さんなど、昔からやらせてもらっている、信頼のおける先輩にも囲まれています。現場の空気感は温かい感じがして、居心地がとてもいいです。

特に吉田メタルくんとは劇団☆新感線以外で初めての共演なんですよ。実は、劇団員の頃、吉田メタルと3年間一緒に暮らしていた時期がありまして。ぼろアパートに二段ベッドを買って、あいつが上で、俺が下に寝て。自分たちはどうなるんだろうという将来の話を毎晩、銭湯に行きながらして……。いつか共演できたらいいよなっていう話はずっと20年前ぐらいからしていました。

役者ってやり続けていると、一瞬離れても、続けることによって、どこかでまたピタッと磁石のように出会う。個人的な話ですが、吉田メタルと劇団以外で同じ舞台に立つというのは本当に感慨深いものがありますね。

――石丸さち子さんはどういう演出家だと思いますか。

僕は今回初めてなんですけども、噂に違わず、本当にパワフルです。それでいて、繊細。豪快さや大胆さもある。お客様のことを信じる力がすごく大きな方だと思うんですよね。

演出家というのは、細かく細かく演出して、お客様に分かりやすくしないと不安になられる方もいらっしゃると思うんですけれど、そういうこと関係なく、無駄なところは、ザクッと切り落として、あとはお客様の想像力に任せる。本当に演劇的な原点と言いますか、基礎的なところを久しぶりに味わせていただいています。

稽古場で誰よりも声が大きくて、誰よりも笑っていて、喜怒哀楽を役者以上に表現している方です(笑)。石丸さち子という台風の目に、役者が巻き込まれている気がします。時々のみ込まれそうになるんですけれども、こちらも負けずにエネルギーをぶつけていくと、それに応えてくれる方なので、やっていて、楽しいですし、あまり役者に不安を感じさせない、安心感のある方ですね。

無駄なことを必要と感じられる心の大切さに気づかされた2020年

――2020年はコロナ禍で演劇界にとっても大きな意味のある1年でした。橋本さんにとってはどんな1年でしたか。また2021年の抱負をあわせて教えてください。

2020年、役者人生で言えば、不安というものが常に付きまとってはいましたね。劇団☆新感線も途中でアウトになりましたし(※『偽義経冥界歌』が東京公演一部中止、福岡公演全中止)、『ビリー・エリオット』もいつ始まるのか分からないなか、スタンバイをしていて(※7月初日を迎える予定だったが9月に延期)。だからこそ、舞台に立つ喜びを噛み締めた年ではありますね。

今まで舞台に立ってきて、こういう事態は本当に経験したことがなかった。ちょっとしたアクシデントで1、2日、舞台が止まってしまうことはトラブルとしてはありましたが、完全に切られるのは初めてで、自信を失いかけたときもありました。日本という国において、エンタテインメントの力はここまでだったのかなと。現実を目の当たりにはしましたね。真っ先に僕らの世界が、娯楽という世界が、切られていきましたから。

いただいた時間の中で、随分いろいろなことを考えましたし、今までできなかったこともできました。物質的にも断捨離をして、フリマアプリで小銭を稼いだりもしましたが(笑)、心の断捨離みたいなものもできました。なあなあで来ていたものが通用しないと気づきましたし、当たり前だと思ってやってきたことも、実は当たり前のことではなくて、すごく奇跡的なことだったと実感しました。ハートは強くなったと思います。

劇団☆新感線の舞台が途中で終わって、『ビリー・エリオット』が予定より2ヶ月遅れで始まって、やっと舞台に立てた時の劇場の空気。感染対策で、キャパの半分しかお客さんをお入れすることはできなかったんですけども、拍手が大きくて、満場の拍手をいただいた。その瞬間に、僕たちがいるべき場所、立つべき場所は、ここなんだなと。不安になっていた部分は自信に変わりましたし、娯楽・エンタテインメントの必要性を感じて、それを信じることができました。

無駄と言えば無駄なのかもしれないけれど、無駄なことを必要と感じられる心の余裕や潤いって、人間が生きていく上でとても大事なことだと思います。僕たちは住む家を与えたり、お腹を満たすことはできないけど、心を満たすことができるという自信になりました。そういう意味では僕にとっては有意義で意味のある1年になりました。

ただ、それはまだ過去の話ではなくて、状況が継続してしまっている現実があります。まだまだ油断はせずに、自分たちがやるべきことをしっかりやって、必要とされる存在でありつづけるために、エンタテインメントというものをこれからもずっと守り続けていくという気合いをもって、皆様に心の潤いを与えていきたいなと思っています。



取材・文:五月女菜穂 撮影:源賀津己

公演情報
『キオスク』
作:ローベルト・ゼーターラー
翻訳:酒寄進一
演出:石丸さち子
出演:林翔太 橋本さとし
大空ゆうひ 上西星来(東京パフォーマンスドール) 吉田メタル 堀文明
一路真輝 山路和弘

【兵庫公演】
2021年1月22日(金)~1月24日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

【東京公演】
2021年2月11日(木・祝)~2月21日(日)
会場:東京芸術劇場 プレイハウス

【静岡公演】
2021年2月23日(火・祝)
会場:静岡市清水文化会館(マリナート) 大ホール

【愛知公演】
2021年2月25日(木)
会場:日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール

【広島公演】
2021年2月27日(土)
会場:JMSアステールプラザ 大ホール

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