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キューブリックからなぜ離れられなかったのか? 元専属ドライバーが明かす、2人の関係性

リアルサウンド

19/11/2(土) 12:00

 映画『キューブリックに愛された男』が11月1日より公開中だ。2016年のダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞(イタリア・アカデミー賞)で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した本作は、スタンリー・キューブリックの専属ドライバーであったエミリオ・アレッサンドロの目を通して、キューブリックとの1970年の出会いから、キューブリックが亡くなるまでの30年にも及ぶ主従関係と友情を綴ったドキュメンタリーだ。

参考:『キューブリックに魅せられた男』が映し出す、キューブリックとその作品に人生を捧げた男の生き様

 今回リアルサウンド映画部では、アレッサンドロ本人に電話インタビューを行い、映画では描かれることのなかったキューブリックへの思いも含めて、話を聞いた。

ーーこの作品では、あなたとスタンリー・キューブリックの出会いから別れまでが綴られていますが、改めてキューブリックとの出会いについて教えていただけますか?

エミリオ・ダレッサンドロ(以下、ダレッサンドロ):もともと私はロンドンでタクシー運転手をしていたのですが、ある日、ホークフィルムという会社から、“あるもの”を運んでほしいと連絡をもらったんです。報酬が直払いということもあって、私にとっても非常に都合がよかったため、そこから2カ月間、とにかく彼らのオーダー通りにものを運ぶ仕事を続けていました。そして約2カ月後に、依頼元であるホークフィルムから、「これはスタンリー・キューブリック監督の仕事なんだ」と知らされたんです。そう言われても、私はその当時、“スタンリー・キューブリック”が誰だかわからなかったわけですが……。

ーーそこから約30年間、キューブリックのもとで仕事をし続けたわけですよね。途中で辞めて、タクシー運転手に戻るという選択肢もあったと思うのですが、なぜその仕事を続けることにしたのでしょう?

ダレッサンドロ:実は最初の2カ月間の間に、もっと条件のいい他の仕事の話もあったんです。ただ、そういうことを考える暇もなく、「次はこれ、次はこれ」というように、次に何を運ぶかという指示が絶え間なくきたのです。それと、スタンリー本人から「一度実際に会いたい」と言われたことがありました。それで初めて会った時に、私のそれまでのキャリアや私自身の話をしたのですが、最後に彼と手を握り合ったのです。そこで、自分の中で「この仕事をやっていこう」と心に決めました。彼が私のことを気に入ってくれて、私も彼のことを信頼できると思ったからです。

ーー映画を観ていると、特に後期は「現場から離れたいけど離れられない」という葛藤のようなものもあったように感じました。

ダレッサンドロ:実際に離れたこともありましたが、離れるたびにまた戻されたというのが正しいかもしれません。いくつもの映画が同時に進行していたのと、ひとつの作品に5年以上かかることもありましたから。私が離れようとすると、スタンリーが「行ってしまうのか……」と泣きそうな顔をすることもありましたし、私の仕事に対して、彼が信頼感を持ってくれているのがわかっていたので、なかなか離れられないところがあったのです。

ーーアレックス・インファセッリ監督から今回の映画の話がきた時は、どのようなことを話しましたか?

ダレッサンドロ:アレックスとは事前にしっかりと話し合いをしました。出演するにあたっての条件のようなものです。それは、スタンリーの映画の制作の裏側に関することはあまり言えないし、暴露のようなことはしたくないということ。どこまでやっていいか、どこからやってはいけないのかという線引きのようなものです。あらかじめ話せないことなどはしっかりと決めておいて、一定の枠の中で映画を作るというのが私からのリクエストでした。アレックスもそれには最初から納得してくれていましたし、完成した映画もしっかりとその枠の中に収まるものでした。アレックスは、その限られた枠の中でもベストなもの作ってくれたと思っています。

ーー改めて、あなたにとってスタンリー・キューブリックとは、どのような存在だったのでしょう?

ダレッサンドロ:仕事仲間でもあり、友人でもあり、家族でもある。まさにその全てだと思います。スタンリーとは家族ぐるみの付き合いでしたし、彼は私たちに住む場所も提供してくれました。なので、お互い家族として受け入れないと、このような関係性は築けなかったと思います。僕は本当に彼のことを尊敬していましたし、彼の望みに対して全て応えたいと思っていました。それには、お互いの妻の理解も必要でしたから。『アイズ ワイド ショット』の撮影に入る前、私はスタンリーの元を離れ、家族と一緒に時間を過ごしていました。なので、スタンリーには撮影の準備が完全にできたら呼んでくれと言っていたのです。その時も、妻はしっかりと私の行動を理解してくれていました。あの時は、また離れて戻って……ということが続いていくと思っていましたが、彼は突然亡くなってしまった。その時の気持ちはなんとも言えず、ただただ悲しかった。最後に戻れたことは、本当によかったと思っています。(取材・文=宮川翔)

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