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朝ドラ『エール』久志少年の切なすぎる原体験 福島三羽ガラスの共通点も

リアルサウンド

20/6/23(火) 12:00

 「久志さんって、昔から歌が好きだったの?」という音(二階堂ふみ)の素朴な疑問に答えて、『エール』(NHK総合)第62話では久志(山崎育三郎)の少年時代を振り返る。

参考:『エール』ではリアルな母親像に期待 黒川芽以が築き上げた、“87年世代”独自のポジション

 “プリンス”久志については、その完璧すぎるいで立ちと天賦の才能によって、つい苦労とは無縁の人生を送って来たと思ってしまいがちである。ミステリアスな雰囲気でキャラの見えづらかった久志だが、音楽を志した原点には切なすぎる体験があった。

 時は大正8年、映し出されるのは平和な食卓の光景。座っているのは久志少年(山口太幹)に父・弥一(日向丈)、そして母の玲子(黒川芽以)だ。久志を生んだ麻友(深澤しほ)は3年前に離婚して家を出ており、県議会議員の弥一は後妻として玲子を迎えたが、久志は新しい母になじめなかった。

 久志の心の拠りどころは麻友が送った手紙。「どうか体にだけは気を付けて。心優しいあなたのままでいてください」。母恋しさと継母への反発から、久志は麻友の実家のある町を訪ねる。しかし手紙の住所には見ず知らずの老人が住んでおり、麻友はよそに引っ越していた。落胆する久志の前に、麻友が姿を見せるのだが……。

 見たくなかった光景を目にして、あまりのショックに久志は手紙を捨てて立ち去る。雨でずぶ濡れになった久志が向かったのは小学校の教室。そこに藤堂(森山直太朗)が現れる。久志は、藤堂に「何かあるって思ったのに、何もなかった」と思いのたけを吐き出す。藤堂は「そうか」と返し、おもむろに唱歌「故郷」を歌い出した。

 あわや独唱かと思いかけたところで、藤堂は久志にも歌うことを促す。雨の音と2人の声が放課後の教室に響いた。当時を思い出しながら、久志は「あんな大きな声で歌ったのはあれが初めてだった。ぐちゃぐちゃになった気持ちがパーッと出て、スーッと消えてさ。ああ、歌っていいなあって」と語る。母を失った久志少年にとって、音楽が心の故郷になった瞬間だった。

 雨に濡れて歌う「故郷」と言えば、第30話の裕一(窪田正孝)がずぶ濡れになりながら、ハーモニカを吹くシーンが思い起こされる。裕一が故郷を捨てるきっかけになった場面だが、縁談を断って上京した鉄男(中村蒼)といい、福島三羽ガラスはそれぞれが家族や郷里との間に葛藤を抱えている。そのことが音楽を志すきっかけになっているところに、3人の縁を感じる。

 あらためて藤堂の偉大さも感じた。久志の声を褒めたのは藤堂が初めてと思われるが、もし藤堂がいなかったら、久志や裕一は音楽の道に進まなかったかもしれない。そう考えると教師の役割は重大だ。はんぺんを好きな理由が少年時代にあったことなど、今回のエピソードを通じてずいぶん人間臭さが増した久志。クラシック畑から大衆歌謡を歌う人気歌手へ、故郷への思いを胸にオーディションに臨む。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。

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