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立川直樹のエンタテインメント探偵

戸塚祥太主演の『阿呆浪士』は今年最初の出会い頭のホームラン!!

毎月連載

第42回

パルコ・プロデュース『阿呆浪士(あほうろうし)』

余り予備知識もなく出かけていった舞台でおもしろいものに出会うと、何だか得をした気分になる。新年早々1月8日に新国立劇場 中劇場で観た『阿呆浪士』が今年最初の出会い頭のホームランだった。『忠臣蔵』で知られる赤穂浪士の吉良邸討ち入りに題材を取り、現代の劇作家たちがそれぞれの感覚で想を練った“外伝”と呼ぶべき舞台は偶然1月に首都圏で3本上演と相なったが、そのうちの1本である鈴木聡の戯曲をラサール石井が演出した『阿呆浪士』は一介の魚屋“八”が赤穂浪士として討ち入りを果たすまでを見事なエンタテインメント時代劇に仕立てあげられていて大いに笑わせてくれた。

脚本の鈴木聡が主宰する劇団、ラッパ屋での初演は1994年。鈴木さんはプログラムの冒頭で「落語が好きな僕は思った。“そうだ。巨大な落語みたいな芝居をつくろう”というわけで『阿呆浪士』のストーリーができました。主人公は、熊さん八っつぁんでお馴染みの八。“酒好き、女好き、博打好き、気が短くてノリがいい”という典型的な江戸っ子キャラ。その八が、自分がついた小さなウソがきっかけで赤穂浪士の一員となり、あれよあれよという間に討ち入りをしてしまう、という馬鹿馬鹿しくも痛快な一席。」と書いておられるが、タイトルの『阿呆浪士』のエネルギーが最初から最後まで持続していくところが面白さの要因だろう。そして「保身の嘘と言い訳だけが蔓延するこんな時代だからこそ、人生で一度くらい損得勘定抜きで、阿呆になってハチャメチャやれる、そんな一瞬もあっていいって思っていただける芝居ができそうです」と「阿呆でいこう!」というタイトルのついた口上をプログラムに書いているラサール石井の無駄のないテンポのいい演出もおもしろさに拍車をかけている。

それに加えて“八”を演じるジャニーズ系のA.B.C-Zの戸塚祥太とこれまたジャニーズ系のふぉ~ゆ~という4人組ユニットのメンバーである福田悠太の主役2人組が大健闘で、以前にも書いたが、ジャニーズ系のグループの力のあるメンバーがうまく芝居の世界に進出するという図式は今や完全にひとつの流れになっている感がある。狂言回し的役割として出演していた人気浪曲師・玉川奈々福の存在感と芸風も最高で、こんなことなら無理をしてでも浅草の木馬亭で上演されたつか版『忠臣蔵』と横浜市泉区民文化センターで上演された井上ひさし作の『イヌの仇討』も観に行けばよかったと後悔しきりだ。

久しぶりに観た『ゴッドファーザーPART III』、FUJIFILM SQUARE『日本の美を追い求めた写真家・岩宮武二 京のいろとかたち』

『ゴッドファーザー PART III 〈デジタル・リマスター版〉』
発売日:2019年4月24日
価格:Blu-ray 1,886円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
TM & Copyright (C) 1990 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. FROM ZOETROPE STUDIOS TM, (R) & Copyright (C) 2014 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

そして『阿呆浪士』のテンポの良さ、無駄のなさというのはエンタテインメントのレベルを計るひとつの基準でもある。テンポの良さというのは、スピードではなく、進行のリズムのようなものだが、テレビの番組表を見ていて偶然見つけ、本当に久しぶりに観たフランシス・フォード・コッポラの『ゴッドファーザーPART III』などは今はもうこういうテンポでマフィア系の人間ドラマを作れる監督はいないだろうなと思えるもので、主役のアル・パチーノが「まだ若いねエ~」とつぶやかせてしまうくらいに脇を固めているイーライ・ウォラックをはじめとする俳優陣たちのある種凄味のある芝居にも舌を巻かされた。その存在を忘れていたジョージ・ハミルトンの眼の芝居にも唸らされた。カーマイン・コッポラとニーノ・ロータが担当した音楽も素晴しく、思わず棚からサントラ盤を出して、ワインをあけ、聞き惚れてしまった。

《一力 祇園》1955-1965年 写真:岩宮武二 (C)IWAMIYA Aya

あとはもうひとつFUJIFILM SQUAREで3月31日まで開催されている岩宮武二の『京のいろとかたち』のことを書いておけばいいだろうか。それほど大きなスペースではない会場に、こじんまりと写真が飾られているが、生誕100年を記念し、代表作である京都のシリーズから“京のいろとかたち”をテーマに厳選された28点の作品は、現代において失われた美、変わらぬ美を再び見つけ直させてくれる。僕の中ではその写真と『ゴッドファーザーPART III』とがどこかでゆっくりと重なり合っていった。

作品紹介

パルコ・プロデュース『阿呆浪士(あほうろうし)』

日時:2020年1月8日~24日
会場:新国立劇場 中劇場
劇作・脚本:鈴木聡
演出:ラサール石井
出演:戸塚祥太(A.B.C-Z)/福田悠太(ふぉ~ゆ~)/南沢奈央/伊藤純奈(乃木坂46)/小倉久寛/他

『ゴッドファーザーPART III』(1990年・米)

監督・製作・脚本:フランシス・フォード・コッポラ
出演:アル・パチーノ/ダイアン・キートン/タリア・シャイア/アンディ・ガルシア

『日本の美を追い求めた写真家・岩宮武二 京のいろとかたち』

会期:2020年1月4日~3月31日
開館時間 10:00~19:00 (入館は18:50まで)会期中無休
会場:FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア) 写真歴史博物館

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。

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