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『スカーレット』北村一輝の本心が明かされる 夢を追うことができなかった人たちの叫び

リアルサウンド

19/11/29(金) 12:00

 深野心仙ことフカ先生(イッセー尾形)が信楽を離れることになり、深野組の解散が決まった前回。『スカーレット』(NHK総合)第53話では、フカ先生についていくのか悩む喜美子(戸田恵梨香)と父・常治(北村一輝)のやりとりが描かれた。

参考:『スカーレット』第54話では、深野(イッセー尾形)が信楽を去る日が訪れる

 深野組の解散式と言うべき食事会を終えた喜美子を待っていたのは、常治とマツ(富田靖子)。フカ先生や絵付け職人が一斉に辞めることを知り、喜美子の今後を案じているようだ。噂話として伝わってきたその情報は、社長の交代で今までいた人間がクビになったというもの。確かに、客観的に見ればあながち間違いではないのだが、先刻深野組それぞれの新しい道への思いを聞いてきた喜美子にとって、その口ぶりは納得できない。

「新しいことに挑戦するんや! お父ちゃん分かる? どんなにすごいことか。フカ先生は弟子になるんやで? そんなことできる!? いくつになっても学ぼうとしてるんや。やりたいことやろうとして、好きなこと追いかけて! いくつになってもフカ先生は……フカ先生はすごい先生や! 世間が何と言おうと すばらしい人間や!」

 喜美子は思いの丈を吐露する。いつもの『スカーレット』なら、この後常治がちゃぶ台をひっくり返して、大暴れ……といった具合だが、今日はそうではなかった。常治は静かなトーンでポツリと語り始める。

「なあ、お前世間の何を分かっとんねん。ええ? 世間のどんだけの人間がやりたいことやってると思ってんねん。好きなことを追っかけて……それで食える人間がどんだけおる思とんねん」

 朝ドラをはじめ多くの作品に言えることだが、「夢を持って頑張っている人たち」を無条件に賛美する風潮は確かにある。もちろんそれは当たり前だ。夢も希望も持っていない主人公では、ドラマは作りづらいし、朝の15分にそんな希望を感じられない作品を誰もが観たいとは思わないだろう。そのため、主人公が夢に向かってまい進するさまが描かれる一方で、夢を諦め挫折してしまった人が描かれる必要があるのだ。『スカーレット』では、夢を追うことができなかった人の視点が忘れられることなく添えられている。

 興味深いのが、今回その役割を担うのが常治だということだ。酒浸りで家族に迷惑をかけてばかりいる。言ってしまえば、喜美子の決断に毎回水を差す役回りをこれまで担っていた存在が、夢を追うことが叶わない人間の言葉を代弁する。なんて皮肉なのだろうか。常治は戦争の最中、必死に家族をつなぎとめようと頑張っていたのだろう。信楽に移り住み仕事をはじめ、家族を守ろうと奮闘するも、自分の心の弱さにどうしても打ち勝てず、結果として空回りしてしまっている。そんな人間味溢れる男の、愛と哀しさが見事に活写されていた。

 恩師の決意と父の独白を聞き、喜美子は何を思うのか。そして火祭りに捧げた願いとは。そのうねりの中で、就職か進学か、家庭の事情に翻弄される百合子(福田麻由子)の未来はどのように開かれるのか。

(文=安田周平)

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