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DJ泡沫が選ぶ、2020年K-POP年間ベスト10 BLACKPINK、TXT、GOT7、NCT……“楽曲”そのものと向き合った1年

リアルサウンド

20/12/26(土) 8:00

Cosmic Boy『Can I Heat?』
Junggigo「EOY feat.Jay Park」
OnlyOneOf『Produced by [  ]』
BewhY&Simba Zawadi『NEO CHRISTIAN』
V.A.『どストライクな彼女(She is My Type)』OST
BLACKPINK『THE ALBUM』
TOMORROW X TOGETHER『minisode1 : Blue Hour』
NCT『RESONANCE Pt.2』
GOT7『Breath of Love : Last Piece』
ぺク・イェリン『tellusaboutyourself』

 以前2018年に年間ベスト記事を書いた時はその年の社会情勢などから「2018年のK-POP」を表すと思った10枚を選んだが、2020年のテーマは「気に入った、またはぜひ聴いてもらいたいと思うK-POP/HIPHOP作品」ということで、個人的に聴くものとして好みだったり面白いと思ったアルバム(EP・シングル含む)を10作品選んでみた。

 2020年は、CODE KUNST、BRONZE、DPR LIVEなどトラックメイカーのアルバムが豊作だったが、個人的に最も良く聴いたのはGIRIBOYが中心のクルー・WYBH(宇宙飛行)に所属しているCosmic Boyによる2年ぶりのEP『Can I Heat?』だった。以前は音楽を移動中や外にいる時に聴くことが多く、外部からの刺激を遮断したりそれに負けないような存在感の曲を求めていた気がするが、新型コロナウイルスの影響により家の中で音楽を聴く機会が増えたせいか、家仕事などの「暮らしの動作」と共存できるような音を求めるようになった気がする。全編アコースティックでチルなこの1枚が今の生活スタイルにハマったようだ。個人的に好きなシンガーソングライターのソヌ・ジョンアがフィーチャーされているのも良かったところ。

 『アイドルマスター』の実写企画であった『アイドルマスター.KR』をきっかけに、韓国でソロデビューした日本人アーティスト・YUKIKAのようにシティポップ要素を取り入れたようなK-POPを耳にすることは珍しくなくなってきた。その中で今年個人的にいちばんしっくりきたのがJunggigo「EOY feat.Jay Park」。80s〜90sのJ-POP男性ソロボーカリスト、例えば来生たかおや池田聡を思い起こさせるようなJunggigoの温かみのある声質がニューミュージックっぽいアレンジと絶妙にマッチしている。Jay Parkをフィーチャーしラップパートが入るあたりは間違いなく「K-POPらしい」アレンジと言える。

 デビューから一部で楽曲の良さが話題となっていたOnlyOneOfは、HaeilなどR&Bで知られるアーティストやLOOΠAの楽曲で知られるBillie Jeanの起用など、楽曲面へのこだわりが強く感じられるボーイズグループだ。今年リリースしたEP『Produced by[ ]』は、タイトルの通り1曲ごとに異なるプロデューサーを迎えたシリーズで、Rain(ピ)の『Rainism』や、個人的に名盤だと思っているMBLAQの『BLAQ Style』などを手掛けたJR Grooveのようなベテラン作曲家、さらにGRAY、Cha Cha Maloneのようにアイドルへの楽曲提供でも有名なプロデューサーだけでなく、BOYCOLDや Samuel Seoなどアイドル系楽曲とは今まであまり接点がなかったHIPHOP/R&B系のプロデューサーやアーティストも参加している。所属レーベルの<RSVP>は俳優系のマネジメント会社、8Dクリエイティブが初めてアイドル制作のために作った事務所。タイトル曲のリリックビデオをリリースしたりと、まず「顔を知らせる」ことがメインになりがちな新人グループとしては、独特のA&Rセンスを感じるグループだ。『Part.2』でGroovyRoomがプロデュースした「a sOng Of ice & fire」は『ゲーム・オブ・スローンズ』の世界観をコンセプトに、MVの概要欄からは「ありきたりなK-POPっぽい楽曲やコンセプトにはしません」という熱量を感じる。全曲がタイトル曲となってもおかしくない、華やかさと同時に「K-POP=アイドルミュージックらしさ」という定形からも少しずれている感じが聴き飽きないアクセントになっており、音だけでも集中して聴きたくなるシリーズだった。

 『SHOW ME THE MONEY 5』の優勝者としてブレイクした人気ラッパー・BewhYと、レーベルメイトのSimba Zawadi(現在はSon Simbaと改名)がリリースした『NEO CHRISTIAN』は、タイトル通りの1枚。韓国は宗教的に仏教徒よりもキリスト教徒の方が多い国で、クリスチャンアルバムや楽曲に参加するアーティストは時折耳にしたが、韓国のラッパーによる本格的なクリスチャンミュージックアルバムを聴いたのは、これが初めてかもしれない。2人ともプロテスタント信者で、特にBewhYは過去の楽曲にもキリスト教的要素を伺わせるものがあった。ジャケットは『新世紀エヴァンゲリオン』のオマージュで、内容的には2012〜2014年あたりのカニエ・ウェストをリファレンスしたとのこと。カニエのアルバム『Yeezus』のような作品を韓国ヒップホップ的なアプローチで表現できないか、という試みのようだ。キリスト教系のミッションスクールに通っていたので個人的に元ネタがわかる部分が多いこともあり、こういうfaith=信仰心の表現の仕方もあるのだなと興味深かった。トラック自体のクオリティやヒップホップっぽくない3拍子を多用するラップのテクニックも堪能でき、GRAYやVainといったプロデューサーや、Jvcki Wai、C Jammなどフィーチャリング陣も豪華。

 今年7月、韓国での利用者が最も多い音源配信サービス、メロンミュージックのチャート改変があり、以前にも増してTV番組関連やファンダムがあらかじめ強いアーティスト以外の楽曲が上位にあがることが珍しくなったようだが(12月にも改変があり、アプリとサイトのトップ画面にチャートそのものを載せなくなった)、その中でも8月にBTS「Dynamite」を超える勢いでランクインし、現在もチャートインし続けているのが、人気ウェブトゥーン(=ウェブコミック)『She is My Type(どストライクな彼女)』のOST楽曲。ウェブトゥーンのOST自体は以前からあったものの、今回のようにチャート上位に入るのは初。ヒットの要因としては、原作の人気、ラブロマンスというジャンル、キュヒョン(SUPER JUNIOR)やサンドゥル(B1A4)、CRUSHやMONSTA Xといった人気アーティストが参加していることがシナジーになった結果らしい。個人的にはCAR THE GARDENの「All Night Long」が好きで夜聴くのにぴったりだと思う。

 BLACKPINKによる4年越しのフルアルバム『THE ALBUM』は、タイトルからして余計な装飾やコンセプトを拒否するような自負を感じるが、確かにどの曲も気合が漲っており、ひと仕事やる気を注入したい時にぴったりだ。8曲というとフルアルバムの物量的には物足りなくも感じるが、実際聴いてみると1曲あたりの濃度が高い。飽きずに繰り返し聴くには、このくらいのボリュームが最適なのかもしれない。

 今年Billboard HOT100で1位を獲得し、さらにファン層を拡大したBTSの後輩グループで、自身も初のBillboard 200 Chart 入りを果たしたTOMORROW X TOGETHERの3rdミニアルバム『minisode1 : Blue Hour』は、爽やかさとこの時代の青春特有の切なさが詰まっている。タイトル曲の「Blue Hour」は、ディスコ調でありながらK-POPらしい、キラキラしたデコ装飾のようなアレンジにときめき、Charli XCXが参加した「We Lost The Summer」のようにパンデミック下の青春というテーマをいち早く取り入れるあたりも流石。TXTは、韓国ではなぜかタイトルが毎回やたら長い曲のグループという印象らしく(「Blue Hour」の原題は「5時53分の空で見つけた君と僕」)日本でいうと“なろう小説”のタイトルが徐々に長くなっていく現象と、ライトノベル=青春小説という符合で繋がったり繋がらなかったり。

 NCTの「流動的で可変性のあるメンバー構成」というテーマは、固定のメンバー構成を愛でがちなアイドルファンにはいまひとつ馴染みにくい印象があった。しかし、新メンバーのソンチャンとショウタロウを加えた23人でのカムバックでその真価が現れたようだ。『RESONANCE pt.2』のタイトル曲のひとつ「90’s LOVE」はニュージャックスイングを2020年的に解釈したようなニュートロ(ニューレトロ)文脈の曲なのかもしれない。だが、パンチの効いたリズムと背後に流れる不穏な音が妙にマッチしており、確かに現状K-POPでしか聴けない楽曲として、無条件にテンションが上がる。怒涛の展開がアミューズメントパークのようなSMエンターテイメントのシグネチャー感がよく出ている曲でもあると言えそうだ。NCTのラップラインが一堂に会した「Misfit」は、NCTサイファーといった趣でSMの新しい時代を体現した曲だ。特に新加入のソンチャンのラップトーンはどことなくThe Quiettを思わせるようなバイブスがあり今後が気になる。

 今年最も純粋にアルバム・楽曲を気分よく聴いたと思うのがGOT7『Breath of Love : Last Piece』。歌詞の内容、MV、作曲家、コンセプト、とりあえず何も見ずにアルバムそのものをヘビロテして聴いていた。全曲K-POPらしいトレンディさのあるEDM/R&Bでボーカルエフェクトも効いているが、一方で押しつけがましさのないつつましさのような、華はあるがやりすぎない、その「ちょうど良さ」を知っている1枚。

 ペク・イェリンの楽曲でおそらく日本で最も有名なのはドラマ『愛の不時着』OSTに収録されている「Here I Am Again」かもしれない。そんな彼女の新譜『tellusaboutyourself』は、前作同様、全編英語詞。「Square(2017)」のようなポップで爆発力のある曲はないが、アルバム全体から受けるドリームポップやローファイな雰囲気は、どこか夢の中にいるような、フラットでふわふわとした印象を受ける。最初はハングルで歌詞を書いたそうだが、英語の方がより合っていると判断して英語詞にしたというが、確かに韓国内よりは欧米圏のポップスに近い音楽的なアプローチかもしれない。ぺク・イェリンによる歌詞は、どれも短編小説のような趣を感じるが、特に「Lovegame」に込められた現代的な愛についてのメッセージが印象に残る。

 パンデミック下でライブが行われなくなり、外出も控えがちになって家にいる時間が増えると、どうしても「ながら聴き」する機会の方が増えるため、仕事以外では耳だけで聴いた時に楽しめる曲を繰り返し聴くことが増えた。そういう意味では、パフォーマンスやMVなどの視覚的な刺激やコンセプト、メッセージなどの情報を除外してもただ音声のみで個人的な喜びを感じられる楽曲というのが裏テーマだったのかもしれない。もちろん、それらの要素があれば何倍にも楽しめるのがK-POPの長所だが、改めてK-POPの「楽曲」そのものと向き合った年だったように思う。

■DJ泡沫
ただの音楽好き。リアルDJではない。2014年から韓国の音楽やカルチャー関係の記事を紹介するブログを細々とやっています。
ブログ:「サンダーエイジ」
Twitter:@djutakata

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