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峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら

キヨタカの思い出

毎週連載

第104回

先月出したアルバム『ねえみんな大好きだよ』の冒頭でハードコアの曲が入っててさ、この話はいろんなインタビューでも話してるんだけど(アルバム連載・第3話、第4話参照)、元は高校の卒業のときにやったパンクバンドでの思い出が大きいの。

このバンドは同級生の森くんっていう人に誘ってもらって僕も入ったの。ギターが森くん、ベースがキヨタカ、ドラムが藤木くん、それでボーカルが僕っていう。高校卒業を記念してやったライブで最初で最後の演奏をしたんだけど、すごい盛り上がってね。僕の中では何かが始まった瞬間でもあった。

このメンバーのうち、キヨタカっていう友だちは2014年に事故で亡くなったんだけど、本当にチャーミングで、僕からするとギャグセンの高い奴だった。本当に面白い奴でさ、一緒に街を歩いてるとするでしょ。そうすると、目の前を歩いてるオッチャンとかにすぐ話しかけて「オッチャン! タバコくんない?」みたいに言っちゃう。キヨタカは山形の寒河江出身なんだけど、東京だろうがどこだろうが、いつでも寒河江ノリ(笑)。どこでも雪駄でズッタズッタ歩いてた。なんか僕の中では寅さんとかと似たイメージがキヨタカで、男気があるかぶき者みたいな感じの奴だったね。

でも、地元・寒河江でのキヨタカの伝説はすごくてさ。同世代ではキヨタカのことを知らない人がいないくらいのドヤンキーだったみたい。僕はただ「パンクロック好きなキヨタカ」として付き合ってるんだけど、他の寒河江の友だちにその話をすると、一瞬みんな顔がこわばる。「お前何? キヨタカと友だちなの? 相当ヤバいよ、キヨタカは」みたいな。キヨタカと友だちっていうだけで、僕に対してまで見方が変わるような感じがあった。

聞けばさ、キヨタカは「ヤクザを相手に喧嘩して勝った」とか、そんなエピソードばっかり。寒河江出身で1個下のアビちゃん(元メンバー・ベース)にしても「キヨタカ先輩の伝説は……シャレにならないっす。相当ヤバいっすから」みたいにビビってた。

でもさ、僕にとっては別に普通の友だちでさ。「かっちゃーん」みたいな感じ。何か暴力をふるわれるとか、悪いことに誘われるとかも全然なかったんだ。むしろ、気持ちの綺麗な奴でさ、GOING STEADYで最初にレコードが売れたときだってさ、「ところでかっちゃんよ。いくらもらってんの? みんなが知りたいのはそこだべ!」みたいなことばっかり聞いてくる(笑)。「お前いつもゲスいこと聞くなぁ」みたいに返して。そういう歯に衣着せないキヨタカが僕は好きだったし、噂で聞くような怖い印象も僕はなくて。むしろ、僕自身がさ、キヨタカから教わることがすごくいっぱいあるくらいだったんだ。

キヨタカが死ぬ前までに、僕はキヨタカが泣いたところを2回見たことがあった。

1つは、仲間がヒドい目に遭ったとき「あいつが、あんなヒドい目にあってさ。絶対許せねーよ!」みたいなことで憤って泣いてた。キヨタカは寒河江では傍若無人のヤンキーのように思われていたけど、実は自分のことで怒ったり泣いたりすることはあんまりなくてさ。仲間がやられたり、ヒドい目に遭ったことで、そうなることが多かったの。情に厚い奴で、自分のことより仲間のことをまず思うようなね。なかなかそういう人っていないよね。

それともう1つ。キヨタカが泣きながら怒ったことがあって、それは僕に対してのことだった。

高校時代のパンクバンドで僕を誘ってくれた森くんが、山形で結婚式をあげることになったの。その結婚式にさ、僕も「行く」って言ってたんだけど、当日、どうしても外せない仕事が入って行けなくなっちゃった。それは斎藤正樹(元マネージャー)、江口くん(マネージャー)から、森くん側に伝えてもらったつもりだったんだけど、森くんの結婚式があった晩、僕のところにキヨタカが電話をかけてきてさ。

開口一番「おめーよ!」って言われて。もうキヨタカは声を震わせて泣いてるわけ。「おめーよ! 今日の結婚式、森がどれだけお前が来てくれることを楽しみにしてっけか、わかってんのか。おめーに会えることを本当に楽しみにしてたんだぞ」って言う。僕は「ごめんね。うまく伝わってなかったみたいで、本当にごめん」みたいに謝って。でも、キヨタカは収まらないわけ。「『伝える』とか『伝えねー』とかじゃねーべよ。おめーはもう死ね! 2度と山形に帰ってくんな。おめーはもう死ね!」みたいに言われて……。

このときは本当にこたえたな。キヨタカの言う通りだとも思うし、キヨタカが大事にする仲間への気持ちが僕も大好きだったからね。それで、翌日すぐに森くんに電話して謝って。森くんはさ、「全然大丈夫。気にすんな。キヨタカには俺からも言っておくから、かっちゃん(峯田)は気にしなくて大丈夫」って言ってくれたけどね。

キヨタカって、そういう本当に仲間思いの気の良い奴でさ、だから僕は大好きだったんだ。事故で亡くなってもう6年くらいになるけどさ、でもこの話を読んでくれた人も、キヨタカがどういう人間だったかって、これだけですぐわかってくれると思う。

それくらいチャーミングな奴だったし、こうやって亡くなった後もさ、キヨタカを知らない誰かに話をしてもすぐどんな人間か通じるってことは、「キヨタカが生きてるからだ」と僕は思うんだ。なんだろうな……月並みな言い方だけど、肉体は死んでも僕の中ではずっとキヨタカは生きているみたいなね。だから、キヨタカが死んでいなくなっちゃったっていう事実を突きつけられてもさ、不思議なことにあんまり寂しくないんだよね。

この連載の取材は、月イチくらいで喫茶店に集まり、喋ったものをまとめてもらっています。

構成・文:松田義人(deco)

プロフィール

峯田 和伸

1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。


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