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『映像研』はアニメーションで放送するに相応しい作品だった 夜明けの街に見た明るい未来

リアルサウンド

20/3/23(月) 11:30

 1月5日より放送されていた『映像研には手を出すな!』(NHK総合)が3月23日、12話にて最終回を迎えた。

参考:『映像研には手を出すな!』の美術における“日常”と“日本” アニメの世界は新たなフェーズへ?

 自主制作物発表会「コメットA」に向けて、新作アニメの製作もいよいよ佳境に入った映像研メンバー。しかし、SNSで依頼した劇中で使用する音楽が本編と全く合わないというアクシデントが発生。進行を担当する金森が外部に掛け合うも製作時間は延ばせず、タイムリミットは刻一刻と迫る。

 そんな中、浅草みどりが「(ラストの)ダンスシーンをやめて作り直す」という提案をする。本当にこれでいいのかと思っていたラストを、変更することで納得のいくものに仕上げられるという。当初のラストは主人公側と敵側の共存と和解の大団円によって結末を迎えさせる予定だったが、浅草はそれを否定。平和な世の中や完全なフィフティー・フィフティーなど存在しないという持論を展開する。浅草の考え出した「真のラスト」を知った金森と作画担当の水崎ツバメは、「コメットA」当日までに作品を完成させるため浅草と共に奮闘するのだった。

 迎えた「コメットA」当日。何とか完成品が用意できた映像研は、自らのスペースでDVDの頒布を開始する。金森が打った「カリスマ読者モデルの水崎を広告塔にする」という作戦も功を奏し、作品は次々と売れていく。

 多種多様な人々が自身の作品を手に取っていくさまを見て、「現実味を感じない」と漏らす浅草。帰り際、完成品を自宅で鑑賞しようと2人を誘う。

 その夜、3人は作品を鑑賞。視聴者は3人と共に、初めて新作「芝浜UFO大戦」を目にすることとなる。そのラストは――戦いの続く世界で、主人公の人間と敵の河童がそれぞれのテリトリーに単独で向かい、降参を相手に知らせるため両手を上げる、という結末だった。

 3人と同じくしてアニメ映像を観ていた人々は、夜明けの街にアニメのそれと同じような地下深くの街が外界にそびえ立っていくのを目の当たりにする。スパークする浅草の脳内。顔を赤くしてそのまま寝入ってしまった浅草を見守る金森と水崎。暫くして起き上がり、窓辺に立った浅草は言う。

「まだまだ改善の余地ばかりだ」

 再び3人の日常が戻ってくる。いつもの部室、いつもの時間に。そしてアニメ『映像研には手を出すな!』は完結した。

 まず感じたのが、「芝浜UFO大戦」で浅草が描かんとしたラストだ。人は大団円では終われない、平和的解決など存在しないという考え方は極めてリアルであり、これを創作物で描こうとした浅草は、確実に第1話時点の「映像研ではなかった」彼女を超えている。創作に対する究極の決断を、外部のミスが発端ではあるものの、彼女はやり遂げたといってもいい。

 「芝浜UFO大戦」が完成した後、実際に作品を観終わってからオーバーヒートしてしまったかのように燃え尽きる彼女もまた、創作に打ち込む人間なら誰しも経験したことがあるだろう。無論、その後に迎える夜明けと、彼女がそこで発したセリフの大いなる意味も。

 改めて本作を最後まで見届けた感想として、ここまで創作をする人間に寄り添ってくれたアニメはなかったと思う。また、最終話が「創り出そうとする人間」の「再出発」を描き、そしてそのままこのシーンが『映像研には手を出すな!』という作品の今後を想像せざるをえない胸の高まりを呼び起こすのも、非常に巧みで唸らざるをえない。

 本作はまさに「創作人のための、創作人による作品」なのだ。ありとあらゆる場所から個性際立つ創作物が湧きおこっては人々を楽しませんとする現代の日本において、アニメーションで放送するに相応しい作品だったに違いない。浅草が最後に発したセリフには、明るい未来が見える。映像研メンバーである彼女たちにおいても、そして日本の誇るべきクリエイティブな世界においても。

 「創作」という、苦しく茨の道ながらも人生の喜びに満ちた世界を生きる少女らの冒険活劇。それを1つの作品として表現してくれた『映像研には手を出すな!』に、改めて大きな拍手を贈りたい。

■安藤エヌ
日本大学芸術学部文芸学科卒。文芸、音楽、映画など幅広いジャンルで執筆するライター。WEB編集を経て、現在は音楽情報メディアrockin’onなどへの寄稿を行っている。ライターのかたわら、自身での小説創作も手掛ける。

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