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西廣智一が選ぶ、2019年ラウドロック年間ベスト10 BMTH、Russian Circles、Slipknotなど意欲作が気になる1年に

リアルサウンド

19/12/26(木) 7:00

1. Bring Me The Horizon『Amo』
2. Tool『Fear Inoculum』
3. Russian Circles『Blood Year』
4. Leprous『Pitfalls』
5. Killswitch Engage『Atonement』
6. Slipknot『We Are Not Your Kind』
7. Baroness『Gold & Grey』
8. Gatecreeper『Deserted』
9. Mamiffer『The Brilliant Tabernacle』
10. Alcest『Spiritual Instinct』

 ここ数年、シーンを象徴するようなビッグネームの活動終了(解散)やメンバーの急逝などネガティブな話題が多い印象のあったHR/HMやラウドロックシーンですが、2019年は比較的ポジティブなトピックが多かった印象があります。

 国内では3月に初開催された『Download Festival Japan 2019』』がソールドアウトと大盛況。ヘッドライナーのオジー・オズボーンが直前にキャンセルとなるハプニングこそあったものの、それに代わってJudas Priestが急な対応ぶりを見せ、最後の来日となったSlayerも熱演。また、海外ではトップビルへと急成長したGhostもその壮大なステージングで観るものを沸かせるなど、印象的な1日となりました。『Download Festival Japan』は2020年3月に次回開催が決定しており、再結成を発表したMy Chemical Romanceがヘッドライナーを務める予定です。

 また、BABYMETALは6月にイギリスで開催された世界最大級の音楽フェス『Glastonbury Festival 2019』に出演し、イギリス国内でも「メインステージのひとつで初めてプレイするJ-POPアーティスト」と紹介され話題になりました。さらに、10月に発表した『METAL GALAXY』は米ビルボードアルバムチャート“Billboard 200”で初登場13位という好記録も樹立しています。

 海外に目を向けると、メタルを含むロック勢はセールスでかなり苦戦しており、かつてチャート上位の常連だったバンドですら“Billboard 200”でTOP10入りを逃すことが増えています。そんな中、Slipknotが5年ぶりに発表したアルバム『We Are Not Your Kind』は3作連続1位を記録。13年ぶりの新作となったToolの『Fear Inoculum』は、長尺な楽曲が多いにも関わらずストリーミング方面でも健闘し、テイラー・スウィフトなどの強豪を抑えて1位を獲得しました。Rammsteinの新作(無題/untitled)も10年ぶりながら全米9位と好記録を残しています。一方でイギリスに目を向けると、Bring Me The Horizonの新作『Amo』が初の全英1位に。いわゆる大御所が上位入りするアメリカとは異なり、イギリスではメタル/ラウドロックを新たな方向へと導くBMTHのようなバンドが好意的に受け入られるという、興味深い結果を示すことになりました。

 このほか、2015年末のライブをもって活動停止したMötley Crüeが自伝映画『ザ・ダート:モトリー・クルー自伝』をNetflixで公開したことで、バンドに対する注目が再加熱。これを受けて、2020年夏にはDEF LEPPARDやPoison、ジョーン・ジェットとのスタジアムツアーで再始動することもアナウンスされました。Rage Against the Machineも2020年に再始動することを発表していますし、先のMy Chemical RomanceやThe Black Crowes、Mercyful Fate、MrBungleなども今年、もしくは来年にライブを行うことを宣言しています。

 このように2019年を振り返ると、どうしても90年代以前から活動するバンドが幅を利かせることでシーンが維持されているように見えてしまいがちですが、HR/HMおよびラウドロックなどエクストリームミュージック界隈から誕生した新作について語ると、新勢力が台頭し始めた印象が強い気がします。今回選んだ10枚は、そのどれもが過去のキュレーション連載でピックアップした作品ですが、個人的にはヘヴィメタルという枠にとらわれない意欲作ばかりが気になった1年になりました。順位に関しては、この記事を執筆している2019年12月中旬時点でのものとなるので、公開された頃には変動している可能性もあるのでご了承を。

 まず、1位に選んだBring Me The Horizon『Amo』(1月発売)は文句なしの1枚でしょう。1月リリースというとこういった年間ベスト企画では忘れられがちですが、8月には『SUMMER SONIC 2019』で、11月にはBABYMETAL日本公演のゲストアクトとして二度の来日を果たし、またこの秋にはSonyの最新スマートフォン・Xperia 5のCMに起用されるなど、露出という点においては1年を通じて話題が尽きなかった印象があります。もちろん、肝心の中身も素晴らしいもので、メタリックな激しさを追求する方向から多様性・拡散性へとシフトした作風はエクストリームミュージックの新たな可能性を示す結果となりました(参照:BMTH、Fever 333、Papa Roach……話題作から「2019年のラウドシーンの在り方」を考察)。

 2位には、13年ぶりの新作となったToolの『Fear Inoculum』をセレクト。音楽の聴き方がストリーミング全盛となった今、大半の楽曲が10分超と時代と逆行したスタイルながらも、改めてその作品性の高さを示してくれたと同時に、パッケージでも工夫をすればちゃんと購入してもらえるという結果も残しました(本作は初回生産分のみ、4インチサイズのHDスクリーン付き動画プレーヤー搭載仕様。現在は3Dレンチキュラーカード付きデラックス・ブックレット仕様が流通しています)。3分台の楽曲を手軽に楽しむという音楽の楽しみ方とは対極にあるToolのスタイルですが、どんなに曲が長かろうが、どんなにアルバムが長尺だろうが、良い作品はちゃんと評価される。それが2019年に証明できただけでも、本作が果たした役割は非常に大きいものになったのではないでしょうか(参照:Korn、Tool、Baroness、Opeth……独自のスタンスで“ヘヴィ”を表現するHR/HM新譜6選)。

 3位はRussian Circles『Blood Year』です。彼らはインストバンドなので聴く者を選ぶ印象も無きにしも非ずですが、メタルやラウドロックといった枠では括りきれない独創性の強いそのサウンドは聴く者を強く惹きつける魅力が備わっており、“メタル村”の外側……オルタナティブロックやポストロックを愛聴するリスナーにもアピールする存在感を放っています(参照:Russian Circles、Volbeat、Sacred Reich……西廣智一が選ぶ注目すべきHR/HM新作5作)。それは4位に選んだLeprous『Pitfalls』、7位のBaroness『Gold & Grey』、9位のMamiffer『The Brilliant Tabernacle』、10位のAlcest『Spiritual Instinct』にも共通する要素だと思っており、「うるさいからメタル」「様式美だからメタル」なんて偏見を持って拒絶するには勿体ない存在が豊富なジャンルに成長していくことこそが、このシーンの新たな課題だと確信しています(参照:Alcest、Mamiffer、Leprous……エクストリームシーンから“個”を確立させたHR/HM5枚)。

 そんな中、5位にはKillswitch Engage『Atonement』、6位にはSlipknot『We Are Not Your Kind』をセレクト。旧来のHR/HMの要素をモダンな形に進化させた2000年代以降のUSメタルバンドたちが、今もなお革新的な新作を制作し続けている事実は感慨深いものがありますし、そういった作品がしっかり数字として結果を残していることにも驚きと安心を覚えます(参照:Slipknot、Abbath、GYZE……西廣智一が選ぶ話題性の高いHR/HM新作6作)。両作品とも過去に生み出してきたものを現在のスタイルで表現するだけではなく、メタルの未来を見据えた作品としてまとめられている。古き良きものとして伝統を守るのではなく、過去を受け継ぎながら未来へとバトンをつないでいく、その役目をしっかり果たそうとする両バンドの姿勢は尊敬に値するものです。今回は選外となりましたがKorn『The Nothing』、マーク・モートン(Lamb Of God)『Anesthetic』、そしてRammsteinの新作にも同じことが言えるのではないでしょうか。

 ベテランの域に入ったバンドのみならず、伝統を受け継ぎ未来へ進もうとする新勢力も存在します。8位に選出したGatecreeper『Deserted』はまさにそのひとつで、80年代のオリジナルUSデスメタルや90年代のユーロデスメタルからの影響にモダンなハードコアパンクのカラーをミックスさせた個性的な作品は、まさに2019年のエクストリームシーンの象徴といえるもの。かつてのDeafheavenやPower Tripと同等の輝きを感じさせる今だからこそ、本作をドロップしたタイミングでの来日公演に期待したいところです。

 2010年から始まった“テン年代”が幕を下ろし、新たなディケイドに突入する2020年。日本では先に紹介した『Download Festival Japan 2020』のほか、Slipknot主催フェス『KNOTFEST JAPAN 2020』開催(3月)も控えています。また、久しぶりのIron Maiden(5月)やWhitesnake(3月)、マイケル・シェンカー・フェスト(3月)、Dream Theater(5月)など大物のジャパンツアーも豊富。リリース面でもオジー・オズボーンやMegadeth、AC/DC、System Of A Downなどの新作に期待が寄せられています。Toolのようなリリースの仕方もあるものの、果たしてこれらのアーティストが過去と同様のリリース方針にこだわり続けるのか。CDセールスが減少傾向にある今だからこそ、パッケージの強さを誇るメタルシーンがこの先どう変化していくのかにも注目が集まりそうです。

RealSound_Best2019@Tomokazu Nishibiro

■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

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