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ももいろクローバーZの歴史を紐解く 第5回:有安杏果卒業、ももクロの決意

リアルサウンド

21/3/27(土) 10:00

 メジャーアイドルのなかでもトップ人気を誇りながら、その地位に甘んじることなく常に人々の好奇心を刺激し、全力でおもしろいことを追求し続けている、ももいろクローバーZ。そんなももクロのヒストリーを紐解きながら、あらためてグループの魅力を掘り当てていく、この短期連載。第5回は、電撃的に発表された有安杏果の卒業から、新境地をみせたアルバム『MOMOIRO CLOVER Z』までを振り返る(第1回〜第4回はこちら)。

有安杏果が卒業、別々の道へ“走れ!”

 「普通の女の子の生活を送りたいという想いが強くなり、わがままを受け入れてもらいました」。これは2018年1月15日、公式サイトに掲載された有安杏果の直筆の手紙の一文である。子役から芸能活動を始め、2009年7月にももクロへ加入。以降はライブやレッスンに明け暮れ、日本国内だけではなく海外公演も増えるなど、きわめて多忙な日々を送りながらも学業を両立させ、2017年3月には日本大学芸術学部写真学科を卒業した。

 雑誌『Quick Japan Vol.116』(2014年)のなかのワンコーナーで、「自分を不安にさせること」との質問に「未来」と回答した有安。またインタビュー記事のなかでは、ライターの小島和宏が「ひとつ気になる出来事があって」と有安に対して切り出し、「「GOUNN」のミュージックビデオ撮影現場で、2020年東京オリンピックが開催される頃、ももクロは何をしているのかと盛り上がるなか、有安だけが「私、まだ(活動を)やっているかな」とこぼしていた」と指摘。有安は、「明日のことはよくわかるっていうか、ものすごく考えるんですよ、私。何事に対しても自分で計画を立てるタイプなので(中略)なんか不安なんですよね、準備をしてないと。うん、準備をしたいんですよ、たぶん」と話していた。

 3年連続『紅白歌合戦』(NHK総合)出場、国立競技場でのライブ、レディー・ガガ、KISSらビッグネームとの共演、アメリカツアーなどを実現させ、グループはとてつもなく大きくなった。しかし同誌面のインタビューを今読み返してみると、有安は人一倍、将来に不安を抱えながら活動していたように思える。彼女は、自分が思い描く人生設計図に不安があった。それはアイドルとしての人気の浮き沈みや経済面、生活面ではなかった。パーソナリティの部分に不安が向いていた。

 1月21日、幕張メッセ国際展示場9〜11ホールで開催された『ももいろクローバーZ 2018 OPENING ~新しい青空へ~』で有安はももいろクローバーZを卒業した。〈今はまだ勇気が足りない!少しのきっかけが足りない!動き出して 僕の体 走れ!走れ!走れ!〉。代表曲のひとつとしてずっと歌われてきた「走れ!」のパフォーマンスは、違う道を歩むことになった有安と4人のメンバー、どちらの背中も押す素晴らしいものだった。

全モノノフが泣いた「よし、お前ら全員付いて来い」

 2018年秋には、映画『幕が上がる』の監督・本広克行が演出をつとめ、百田夏菜子、玉井詩織、高城れに、佐々木彩夏が主演する舞台『ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?』が上演された。高校のダンス部に所属する部員たちの運命を描いた同作のなかで、退部するメンバーに向けた「それが正解!」という台詞があった。辞めることも正しいし、ダンスを続けることも正しい。実際のももクロの歩みに重なるような、この内容。活動初期は9人組でスタートし、メンバーの脱退を繰り返しながら4人になったももクロのすべての時代を肯定する、とても印象深い言葉だった。

 有安は卒業後、約1年の休養を経て芸能活動を再開。個人事務所を設立して歌手、写真家として活動している。2019年11月には結婚を発表。自分のペースで制作し、生活を送っている。その表情は、どこかやわらかかった。

 4人体制となったももクロは、5月22日、23日に結成10周年記念『ももいろクローバーZ 10th Anniversary The Diamond Four -in 桃響導夢-』を開催。初の東京ドームでの公演だった。2日間の合計動員は8万人を超えた。初日は「10年丸わかり」と題して120曲をメドレーで聴かせる、相変わらずの無謀なチャレンジを実施。2日目は「4人の覚悟」を示す内容。ライブ終盤、百田の“4人になることが分かったとき、真っ暗になりました。どうやって進んでいったら良いのか、分からなくなりそうな自分がいました。でも、今こうして東京ドームでのライブを迎えることができました。今なら自信を持って言える気がします。まだ4人でできることはたくさんある。やりたいこともたくさんある。ももクロだからできること、みんなとだからできることをちゃんとやっていきたい。アイドルが最強だって、ももクロって本当に楽しいって。よし、お前ら全員付いて来い!”の言葉に、すべてのモノノフの心が震えたのは言うまでもない。

 東京ドームでの公演では、1年後の2019年5月17日に5枚目のオリジナルアルバムをリリースすることを発表。さらに8月4日、5日にはZOZOマリンスタジアムで、前年の『ももクロ夏のバカ騒ぎ2017』に続いて東京オリンピック・パラリンピックを睨んだ『MOmocloMania2018 -Road to 2020-』を実施。ももクロの巨大化はライブ会場や出演イベント、共演者の規模感だけではなく、数年先の予定やスケジュールを意識するなど時間的な部分にまで及んできた。

大人のももクロを印象づけた作品『MOMOIRO CLOVER Z』

 先々までスケジュールが組み込まれていく状況のなか、この時期は、4人があらためて自分の生き方と対峙するタイミングだったかもしれない。現に有安卒業の頃の4人のインタビューは、雑誌、WEBでも「ももクロの決意」という内容が多かった。  2019年1月発売の雑誌『OVERTURE No.017』に掲載された前年末のインタビューでは、玉井が「今年やり残したことがあれば、来年やればいい」と語った。一方、同年4月発売の雑誌『BUBKA ももいろクローバーZ“4人の決断SP”』で百田は、「このままグループを続けていっていいのか」と自問自答したことを明かし、「いままでのような感じで決めちゃダメなんだろうなって。ここは一度、自分と思いっきり向き合って“自分はどうしたいのか”、“なんで迷ってるのか”ってことを真剣に考えなくちゃいけないよなって思って」と話している。

 さまざまな考えがうずまくなか、2019年5月17日にリリースされた4人体制初のアルバムは、ズバリ『MOMOIRO CLOVER Z』である。収録曲の「The Diamond Four」はサウンド、ミュージックビデオともに大人の格好良さが漂った。「レディ・メイ」はブルース調の楽曲で、音楽的にこれまでにないカラーリングだ。トータルして聴くと、デビューから11年目を迎えたももクロのあきらかな成長が綴られた作品だった。

 その象徴的な曲が「Sweet Wanderer」。ミュージックビデオでは玉井が車を運転し、助手席の百田に「夏菜子、会社忙しいの? あまりひとりで背負いすぎちゃダメだよ」と声をかける。ももクロの4人が大人になったことを表現したシチュエーションだった。2019年7月発刊の雑誌『MUSIC MAGAZINE』で佐々木が、「仕事や恋愛につまづいたりした大人の女の子にぜひ聴いてもらえたらと思いました。こんな寄り添い方をする歌はいままでなかったですね」と言うほど、同曲はももクロの新境地である。少女たちは着実に大人になっていたのだ。

ももクロMV】ももいろクローバーZ『Sweet Wanderer』Music Video

■田辺ユウキ
大阪を拠点に、情報誌&サイト編集者を経て2010年にライターとして独立。映画・映像評論を中心にテレビ、アイドル、書籍、スポーツなど地上から地下まで広く考察。バンタン大阪校の映像論講師も担当。Twitter(@tanabe_yuuki)

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