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安藤裕康氏

第3回:今年の東京国際映画祭は“ここ”が変化! チェアマンが徹底解説

1985年に渋谷でスタートした東京国際映画祭はこれまでに会場や部門などを少しずつ変えながら歴史を重ねてきたが、映画祭の代表を務めるチェアマンと、上映作品を決めるプログラミングディレクターの交代が大きな節目や転換点になることが多い。2019年から映画祭チェアマンに就任した安藤裕康氏は映画祭や世界の映画界をめぐる状況を調査し、準備を重ね、今年、大きな変革に出た。安藤チェアマンは「東京国際映画祭を“真の国際映画祭”にしたい」と語る。自身も大の映画ファンだと語る安藤氏は今年、映画祭をどう変えるのか? そして東京国際映画祭はどこへ向かうのだろうか?

1:東京を“映画の街”に! 開催地が日比谷・有楽町・銀座エリアに

本映画祭は渋谷、六本木、日本橋など東京の様々なエリアで開催されてきたが、2021年から日比谷・有楽町・銀座エリアに場所を移す。これまでのように限られた会場ではなく、複数の会場を活用することで“街全体が映画祭会場”になる。

「映画祭は地域の持っている雰囲気や空気を吸収して、呼吸していくことが大事だと思います。六本木も非常に良い会場でしたが、日比谷エリアを会場にすることでさらに良くなると思っています。もちろん、会場を移すとなると本当に大変で(笑)、まずは六本木の会場のみなさんにちゃんとご説明して、会場を移すとなると予算は増えてしまいますからその問題もありました。それから上映会場をどこにするのか? これもエリアの映画館や会場を自分で実際に歩いて、お願いをしてまわりました。みなさん事情がありますから、大変なことも多かったのですが、映画祭事務局のみなさんが問題を克服してくれましたし、来年の上映会場の交渉もすでに動き始めています。

日比谷エリア

東京都が豊洲のあたりに大きな映画上映施設でも新設してくれるといいんですけど(笑)そういうわけにはいきませんから、ベルリン映画祭のような会場が分散した形での開催になります。でも、そのことをメリットだと考えて、このエリアを“映画の街”にしていきたいと思っています。まずは有楽町の駅前を情報センターにしようと考えていまして、チケット売り場とインフォメーションセンターとビジョンを設置して、映画祭の告知をやっていきます。それから街にフラッグを出すことも考えています。

有楽町駅

映画祭では華やかさやお祭り感を出していきたいんです。いずれは銀座の街のレストランも床屋さんもみんなが『この時期は我が街の映画祭だ』と思っていただけるようにしたい。だから、今年は初年度になりますけど、いずれは映画祭が“街の秋の恒例行事”になってもらえたらいいなと思っているんです。映画祭は街の人みんなのもので、映画オタクだけのものではないと思うんですね。

ですから、街の方にも今年の映画祭を観ていただいて、来年はもっと協力していただける体制をつくっていきたいと思っています。新しい街に引っ越してきて『はじめまして』とお菓子配って回ってもそれだけではダメだと思うんです。その街で色々なことがあって、お互いの信頼関係ができていくわけですから、時間をかけて実績を残していくことが必要ですよね。でも、ちゃんと時間をかけて“映画の街”として東京国際映画祭がある、そんな風にしたいと思っています」

2:クオリティ重視の作品選び。ディレクター交代の理由

市山尚三プログラミングディレクター

そして今年から上映される作品を選定するプログラミングディレクターが交代になる。これまで長年渡って東京フィルメックスのディレクターを務め、映画プロデューサーとしてジャ・ジャンクー作品なども手がけてきた市山尚三氏が映画祭全体を統括するディレクターに就任。これまで以上に“クオリティ重視”の作品選びが行われる。

「世界中のどの映画祭でもディレクターはある一定の年数を経過すると変わっているんですよ。それが東京国際映画祭は17年もの間、変化がなかったわけですから、やっぱり色が固定してしまう。そこでどの方に新しいディレクターをお願いするのか考え、周囲の方の意見も聞いたりしました。外国の方に就任していただくアイデアもありましたが、昨年まで東京フィルメックスをやってらっしゃった市山さんにお願いしたら、快く引き受けてくださった。

市山さんにお願いした理由は3つあります。まずは“作品を観る眼と力”が非常に高いこと。そして国際性が豊かな方で、世界中にネットワークを持っていること。そして、市山さんの人柄ですよね。相手に対してソフトなんだけど芯はしっかりとあって強い。

市山さんと映画祭の方針について色々と話しているんですけど、どうしたい、どこが良くないので変えたい……そういう点で意見が一致することが多いんです。だから、大きな方針を一緒につくった後は、作品の選定も含めて市山さんにお任せしています。作品の選考会議にもチェアマンとして出席はしましたけど、出席者には『映画祭としてどうしても譲れない選択は僕がしますが、それ以外は市山さんにすべてをお任せしたい』と言いました。

今年はコロナ禍で作品の選択の幅が限られた部分もあったでしょうし、上映したい日本映画が上映できないケースもありました。今年はアジア映画、世界の映画で良いものが揃いましたから、来年以降はさらに日本映画の良いものを増やしていきたいと思っています」

3:“映画を通じて世界とつながる”。東京国際映画祭はどこへ向かうのか?

安藤チェアマンは本映画祭を“国際色”のあるものにしたいと語る。フランスにカンヌ国際映画祭があるように、イタリアにヴェネチア国際映画祭があるように、日本には東京国際映画祭がある。そう言えるための“最初の一歩”が今年の映画祭になりそうだ。

「これまでの東京国際映画祭はいろんな意味で東京“国内”映画祭と思える部分がありましたから、真の意味での国際映画祭になるべく、東京国際映画祭なりに国際色を出していきたいと考えています。日本は経済は落ち込んでしまいましたが、非常に良い国だと思うんです。私が大使をやっていた時も、『中国には行ったことがあるけど、日本には行ったことがない』という人が多かった。でも、そういう方に『一度、日本に行ってみてくださいよ』と勧めて、日本に行ってもらうと次に会った時には『いやぁ、日本って本当に良い国ですね』となるんです(笑)。つまり、こんなにも良い国なのに、その魅力がまだまだ伝えきれていない。だから、バリや中国やプーケットに行こうとしている人に日本の魅力を知ってほしい。

それに何よりも日本映画の魅力を知ってもらいたいと思っています。日本映画には非常に長く深い伝統があり、黒澤明や小津安二郎だけでなく大島渚、今村昌平がいて、いまでは是枝裕和や濱口竜介がいる。世界の映画シーンを見渡しても日本映画のクオリティは遜色がない。だから日本の映画祭はもっと海外の人から認知されてしかるべきだと思うんです。

そのための改革は常に考えています。例えば、去年までやっていた“Japan Now部門”は、その年に評価の高かった日本映画を上映する部門でした。つまり、すでに映画館で公開が終わった作品が揃っていたわけです。でも、今年は市山さんから『これから海外に紹介していきたい日本映画を上映したい』というお話をもらったので“Nippon Cinema Now 部門”に名前を変えて、これから世界に打って出る作品が揃いました。単に名前が変わっただけでなく、本質的な考えからちゃんと変わっていて、僕は非常に良いことだと思っています。

Nippon Cinema Now部門 『川っぺりムコリッタ』 ©2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

“映画を通じて世界とつながる”がこの映画祭の大きなテーマだと思っています。今年はいろいろな事情もあって海外の方が会場に来られないんですけど、今後は海外からのお客さんが増えていってほしいと思っています。ですから、アクレディテーション(公的な機関、認定機関から“ある水準を満たしている”と与えられる認定のこと)、つまり外国の参加者の登録システムの準備もすでに始めていて、来年にはキッチリとしたものを始めたいと思っています。招待する方の数も増やしたいですし、自費で来日される方も支援できる体制を整えて、海外の方から“毎年10月の末は東京に行くよね”と思ってもらえる映画祭にしたいと思っています。

もちろん、東京国際映画祭がそんなすぐにカンヌやベルリンのような映画祭になることは難しいと思います。でも、この映画祭と東京、そして日本には海外の方にアピールできることがたくさんありますし、東京はアドバンテージを持っていると思います。だから今後も良い作品を集めて、日本全国の方から、海外の方から『今年の東京国際映画祭はどんな作品が上映されるんだろう?』と気になってもらえるものにしていきたい。

映画祭には“お祭り”の側面もあると思います。あの場所に行けば楽しいし、誰かに会える。さらに美味しいものが食べられる(笑)。是枝(裕和)さんも“映画祭に行く目的のひとつは現地で美味いものを食べること”だって言うんですよ(笑)。だから映画祭も国際水準の良い作品と、美味しいものを用意して、海外の映画人が行ってみたくなる映画祭にしていきたいと考えています。今年はコロナ禍もあり、準備が行き届いてないところもありますけど、きっと楽しんでいただけると思いますし、来年以降、さらに良くしていくためにすでに動き出しています」

国際水準の良い映画が、街レベルを会場に上映され、そこに国内だけでなく世界中の映画人やジャーナリスト、関係者、バイヤー、映画ファンが集まってくる。海外の主要な映画祭では当たり前のように見られる光景を、東京でも実現したい……安藤チェアマンとスタッフたちの熱い想いの一端を、今年の東京国際映画祭で感じることができそうだ。

開催概要

第34回東京国際映画祭

期間:2021年10月30日(土)~11月8日(月)

会場:シネスイッチ銀座(中央区)、角川シネマ有楽町、TOHOシネマズ シャンテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、有楽町よみうりホール、東京ミッドタウン日比谷、日比谷ステップ広場、東京国際フォーラム、TOHOシネマズ 日比谷(千代田区)ほか

※映画祭公式サイトにて、メルマガ会員向け抽選販売、先行抽選販売に続いて、10/23(土)に一般販売開始。詳細はこちら

(c)2021 TIFF

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