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みうらじゅんの映画チラシ放談

『日本語劇場版 サンダーバード55/GOGO』『マニアック・ドライバー』

月2回連載

第76回

『日本語劇場版 サンダーバード55/GOGO』

── 今回の1本目は『日本語劇場版 サンダーバード55/GOGO』ですね。確か『サンダーバード』日本放送55周年の一環で公開される映画ですよね。

みうら だから『サンダーバード55』の“ゴーゴー”に意味があるんですよね。でも若い人はこのタイトルを見ても、55周年のことだって気づかないでしょう。55と言えば、それこそぴあさんがお出しになっている『巨人の星』のDVD BOOKシリーズも「連載開始から55周年」という謳い文句でしたし。

もう半世紀ブームは終わって、僕ら老いるショッカーの間ではゴーゴーブームになってるんですよ。配給会社にもリストがあるんでしょう、こいつならうまく当時を伝えられるんじゃないかっていうリストがね。そこで僕にも宣伝役が回ってきたという。だから僕、この新作をもう観てるんですけど、実は新作だってことにまったく気づかなかったんです。

── それは55年前に作られたように見えたってことですか?

みうら そうなんです。今回の映画化はわりと、ペネロープとパーカーの物語が中心になって出てくるんですが、チラシでもかつて黒柳徹子さんが声優をやられていたペネロープが載っていますよね。彼女がこの位置にいるっていうことが実はすごく重要で、言ってみればこの連載でもよく話題に出る“スピンオフ”的な内容なんですね。

僕らの世代は小学校のときにリアルタイムで観てましたから、すごい番組なのは存じ上げてます。2号と1号のプラモデルも買っていました。でもちょっとお金持ちのクラスメートがいてね、そいつがクリスマスの日に“サンダーバード基地”っていうのを買ってもらったことがあったんです。そのプラモは基地がある島のジオラマセットになっていて、1号から5号まで全部、揃ってました。

プラモデルを単体で買ってた者が一番困っていたのが、サンダーバード5号っていう宇宙ステーションで、宇宙空間に浮かんでる設定なんで、平らなところに置いても立たない形をしてるんです。だから横倒しにして置くしかない。友達とサンダーバードごっこをやるときは、5号の役になるとじーっとプラモを持って立ってるしかなくて、それはそれはつまんなかったもんですよ(笑)。でも“サンダーバード基地”は、ちゃんと5号を差し込む穴がついていて、ジオラマの端に5号を固定できたんです。小さいですけどプールもちゃんと割れて、そこから2号が出てきたりもする優れモノ。

── サンダーバードが大好きな子供には夢のオモチャですね。

みうら もはやプラモデルを単体で買ってるようでは、それには勝てなくってね。そいつは大してサンダーバードに詳しくないし、自分のお金で買ったわけでもないじゃないですか。でも、金持ちの親に買ってもらったオモチャによって、学校で一番のサンダーバードファンみたいになったんですよ。いい気になってるなと思って、そのとき初めて資本主義というものに疑問を持ったというか、それでちょっと冷めたっていう思い出がありますね……。

いや、話を戻すと、スピンオフ的な内容になっているのは理由があって、今回の新作は、当時のレコード用に作られたラジオドラマを映像化したらしいんです。

── つまり、当時からあった古い脚本ってことですか?

みうら そうなんです。でもレコードにあったエピソードって、映像化されてなかっただけあって、ペネロープとパーカーが基地の中を案内されるエピソードだったり、いかにもスピンオフ的なんです。あまりメカがかっこよく活躍したりはしないんですよ。でも、老いるショッカーとしては「それをメインにするのか!」と逆にすごく面白かったんですけどね。

でもだからこそ、初めて観る人は戸惑うと思います。「あれ? 国際救助隊なのにあまり活躍しねえな」みたいな。逆に言えばかなりマニアックな内容なんで、きっと55世代にはグッと来きますよ。それにペネロープの声優はもともとは黒柳徹子さんがやっていらしたんで、きっと清水ミチコさんがモノマネでやるのかなと思ってたんですけど、本作は満島ひかりさんでした。

── 満島さんって黒柳徹子さんの伝記ドラマで主演されてましたよね?

みうら ああ、そうなんですか! 今、繋がりました。満島さんは決してモノマネじゃなかったけど、すごく上手かったです。ペネロープって、なんでこの人はこんな豪邸に住んでるんだろうっていう思いもありましたし、小学校のときから謎の貴婦人みたいな存在でしたけど、そのイメージに満島さんはすごく近い声でした。

あと、この映画は55世代だけじゃなくて、ちゃんと知らない人のためにサンダーバードがいかにカッコいいかを伝える映像が追加されてるんです。樋口真嗣さんが構成を担当されていて、すごくその魅力が分かります。

『マニアック・ドライバー』

── 続いては『マニアック・ドライバー』という作品ですね。

みうら これは、もうチラシで選びました。いつものチラシのカンでね(笑)。

これは確実に、かつての新東宝や大蔵映画の匂いをさせようとしてるデザイナーがいるわけですよ。『生首情痴事件』や『沖縄怪談逆吊り幽霊・支那怪談死棺破り』とかのテイストがビンビン伝わってきますよね。そこに引っかかる人間を想定しているんでしょうし、まあ、まんまと引っかかりました(笑)。チラシにあるタクシードライバーも『憲兵とバラバラ死美人』の憲兵じゃないかと思ったくらいです。

── “地獄の殺人運転手”という文句もいかにもB級感あります。

みうら 普通はタクシー運転手って言えばデニーロの『タクシードライバー』なんだろうけど、タイトルの“MANIAC”って書いてあるところ、背中向けてる女の人にはどこか『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』テイストが漂っていますよね。このチラシのデザインにどこまで監督の方が関わっているのかは分かりませんけど、デザイナーは確実にそれ系がお好きなんだなと思ったわけです。

まあ55世代としては、当然、怪しい映画には引っかかりますよね。今の時代、映画館で映画を観る習慣を身につけてる人は、ほぼ55世代以上と言っても過言じゃないですよね。特に映画館に置くチラシのターゲットは、55世代でしょ。

── 確かにこのチラシは、映画館に行く行為にいかがわしい空気があった時代を意識してますよね。

みうら 映画館は昔、本当に闇でしたから。まだ客席も真っ暗だった頃で、そんなに混んでないのにわざわざ知らないオヤジが隣に座ってきたときなんぞ、ドキドキしたもんです。このチラシは完全にあの当時にタイムスリップしますよね。

今ね、映画館に行くとチラシのコーナーは必ず見るし、なんなら気になったやつはもらって帰る人というのはもはやほぼ絶滅危惧種で、チラシというもの自体がそういう55世代から上のためのものになってきています。中には転売目的の不届き者もいるとは思いますが。となると、この“チラシ放談”という連載では、そういった老いるショッカーがグッと来たチラシに賞を与えないといけないんじゃないかと気づいたんです。つまりこのチラシは、僕にとって気づきのキッカケになったわけです。

これまでも「このチラシはオレに向けてるんじゃないか」なんて冗談で言ってたことが、実は本当だったんだと思いました。もはやチラシ界は完全に僕たちをターゲットにしてますから、そこに応えていきたいと思います。

だから今年は“チラシ放談”でそんな賞を出したいですね。チラシと言っても、今の若い人はもう「お寿司のこと?」って返されると思うんで(笑)。いや、チラシ寿司だって知らないかもしれない。もはや、サブちゃんの「ちーらあしー♪」って歌も知らないでしょうしね。

── このチラシで初めて見たマークがあって、“自主規制R15相当”って書いてあるんです。

みうら それもかつての怪しい映画のニオイがしますけどね。そう、『沖縄怪談逆吊り幽霊・支那怪談死棺破り』っていう映画はね、さも2本の映画を抱き合わせたみたいなポスターだったんですけど、実際には1本だったんです!

このチラシもきっと、そういう騙しの妖しさを出したいんだと思いますね。いかがわしさを醸す現代の言葉を考えて“自主規制”っていう言葉を出してきたんじゃないでしょうか? 僕らに「こちらの手の内分かってるでしょ?」っていうおすすめなんだから、引っかかった以上は選ばざるを得ないです(笑)。『マニアック・ドライバー』というタイトル込みで、その怪しさの世界観みたいなものを見せたいのでは?

── なんとなくみうらさんのチラシ大賞の選考基準が分かってきましたね。

みうら もし、そんな賞があればのことですが(笑)。今後、チラシデザイナーのみなさんは、期待して待っていてくださいね。

取材・文:村山章

Thunderbirds TM and (C) ITC Entertainment Group Limited 1964, 1999 and 2021. Licensed by ITV Studios Limited. All rights reserved. (C)MMXXI Akari Pictures

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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