Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『呪術廻戦』釘崎野薔薇の生き様が読者を惹きつける理由 「私が私である」ための戦い

リアルサウンド

21/1/6(水) 12:00

 身のうちに魔性の存在(特級呪物の両面宿儺)を宿しながら、「生き様で後悔はしたくない」といって人々のために戦う『呪術廻戦』(芥見下々)の主人公・虎杖悠仁も、善と悪の二面性を持ったなかなか味わい深いキャラクターだと思うが、「生き様」といえば、同作のヒロイン・釘崎野薔薇のそれもかなりのものである。

特別扱いしない仲間たちと出会えた

 釘崎野薔薇は、日本に2校しかない呪術教育機関のうちのひとつ、「東京都立呪術高等専門学校」の1年生である。盛岡まで4時間かかるというある村で育った彼女は、すでにその地で呪霊(呪い)を祓う呪術師としてそれなりに活躍していたようだが、「田舎が嫌で東京に住みたかったから」呪術高専に入学。同校の1年担任・五条悟のもとで、あらためて呪術を学ぶことになる(とはいえ、虎杖らとともにいきなり“実戦”に投入されていくわけだが……)。

 彼女が使う術式は、「芻霊(すうれい)呪法」――金槌を使い釘を攻撃対象に打ち込み、呪力を流し込んでダメージを与える技だ。なお、野薔薇の芻霊呪法には「簪(かんざし)」と「共鳴(ともな)り」があり、前者は釘を飛ばし、刺さった相手に呪力を流し込む彼女の基本的な攻撃法であり、後者は、敵の欠損した体の一部に人形(ヒトガタ=藁人形)を通して釘を打ち込む術式だ。

 興味深いのは、そうした異能の設定よりも、この釘崎野薔薇というキャラクターが持つ“個性”そのものであり、彼女は同作のヒロインでありながら、従来の少年漫画の多くに見られるような「主人公の恋愛対象」としては、(少なくとも現時点では)描かれていない。無論、共闘するなかで野薔薇は虎杖のことを同じ呪術師として認めていくことになるのだが(逆もしかり)、こうした男性戦士と女性戦士の“同志感”というものは、この『呪術廻戦』に限らず、近年の『少年ジャンプ』作品では珍しいパターンではないともいえるだろう(たとえば吾峠呼世晴の『鬼滅の刃』を見られたい)。

 むしろ、いまの野薔薇にとっては、(恋愛よりも)「私が私である」ことがもっとも重要であり、彼女はそのためだけに命を賭して呪いと戦い続けているといっていい。先ほど、野薔薇はもともと「田舎が嫌」だったと書いたが、そのある種の都会志向は、漠然とした東京への憧れなどという単純な話ではなく、かつて彼女が育った村で経験したある悲しい出来事に由来するものだった。ただ、彼女がその出来事によって抱えることになった心のモヤモヤは、都会であるからといって解消される問題かどうかはわからないのだが……。

 しかし、少なくとも、野薔薇は呪術高専という新たな場所で、マイノリティであるからといってそれを特別扱いしない仲間たちと出会えた。そして、自分と同じように、「私が私であるために」戦っている先輩・禪院真希とも出会えたのだ(余談だが、こうした「自分らしくあれ」という野薔薇や真希のキャラクター像は、『鬼滅の刃』の「恋柱」甘露寺蜜璃との比較も可能だろう)。

※以下、ネタバレ注意

 単行本第5巻――京都姉妹校との交流会(という名のチームバトル)で、対戦相手の西宮桃(京都校3年)に、「女の呪術師が求められるのは “実力”じゃないの “完璧”なの」といわれた野薔薇は、こう切り返す。「男がどうとか 女がどうとか 知ったこっちゃねーんだよ!! (中略)私は綺麗にオシャレしてる私が大好きだ!! 強くあろうとする私が大好きだ!! 私は『釘崎野薔薇』なんだよ!!」――と。

 ちなみにのちに勃発する「渋谷事変」(単行本第10巻〜)において、彼女は生死にかかわる深刻な事態に陥ってしまうのだが、この、「私が私であるために」戦い続ける、金槌を片手に持った美しき呪術師の生き様は、きっと『少年ジャンプ』を読んでいる「少年・少女」の心にも熱い“何か”を注入していることだろう。

■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。Twitter

■書籍情報
『呪術廻戦(3)』
芥見下々 著
定価:本体440円+税
出版社:集英社
公式サイト

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む