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年末企画:田幸和歌子の「2019年 年間ベストドラマTOP10」 作り手が“数字”から解放されたかのような意欲作

リアルサウンド

19/12/25(水) 6:00

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2019年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに加え、今年輝いた俳優たちも紹介。国内ドラマの場合は地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第8回の選者は、テレビドラマに詳しいライターの田幸和歌子。(編集部)

1.『凪のお暇』(TBS系)、『きのう何食べた?』(テレビ東京系)※同率
3.『少年寅次郎』(NHK総合)
4.『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)
5.『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』(NHK総合)
6.『トクサツガガガ』(NHK総合)
7.『だから私は推しました』(NHK総合)
8.『ルパンの娘』(フジテレビ系)
9.『サギデカ』(NHK総合)
10.『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』(NHK総合)

【写真】『きのう何食べた?』SPに出演する宮沢りえ

 平成最後で令和最初の2019年。一時は「刑事モノ、医療モノばかり」「一話完結ばかり」と言われてきたドラマが、今年は大きく変わった印象がある。視聴率2桁を獲得する作品が稀になっている中、むしろ今年は長年の呪縛となっていた「数字」から作り手が解放されたかのような意欲作、チャレンジ作が目立った。

 一つには、ネット視聴者の「考察」が盛り上がっていった2クール連続ドラマ『あなたの番です』や、30分×2本構成というアニメーションのような作りでありつつ、ホームドラマ全盛期を思い出させる温故知新の『俺の話は長い』など、様々なアプローチを見せた日本テレビのドラマ作り。固定化した従来のドラマという枠組みを壊し、ネットユーザーや若者などに強く訴求する姿勢には、覚悟が見られた。

 ドラマにクオリティやリアリティばかりが求められるようになっている現状では、「ドラマを観る人=少数のドラマオタク」になりつつある。そんな中、ドラマどころかテレビをあまり観ない層を巻き込んでいくのは、今後非常に重要になってくるのではないか。

 一方、いわゆるドラマ好きをワクワクさせてくれたのは、ドラマの質の高さ・バリエーションの豊富さで群を抜いている感のある、NHKのドラマ群。

 『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』『だから私は推しました』など、劇団系の脚本家により、かなり攻めた内容の作品を連発している「よるドラ」枠(土曜23時半~)や、一話完結もしくは全5回程度で密度の高いドラマを作る『みかづき』『サギデカ』『少年寅次郎』などの「土曜ドラマ」枠(土曜21時~)、『トクサツガガガ』『これは経費で落ちません!』など、主に女性層を中心とした話題作の多い「ドラマ10」など、いくつもの枠を設定。面白いドラマを観ようとすると、なんだかんだNHKドラマの掌の上で周回させられてしまうような印象すらあった。

 作品単体では、「連ドラの底力」を感じさせてくれた『凪のお暇』と、いつまでも観ていられる温かさがあった『きのう何食べた?』を同率1位にしたい。

 前者は、ドラマを録画で見る人も多く、配信ドラマやYouTubeなどの影響もある現代で、テレビにくぎ付けにさせる強さがあった。スマホが普及して以降、ドラマを観るのが面倒くさいと言う人は多い。毎週あるいは毎日同じ時間にテレビに向かう行為を「拘束される」と感じたり、窮屈に感じたりする人が多いからだ。まして退屈するとすぐスマホを手にしたくなる時代、1時間ドラマをじっくり観させるのは至難の業だろう。

 そんな中、奇抜さや刺激の強さではなく、優れた脚本・演出・キャスティングという正統派の作り方で、次回が来るまで待つ時間を「長い」と感じさせ、放送の1時間を「短い」と感じさせた『凪のお暇』は、改めて連ドラならではの魅力を思い出させてくれる作品だった。

 オープニングの作り方や入るタイミング、展開のテンポの良さ、シビアな展開でも、しんどくなりすぎず「脱落者」を出さない緩急の付け方、爽快感を与える画作りや音楽の心地よさなど、今の時代のスピードに合わせて計算されている「仕掛け」は多数あったはず。

 一方、『きのう何食べた?』をずっと観ていられる・観ていたいと感じるのは、「ほどよい温度」と「心地良い距離感」が流れているからだろう。それは、同性カップルというだけでなく、年齢や経験を重ねてきたことによってたどり着いた、恋愛観・仕事観・生き方の心地よい答えが、努力の上に成り立っているひとときの「食事」に凝縮されているから。

 ちなみに、コンプライアンスの関係で過激な表現などは避けることが多くなっていた昨今だが、今年は『あなたの番です』『ボイス 110緊急指令室』(ともに日本テレビ系)、『サイン―法医学者 柚木貴志の事件―』(テレビ朝日系)など、暴力シーンやえぐい展開などがシビアに描かれる作品も多かった。

 こうした流れも、新しい時代へ向けて、ドラマのフィクションとしての表現の自由度が再び高まりつつある傾向なのかもしれない。

(田幸和歌子)

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