Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『中学聖日記』が描く“人が人を好きになること” 離れ離れになった有村架純と岡田健史の恋の行方

リアルサウンド

18/11/13(火) 6:00

「あなたには、淫行の疑いがあります」

 開始から7分過ぎ。塩谷教頭(夏木マリ)が末永聖(有村架純)にそう告げたとき、今まで胸を焦がすようにして見てきたものが、世間ではただの「犯罪」でしかないことを突きつけられ、言葉が出なくなってしまった。

 急展開を迎えた『中学聖日記』(TBS系)第5話。新米教師・聖と男子中学生・黒岩晶(岡田健史)の転げ落ちるような恋は、聖の退職、そして別離というかたちで幕を閉じた。

■この想いは、「純愛」ではなく「処罰」の対象

 「神奈川県青少年保護育成条例第31条 何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない」――どれだけ相手を純粋に想おうと、聖の中に芽生えた感情は決して「純愛」なんかではない。「処罰」の対象でしかないのだと思い知る。空席になった聖のデスクを見て、同僚教師が「まさか生徒に入れ込んでいたなんて」とため息をつく。それが、世間の正しい反応だ。きっと誰だって「学校教師が生徒に淫行」というニュースを目にしたら、冷ややかに眉をしかめるだろう。世の中には、決して踏み越えてはならない「禁忌」がある。

 学校を去り、婚約者・川合勝太郎(町田啓太)との結婚のために大阪行きを決意する聖。晶は、そんな聖の腕にすがるようにしがみつく。どうしてただ好きなことが許されないのか。晶の手を振りほどこうとして、聖はこう言い放つ。

 「あなたが15だから」

 晶の暴走に近い恋愛感情を断ち切る理由は、それ以外見つからなかった。もしも晶が18なら。あるいは、もしも聖と晶が同じ中学生だったら。そんないくつもの「もしも」が頭をよぎる。それでも、その「もしも」は決して叶わない願いだ。聖は勝太郎にも破談を申し出て、姿を消した。そして、それから3年の月日が経過。次回から物語は高校生編に突入する。年齢という「禁忌」から解き放たれたふたりが再会したとき、何が起きるのか。新展開に注目だ。

■これは決してただの禁断のラブストーリーではない

 そこで、ここまでの展開を振り返り、『中学聖日記』の魅力について改めて解説してみたい。

 今期ドラマは特に恋愛モノが活発な印象だが、その中でも本作は「人が人を好きになること」を非常に繊細に描けているところに特色がある。人が恋におちるのに理由なんていらないのかもしれない。だけど、世の中、そう簡単に恋に溺れられる人ばかりではない。たとえ自分の中に芽生えた恋心に気づいても、それを認めてしまうのが怖くて、必死に蓋をしている人だって多い。本作は、そんな自分の中に生まれた制御不能な感情に対する向かい方を、長い時間をかけてじっくりと描いてきた。

 主人公の聖は、極めて優等生タイプ。教職への熱意が強く、人並みの倫理観も持ち合わせている聖は、晶のがむしゃらな想いを、最初は冷静に、ある意味教科書通りに対処してきた。けれど、その行動に徐々に矛盾が見えはじめる。傍目から見れば軽率だとしか言いようのないことを、聖は何度も繰り返す。

 そんな矛盾を、誰よりも自覚していたのは聖だった。もう彼女は気づいていたのだ、自分がとっくに晶に惹かれていることを。そのことを告白するのが第3話のクライマックス。聖は「教えてくれたことを受け止めてくれて。『ありがとう』って」と晶に惹かれた理由を話す。その瞬間、この物語は決してただの教師と生徒の禁断のラブストーリーではないことに気づいた。もっとシンプルな、人がどうしようもなく人を好きになってしまう物語なんだと知った。

 聖はずっと自信がなかった。見知らぬ町。初めての担任。厳しい上司や保護者の目。生徒たちはどこか自分を軽んじていて、男子はただ「可愛いから」という理由でチヤホヤし、女子はただ「可愛いから」という理由で目の敵にする。誰も、自分をひとりの人間として、ひとりの教師として見てくれていないような気がした。

 大好きな漢詩の授業をしているときも、みんな自分の話なんて聞いていなくて、話題はブラの色に夢中だった。だけど、黒岩だけがこの漢詩のことを覚えてくれていた。「先生、ありがとう」と言ってくれた。それは、まるで自分に自信を持てなかった聖の救いだった。希望だった。

 聖は婚約者の勝太郎といると「上に上に引っ張られるような気がする」と言う。優秀な勝太郎に対して、自分は不釣り合いだといつも自嘲気味に語る。けれど、そんな聖に晶は「僕はまんまがいいです。今のまんまの聖ちゃんがいい」とまっすぐ想いをぶつけてくれた。自分のことを認めてくれた。それが嬉しくて、だから好きにならずにはいられなかった。

 世間の常識にさらされながら、何とか模範的であろうとした聖。でも、そこにはいつも強いストレスとプレッシャーがあった。そんなしがらみから解放してくれたのが、晶だった。ありのままの自分を受け入れてくれたのが、晶だった。教師や生徒という線引きは関係なく、そんな人としての本質的な承認と受容を丁寧に描写しているからこそ、特に障害のある恋なんて経験したことがない人が観ても、思わずのめり込んでしまう普遍性が本作にはあるのだと思う。

■“ドラマのTBS”を支える新井順子×塚原あゆ子の強力タッグ

 また、本作の魅力を語る上でもう一つ語っておきたいのが、その制作陣だ。プロデュースは、『夜行観覧車』『Nのために』『リバース』『アンナチュラル』(すべてTBS系)の新井順子。メイン監督を務めるのも、この4作を新井と共に手がけてきた塚原あゆ子だ。4作はいずれもその実験的な映像マジックとスリリングな展開で視聴者を惹きつけてきた。

 本作は前4作のようなミステリーではないが、ある種サスペンス的な緊張感が張りつめているのは、新井×塚原コンビのなせるワザ。たとえば、未来の視点から過去を振り返り物語を進めていく手法は、『夜行観覧車』や『Nのために』でも使われた“お家芸”だ。すでに起きてしまったことを述懐するという語り口は自然と悲劇の予感を生み、この先に悲しい結末が待っているのだと想像させられることで、何気ないシーンでも視聴者はきゅっと胸を締めつけられる。

 随所に挟まれるモノクロのモノローグも効果的だ。あの瞬間に響くSEは錠を下ろす音のようにも聞こえれば、錠を開く音にもとれる。聖と晶は心にあるものを封じ込めようとしているのか。それとも解き放とうとしているのか。視聴者の想像は豊かに膨らむ。

 さらに、透明感溢れる映像美とロケーションも、本作のピュアな世界観に多大な貢献を果たしている。青々とした田園風景。画面から漂ってくる潮の香り。どこか『Nのために』の青景島を連想させる穏やかな自然の景色が、聖と晶の恋にノスタルジーのカーテンをかける。

 第1話は、晶の告白。第2話は、晶と勝太郎の鉢合わせ。第3話は、聖の告白。第4話は、地獄の修羅場。そして第5話は3年後の晶と、毎回次が気になる引きの上手さも、『リバース』など二転三転するミステリーを手がけてきた新井×塚原らしいつくり方と言える。

 何より中学生との恋という、扇情的に描こうと思えばいくらでも描けるテーマを、しっかり腰を据えて掘り下げている誠実さがいい。いよいよここで折り返し地点。どうか最後まで「人が人を好きになること」とその先にあるものを丁寧に描き切ってほしい。(文=横川良明)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む