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【re:START】キーパーソンInterview

いきものがかり・水野良樹に聞く“リスタート”。みんなが“幸せ潔癖症”な時代へ届けたいメッセージ【前編】

特別連載

15-1

20/9/10(木)

いきものがかりはこの4月、デビュー時から所属していた事務所を離れ、自分たちのマネジメントオフィスを設立して、新しい活動をスタートさせた。が、その矢先、コロナ禍に見舞われ、思い描いていた展望は少なからず修正を余儀なくされただろう。ここでは、リーダーの水野良樹に、この状況下で感じたこと、そして考えたこと、そしてその先に見すえるグループの未来について聞いた。

2回にわたって掲載する前編は、8月31日にリリースされ、チャート1位を獲得した配信シングル「きらきらにひかる」に込められた、今の社会に対する水野の思いを語ってもらった。

── いきものがかりはこの4月から独立して新体制での活動を始めたわけですが、水野さんのなかで“リスタート”という感覚はありますか。

水野 前の事務所には約15年間お世話になったんですけど、そこから独立して歩み始めるというのは、やっぱりリスタートではありますよね。自分たちでやるようになって初めて目にする資料もあるし(笑)。お金の面でも初めてのことはあるし、外部のスタッフとやりとりする場合にも直接、話をすることがどんどん増えてきているし。グループの活動を進めていく上での細かいことを、新鮮味を持ってやれているという意味ではリスタートだなと思いますね。

── そのリスタート感、つまり、ひとつ区切りをつけて新しく始めるということの中身は、あらかじめ予想していたことがどれくらい当たっていて、どれくらい想定を超えている感じですか。

水野 コロナのことがありますから、ほとんどは想定外ですよね。本当だったら、春からツアーを始めて「リスタートしました。自分たちで新しく歩み始めました」ということを、ファンのみなさんと直に会って伝えていくことになってたわけですから。そもそもライブをやると、自分たちが活動しているという実感をすごく持てるんですよ。それがないということのむず痒さというか、力が入らない感じというのはすごくありましたから、それが一番想定外でした。

── そういう、歌を直接届けにいけないという状況のなかで新曲をリリースするという意識は歌詞やメロディに何か影響を及ぼしますか。

水野 人と人がバラバラな状態になっているとか、気軽に出かけることができなくてマスクをつけたり感染予防に気をつけたりしないといけないとか、世の中の空気が以前とは変わっているということが確かにあるわけで、そのなかで曲を書いていると、そのことを意識せざるをえないですよね。自分もひとりの生活者として、例えばウチの両親は神奈川に住んでいるんですが、ふたりの年齢を考えるとちょっと会いにいけないなと考えるわけです。でも、会いにいけないこともちょっと心苦しかったりして、そういう気持ちをみなさんが抱えていると思うんです。そういう意識というのは、やっぱり歌詞に影響してきますよね。

── その結果として、どういう歌が出来上がってくることになるんでしょうか。

水野 いろんな形があると思うんですが、例えば「きらきらにひかる」で言えば、今みんなはこのバラバラな状態に慣れてきていると思うんです。しかも、この状況に対処することが上手くなってきている。それはそれで素晴らしいことだとは思うんですけど、本当は助けを求めたいとか人にちょっと甘えたいとか、そういう気持ちになるような厳しい状況に置かれている方も少なくないと思うんです。でも、そういう状況にあることを主張しづらい空気感があるなということを感じていて、その助けを求めづらい空気が蔓延してしまうのはよくないなと思うんですよね。つらいとか苦しいことがあれば、それは手を挙げて言ってもいいんじゃないかという思いは歌詞の中には入ってますね。それに、こういうふうに誰もが緊迫した状況にあると言葉もすごく尖っていくし、それでなくても何かズルした人とか、何か倫理的によくないことをしてしまった人に、みんながすごく厳しい言葉を投げかけるじゃないですか。完璧な人間なんていないんだから、誰だってひとつ間違えれば同じような失敗をしでかす可能性があるのに、失敗した人、間違った人をよってたかってみんなが叩いている。それは嫌だなと僕は感じているんですけど、そういう気持ちもあの曲の歌詞には反映していると思います。そういう意味では、今の世の中に対する僕なりの思いみたいなものがかなりストレートに表れている曲かもしれないですね。

── タイトルを聞いて最初に思ったのは“普通は「きらきらひかる」だよな”ということで、あえて「きらきらにひかる」にしたのは意図するところがあるんですか。

水野 いや、単純に「きらきらひかる」だとメロディに対して音数が足りなかったからなんですけど(笑)。“きらきら”という言葉を使ったのはメロディの印象とのかねあいだったんですよね。ドラマのスタッフの方から「ドラマの内容がサスペンス的な要素もあるので、何が起こるんだろう?というハラハラ感、ドキドキ感もほしいです」という要望があり、同時に「明るい感じで」というすごく難しいオーダーだったんです(笑)。そのサスペンス感と明るい感じのバランスがひとつのポイントで、吉岡(聖恵)の声というのは重いことを歌っても明るく聴こえるところがあるから、そこを意識しながらメロディを書いていきました。だから、出来上がったメロディ自体はどちらかと言うと陰のある感じになってると思うんですけど、その印象を中和するポップな言葉が入るといいかもと思って、“きらきら”という言葉を使ったんです。「きらきらにひかる」というタイトルからすごくポップな曲をイメージしていたファンの方もけっこういらっしゃったみたいなんですけど、確かにそういうポップなイメージを呼ぶ言葉がエモーショナルなサウンドにハマると、ちょうどいいところに収まるんじゃないかということは意識していたと思います。

── 「きらきらにひかる」という言い方は、「きらきらひかる」よりも、光り方の純度がすごく高いとか、きらびやかさが尋常でないとか、ちょっと特別な輝きをイメージさせるようにも思うんですが、水野さん自身はどういう光り方をイメージしていたんですか。

水野 まさに、聴いた方が想像してほしいんですよね。それに加えて、「きらきらにひかる」と“に”が入ることで、“きらきら”以外の言葉もいろいろ考えられると思うんです。そのことが今はすごく大事、という気がするんですよ。何かひとつのことを提示するのではなくて、いつでもいくつかの選択肢があるということにみんなが気づいてほしいというか。♪きらきらにひかる/あなたの涙は♪というフレーズがありますが、その涙は嬉し涙なのか悲しい涙なのか、あるいはその涙を美しいと思うのかみっともないと思うのか、それは見た人の判断で違ってきますよね。そのことが、あの“に”には表現されているような気がします。仮に自分の目の前で誰かが泣いていたとして、その涙を僕が美しいと思ったら、僕はたぶん、その人のことを大事に思ってるんだと思うんですよ。つまり、涙がどう見えるかということがその人の感情を表しているし、同時に僕とその泣いている人の関係性は唯一のものだと思えるんです。違う人が見れば、その涙は全然美しくないということだってありうるわけで、その違う人と泣いている人の関係性も唯一のものなんですよね。そういうふうに、唯一の関係がそれぞれに取り結ばれるということがすごく尊いという気がするんですよね。

── 「きらきらにひかる」には♪笑顔じゃなくていい/幸せじゃなくていい/生きていくことは/あなただけのもの♪というフレーズがありますが、今の水野さんの話に出てきた、泣いている人の涙もその人だけのものですよね。

水野 そうですね。

── それ以上でもそれ以下でもないですが、現実の世の中ではその涙にはまったく関係ない人までが、一般的な物差しに当てはめてあれこれと言葉を投げつけるという状況がある。それに対して水野さんは、それぞれが自分の人生というか生きるということをまっとうすればいいんだという思いが強いんでしょうか。

水野 自分に対してということも含め、そういうふうに思っています。自分の人生を生きたほうがいいって。“みんな、他人の話をしてるな”って思うんですよ。たぶん、他人の話をしないと不安なんだと思うんです。仮に法律を犯した人が目の前にいたら、「あなたは悪い!」と言うのが楽ですよね。自分は正しい側に立てるし、自分はまともな人間だと思えるから。そういう状況にみんなが陥っている気がするんです。正しさ潔癖症というか、幸せ潔癖症というか……。正しくなきゃいけない、幸せでなきゃいけない、という気持ちが、無意識の部分も含め、どうも強いなという気がしているし、自分もそういう状況に陥りそうになることがあるからこそ、それを指摘したいというか……。(椎名)林檎さんが「ありあまる富」という曲で、存在自体に価値がひもづけられているんだという意味のことを歌っていて、すごくいい歌詞だなと思ったんです。同じように、生きているだけでその人にとっての価値というものがあると思う。幸せの理想像というのは、時代によってすごく変わりますよね。もっと言えば、ひと月単位くらいのすごい速度で変化していると思うんですけど、それとは関係なく自分の幸せ像を持つことが大事というか。「それは、あなた以外の人にとっては全然幸せじゃないよ」と言われても、関係ないんですよ。♪笑顔じゃなくていい/幸せじゃなくていい♪から、自分が生きることに自信を持つというのとは違うかもしれないけど、そのままでいいんだよということを書きたかったんだと思います。

取材・文=兼田達矢

プロフィール

水野良樹(いきものがかり、HIROBA)
1982年生まれ。神奈川県出身。1999年に吉岡聖恵、山下穂尊といきものがかりを結成。2006年に「SAKURA」でメジャーデビュー。作詞作曲を担当した代表曲に「ありがとう」「YELL」「じょいふる」「風が吹いている」など。グループの活動に並行して、ソングライターとして国内外を問わず様々なアーティストに楽曲提供。テレビ、ラジオの出演だけでなく、雑誌、新聞、webなどでも連載多数。テレビ朝⽇系⽊曜ドラマ『未解決の⼥警視庁⽂書捜査官』主題歌「きらきらにひかる」を8月31日に配信限定シングルでリリース。

イベント情報

「いきものがかり結成20周年・BSフジ開局20周年記念 BSいきものがかり DIGITAL FES 2020 結成20周年だよ!! 〜リモートでモットお祝いしまSHOW!!!〜」
2020年09月19日(土)18:00〜
※アーカイブは開催終了後から2020年09月20日(日)22:00まで。
チケット購入は https://w.pia.jp/t/ikimonogakari2020/ より



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