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年末企画:今祥枝の「2018年 年間ベスト海外ドラマTOP10」 “シーズン2の壁”を越える作品が続出

リアルサウンド

18/12/28(金) 12:00

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2018年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに加え、今年輝いた俳優・女優たちも紹介。2018年に日本で放送・配信された作品(シーズン2なども含む)の中から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクト。第13回の選者は映画・海外ドラマライターの今祥枝。(編集部)

1.『ジ・アメリカンズ シーズン6』(FX・Netflix)
2.『英国スキャンダル~セックスと陰謀のソープ事件』(BBC One・ WOWOW)
3.『The Good Fight/ザ・グッド・ファイト シーズン2』(CBS All Access・Amazonプライムビデオ)
4.『バリー』(HBO・Amazonプライムビデオ)
5.『アトランタ シーズン2』(FX・FOXチャンネル)
6.『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語 シーズン1&2』(Hulu・Hulu)
7.『レギオン シーズン2』(FX・FOXチャンネル)
8.『KIZU-傷-』(HBO・スターチャンネル)
(2019年発売予定のDVDタイトルは『シャープ・オブジェクト KIZU-傷-:連続少女猟奇殺人事件』)
9.『マニアック』(Netflix・Netflix)
10.『GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング シーズン2』(Netflix・Netflix)
(左側は本国の放送局、右が日本で自分が視聴したディバイス)

 編集部の規定により2018年に日本に上陸した作品、個人のルールとして該当シーズンは全話視聴済みの作品から選んだ。

 『ジ・アメリカンズ』の最終となるシーズン6は見事な幕引きだった。これ以上のラストは望めなかったと思う。最終回は泣くとか感動するというより放心状態に陥るといった感じ。近年主流になりつつある10話程度で完結するリミテッド・シリーズやアンソロジー・シリーズで、完成度の高い作品を作ることが簡単だとは全く思わないが、何シーズンも続くシリーズを最終的に傑作たらしめることは至難の技である。これぞ現代のドラマの最高峰。

参考:<a href=”https://www.realsound.jp/movie/2018/12/post-298299.html”>年末企画:辰巳JUNKの「2018年 年間ベスト海外ドラマTOP10」 豊潤な作品が揃った黄金期</a>

 全体として2018年は、2016~17年に鮮烈な印象を残した新作のシーズン2の動向に注目した年でもあった。シリーズが続いていく作品をキャラクターの成長・変化とともに追いかける楽しみはドラマならでは。しかし、シーズン2は鬼門だ。長期戦を見据えて、その作品の方向性がより明確に見えてくるのもシーズン2だし、シーズン1の評価が高ければ高いほどハードルは高くなる。シーズン2こそ作り手のさらなる力量が試されると言ってもいいし、視聴者に試される感じがまた楽しい。だが、そうしたハードルを軽く超えてきた作品のなんと多かったことか!

 『The Good Fight/ザ・グッド・ファイト2』は、トランプ政権誕生の衝撃を必死に受け止め、否を唱える強い姿勢を打ち出したシーズン1から一年を経て、番組の作り手の戸惑いとこの時代をどう生き抜くかといった覚悟を、スーパーリベラルの主人公ダイアンを通して伝える洗練された手腕が見事だった。「私たちは恐ろしい時代に生きているのね」とつぶやくダイアンの言葉は、ディストピアを描いて現在進行形の恐怖を伝える『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』など多くの秀作に通じるテーマでもあるだろう。もっとも、狡さとしたたかさを備えたタフな女性像は観ているだけで単純に元気が出るし、『グッド・ワイフ』の時からダイアンは大好きなキャラクターだ。

 『アトランタ2』はシーズン1も傑作なのだが、シーズン2はより落ち着いて物語を楽しむことができたという意味では『ザ・グッド・ファイト』のパターンに通じる。特に第6話「テディ・パーキンス」は多くの媒体でベストエピソードに選ばれる出色の出来だが、個人的には第10話「黄色いシャツ」が白眉。登場人物の関係性の掘り下げ方に次のシーズンへの期待が募る。シーズン3への期待で言えば、こちらも素晴らしい『マーベラス・ミセス・メイゼル2』はショウビジネスの世界に本気で飛び込むと思われるシーズン3の方が自分の好みの展開になりそうな気がする。

 コメディーの進化にも目を見張るものがあった。『バリー』の予想外の方向へ進む物語にシュールで奇妙な味わい深さは、どストライクで、『サタデー・ナイト・ライブ』のビル・ヘイダーの才能に脱帽。本作にはヒロ・ムライが2エピソードの監督を務めているが、ムライは『アトランタ』のドナルド・グローヴァーとのコラボレーションでもおなじみで、米テレビ業界には知っておくべきエンタメ業界の才能が集まっていることを痛感させられる。一方で、古きを描いて現代を映し出す良質で善良な『GLOW2』、他者との関わり方、幸せの意味を哲学的かつ知的に問いかけ続ける『グッド・プレイス2』の健やかさは、今の時代に貴重なあたたかい笑いを届けてくれる。とりわけ、誰もが心の不調と孤独を抱えているような現代において、これ以上の優しい物語があるだろうかと思わせる『マニアック』は視覚的な楽しさもさることながら、予想外のストレートなメッセージに泣けて仕方がなかった。これらがすべてコメディーの範疇にあるのだから、その幅の広さに改めて驚かされる。

 シーズン1のさらにナナメ上をいって、もはや現代アートかと言わんばかりの『レギオン2』に説明は野暮というものだろう。視聴者数も少なくアワードを席巻するでもなし。それでもこのシリーズが継続できる理由にこそ、ピークTV時代のテレビの面白さがあるとも言えるのではないか。熱心なファンに支えられた幸せな作品だと思うし、このレベルになると評価は好みの問題としか言えないのは『ツイン・ピークス The Return』に似ているかもしれない。そして変わらず私はリンチが好きだしノア・ホーリー党である。同じく『英国スキャンダル』は全3話を監督したスティーヴン・フリアーズ節が全開で、その作風がめちゃくちゃ好み。ばかばかしくもシニカルなユーモアの中に鋭く人間の心理と社会問題を浮き彫りにする作りは、『FARGO/ファーゴ』、『アメリカン・クライム・ストーリー:O・J・シンプソン事件』に通じるものがある。面白くないわけがない。

 アメリカのテレビ業界では当初、2016年か2017年には作品の供給過剰状態(ピークTV)からバブルが弾け、本数は減少するだろうと予想されていた。だが業界の予測に反して、2018年も”ピーク”の状態を維持し続けている。質はもはやこれ以上望むべくもないレベルに達し、作品数は増える一方。今年は、Facebook Watchのエリザベス・オルセン主演のオリジナルドラマ『Sorry for Your Loss』が高く評価されていたが、私はFacebookをほとんど使っておらず誰がどうやって視聴しているのか、これ以上はもうついていけないとも思ってしまう。

 2019年にはAppleやディズニー、ワーナーメディアなどが既に飽和状態のオンライン動画配信サービスに乗り込んでくる。作品数はさらに増えることが予想され、最終的にはかつてのケーブル局がそうだったように共存する道を図っていくのだろう。もはや新作でさえ全体像を把握することが困難となる時代に、評論家やライター、ジャーナリストが果たすべき役割、存在意義とは何なのか。そんなことを考えさせられた一年だった。

 最後に20本まで絞り込んだ作品のうち大差はないがランクインしなかった残りの10本を記しておく。

『グッド・プレイス シーズン2』、『フォーエバー ~人生の意味~』、『ザ・テラー』、『アメリカン・クライム・ストーリー:ヴェルサーチ暗殺』、『パトリック・メルローズ』、『DEUCE/ポルノストリート in NY』、『倒壊する巨塔-アルカイダと「9.11」への道』、『このサイテーな世界の終わり』、『ワイルド・ワイルド・カントリー』、『THE BRIDGE/ブリッジ シーズン4』
(文=今祥枝)

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