立川直樹のエンタテインメント探偵
泉鏡花は時空を超えた存在であることを改めて実感! 金沢・泉鏡花記念館で観た企画展『鏡花百物語』
毎月連載
第39回
企画展『鏡花百物語』/鏡花自筆のおばけスケッチ(複写/原品も期間限定公開)
第38回のエッセイでもその素晴しい才能について書いたジャズ作曲家、挾間美帆の11月21日に発売された『ダンサー・イン・ノーホエア』が、第62回グラミー賞の最優秀ラージ・ジャズ・アンサンブル・アルバム部門にノミネートされた。この人はいいなと思っている人が注目され評価されるのはとてもうれしいが、それは来年1月に公開される日本とカザフスタンの合作映画『オルジャスの白い馬』で抜群の存在感を示している森山未來もその1人だし、11月14日にセルリアンタワー東急ホテルの40FのBAR“BELLOVISTO”でチェット・ベイカーが降臨してきたようなパフォーマンスを展開したTOKUもそうだ。3人とも流行や時流というものを超えている点でも共通しているが、文学者の記念館としては三沢にある寺山修司記念館と1、2を争う魅力を持っている金沢の泉鏡花記念館で11月16日からスタートした企画展『鏡花百物語』(2月11日まで。後期は2月14日から5月10日)を観た時に、泉鏡花は完全に時空を超えた存在であることを改めて実感した。
それはその作品についても言える。自他ともに認める“おばけずき”として、多くの怪奇幻妖の物語を世に送り出した鏡花。その作品だけでなく、怪談会などを通して各界の“おばけずき”との交流も密にしていたが、「僕は明かに世に二つの大なる超自然力のあることを信ずる。これを強ひて一纏めに命名すると、一を観音力、他を鬼人力とでも呼ばうか、共に人間はこれに対して到底不可抗力のものである。」(『おばけずきのいはれ少々と処女作』明治40年5月)という文章が示している通り、人智を超えた存在とその力を信じ、畏敬の念を抱くと同時に、作家として虚実の間を愉しんだ鏡花が描いたおばけの絵や『八犬伝』を収めた鏡花愛蔵の草双紙箱などの展示は夢の世界へと誘ってくれたのである。
金沢歌劇座『オーケストラとフラで綴る舞踊劇 しんわ 神々のハーモニー』、新装オープンした渋谷PARCO『AKIRA ART OF WALL』
金沢では泉鏡花記念館に行った翌日の11月24日、金沢歌劇座で『オーケストラとフラで綴る舞踊劇』と銘打たれた『しんわ 神々のハーモニー』という中々うまく言葉では説明できない演し物も観た。1988年に岩城宏之が創設音楽監督を務め、石川県と金沢市が設立した国内外奏者40名からなる日本最初のプロの室内オーケストラ、オーケストラ・アンサンブル金沢と石川県野々市市を中心に北陸3県でレッスンを行っているフラスタジオ、ナ・レイ・プアラニ・フラスタジオが手を組み、そこにハワイの2人のミュージシャン、アーロン・J・サラ、スノーバード・プアナニパオアカラニ・ベントー、語り部として篠井英介と山崎阿弥、洋舞の中村香耶、笛の八木繁が加わって繰り広げられたハワイと日本の神話をベースにした不思議なパフォーマンス。いろいろな可能性を感じさせてくれたが、金沢では人気の金沢21世紀美術館や、7月にオープンした建築と都市がテーマの谷口吉郎・吉生記念金沢建築館、2020年夏にオープンする国立工芸館なども含めて確実に文化都市路線を走っている感がある。
そしてオープンと言えば、開業50周年を迎えたPARCOの渋谷店が約3年間の休業を経て11月22日に新装オープンした。ファッションや飲食を中心に計193店からなる地下3階から地上19階建ての新生PARCO。ネット通販の台頭で、実店舗の集客力が低下する中で、アートやカルチャーをキーワードにして情報発信地点としての魅力づくりにも力を入れていくというが、PARCO MUSEUM TOKYOとGALLERY Xでオープン記念として開催された『AKIRA ART OF WALL』も中々おもしろく、よく出来た展示だった。これも言葉では説明するのが難しいもの。“百閒は一見にしかず”という言葉が頭に浮かんだが、銀座メゾンエルメス フォーラムで1月13日まで開催されているイズマイル・バリーの展覧会『みえないかかわり』はもっと説明が難しい。ただ知覚実験に近い展示は十分にみる価値がある。
作品紹介
『オルジャスの白い馬』(2019年・日本=カザフスタン)
2020年1月18日公開
配給:エイベックス・ピクチャーズ
監督:竹葉リサ/エルラン・ヌルムハンベトフ
出演:森山未來/サマル・イェスリャーモワ/マディ・メナイダロフ/ドゥリガ・アクモルダ
企画展『鏡花百物語』
会期:【前期】2019年11月16日~2020年2月11日
【後期】2020年2月14日~5月10日
休館:2019年12月29日~2020年1月3日
2020年2月12日~13日
会場:泉鏡花記念館
『オーケストラとフラで綴る舞踊劇 しんわ 神々のハーモニー』
日程:2019年11月24日
会場:金沢歌劇座 ホール
出演:松村秀明(指揮)/篠井英介(語り部)/山崎阿弥(語り部)/アーロン・J・サラ(音楽構成、作詞・作曲、ピアノ、歌)/スノーバード・プアナニパオアカラニ・ベントー(歌、フラ)/ナ・レイ・プアラニ・フラスタジオ(フラ)
『AKIRA ART OF WALL Katsuhiro Otomo × Kosuke Kawamura AKIRA ART EXHIBITION』
会期:2019年11月22日〜12月16日(PARCO MUSEUM TOKYO)
※GALLERY Xは12月8日までの開催
会場:PARCO MUSEUM TOKYO(渋谷PARCO 4F)
プロフィール
立川直樹(たちかわ・なおき)
1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。