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しがない四十男がワインと人生の“飲み頃”に気づくまで 『サイドウェイ』ゲネプロレポート

ぴあ

21/3/22(月) 12:00

『サイドウェイ』より 撮影:岩田えり

3月20日に開幕した舞台『サイドウェイ』のゲネプロを鑑賞する機会に恵まれた。

2005年の米アカデミー賞5部門にノミネートされ、最優秀脚本賞を獲得した映画『サイドウェイ』。原作者レックス・ピケットが手がけた戯曲で舞台化された本作が、箱庭円舞曲を主宰する古川貴義の日本語上演台本・演出によって繰り広げられる。40代に突入し、人生の転機を迎えた中年男・マイルスとジャックの旅路がバディ・ロードムービー的に綴られる。

結婚を控えた友人ジャックのために、一週間にわたるカリフォルニアのワイナリー巡りを企画したマイルス。「独身最後に女の子を“テイスティング”する」と豪語するジャックに対して、純粋にワインを愛好するマイルスは呆れ顔だ。このバチェラーパーティーに対するふたりの温度差もさることながら、行く先々で出会う女性陣とのかけ合いが何とも味わい深い。

ワイン好きの脚本家マイルス役には藤重政孝。夢である小説家として突き抜けられず、バツイチで元妻に未練のある屈託にまみれた役どころをリアルに造形する。口に含んだワインの取り扱い方や、皮肉混じりに講釈を垂れる姿は特に「こんなおじさん日本にもいて、蘊蓄語り聞いたことある!」という既視感に見舞われるほどだった。

テレビ番組のディレクターで生計を立てている俳優ジャック役には、体調不良で降板した石井一孝からバトンを受け取った神農直隆がキャスティング。鳴かず飛ばずの役者業を断念して家庭に落ち着くか、新たな環境で心機一転するか。わずかな稽古期間にもかかわらず、神農はプレイボーイ然とした振る舞いで周囲を翻弄する彼を掴み取っていた。

ふたりがワイナリーで出会う女性陣には、壮一帆と富田麻帆。いずれの役もクセのある中年男と張り合えるほどの強烈な個性の持ち主で、マヤ役の壮にはワインを艶っぽく活用した男女の駆け引き、テラ役の富田には終盤に抑えきれない激情を爆発させるシーンが用意されている。

ボトルやグラスを陳列した美術にコルクの開封音を印象的に用いる演出など、世界中にピノ・ノワールの魅力を伝え、ワイン産業に多大な影響を与えたといわれる原作を活かした試みも。聞けば、キャストはプロのソムリエからワインレクチャーを受けたとか。説得力ある注ぎ方やスワリングを目の当たりにしたら、終演後にはボトルを開けたくなること必至だろう。

マイルスもジャックも、実際に対面したら接し方に戸惑う面倒な中年男だ。しかし悪態をつきながらも人生の岐路で悩み苦しむふたりの姿には、不思議と共感が寄せられる。ワインに飲み頃があるように、人生にも押さえるべきタイミングがあるーー。年度末の春、彼らによる悲喜こもごもの“サイドウェイ(寄り道)”を見届ける上演時間150分の珍道中に出てみては。

「ヴィンテージワインのように日々熟成していくことと思います」キャストほか開幕コメント

藤重政孝
ついに幕が開きました。やっとここまで辿り着けましたが、これがすべての始まりなので、残りの公演を千秋楽へ向けて頑張りつつ、作品と共に我々も育っていきたいと思います。育てていただくのはお客様のパワーの部分が大きいです。出歩きにくいご時世ではありますが、感染症対策もバッチリしていますので、お芝居を楽しみに足を運んでいただけたらと思います。キャスト・スタッフ共にいい雰囲気で現場を走らせています。それが作品の空気に繋がっていくと思いますので、ぜひその空気を感じに遊びにいらしてください。マイルスでした。

神農直隆
無事にゲネプロが終えられてほっとしています。色々ありましたが、カンパニーの皆さんに助けられながら、いまこの時を迎えられて本当に嬉しいです。あとはお客様がどれだけ楽しんでいただけるかですが、ちょっと時間が長いかもしれませんが、僕らも集中して観ていただけるように頑張っていきたいと思います。破茶滅茶で下品でお下劣な言葉も出て来るんですが、友情だったり愛情だったり恋愛だったり、色々な情が出てくる物語なので、ワインを通して、見ていただけるように努めていきたいです。凄く楽しいので笑えるところがあったらどんどん笑ってください。

壮一帆
最初この作品の本をいただいて読んだ時から、幕が開くのをとても楽しみにしていました。実際に衣裳をつけて、動いて喋ってみると、舞台の上でサイドウェイの人たちが息づいていて、興奮を抑えられない気持ちでいっぱいになります。この楽しさ、胸に突き刺さるような言葉の数々が皆様の心にも届く事を願っています。まだまだ予断を許さない状況下ではありますが、ほんのひと時でも心が和らぐような時間にできたらいいなと思いますので、観終わって、家に帰って、美味しいワインを飲みながらこの舞台を想い返していただければ嬉しいです。

富田麻帆
まずは初日の幕が開けられる事、この場所まで来られた事を嬉しく思います。この昨今なかなか思うように舞台が出来ない中で、ひとつづつ作品を作り上げられる喜びを改めて噛み締めています。この作品はとにかくワインを飲みたくなります。そして欠点を持った登場人物たちがたくさん出てきますが、人は誰しも何かしらの欠点を持っていて、だからこそ愛おしくて素敵なんだなと思える作品です。そんな愛おしくなる登場人物を観ながら、美味しいワインを飲んで、この作品に浸っていただけたらとても幸せです。ぜひ劇場で、そして配信でもお待ちしています。

古川貴義(上演台本・演出)
まずは、無事に初日の幕を開けられることに感謝です。
社会情勢をはじめ、色々と心配事の尽きない日々でしたが、何とか幕を開けることが出来ました。限られた時間の中で尽力してくれたキャスト、スタッフのお蔭です。そして、ご来場くださるお客様のお蔭です。皆さん、本当にありがとうございます。
奥深いようで気軽な、バカバカしいようで身につまされる、好きだけど憎たらしい、愛おしい作品になりました。これからステージを重ねるごとに、ヴィンテージワインのように日々熟成してくことと思います。ただし、飲み頃はいつも今。演劇は、いつも今。今まさに目の前で起こっていることを、お楽しみいただけますように。

取材・文:岡山朋代 撮影:岩田えり



『サイドウェイ』
原作・脚本:レックス・ピケット
翻訳:主計大輔
日本語上演台本・演出:古川貴義(箱庭円舞曲)
キャスト:藤重政孝、神農直隆、壮一帆、富田麻帆、江浦優大、嶋村亜華里、片桐はづき

2021年3月20日(土)〜3月25日(木)
会場:東京芸術劇場シアターイースト
※3月22日(月)休演
配信公演あり、詳細は以下conSept movieにてご確認ください。
https://consept-movie.myshopify.com/

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