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竹内まりやは“自己実現”と“家庭”を両立したパイオニア 40年以上も愛され続ける要因を考える

リアルサウンド

19/3/26(火) 23:00

 竹内まりやが本日3月26日放送の『竹内まりや Music&Life ~40年をめぐる旅~』(NHK総合)にて11年ぶりのテレビ出演を果たした。NHKに残るデビュー当時の貴重な歌唱映像から、現在の制作現場を初公開。スウェーデンでのレコーディング風景を交えながら、音楽作りの流儀や情熱が語られたという。

参考:嵐、大物ミュージシャン提供曲は「変化」の兆し? 竹内まりや&山下達郎が手がけた新曲への期待

 今年、竹内まりやはデビュー40周年という大きな節目を迎えたが、彼女の歩みは一般的な歌手とは大きく異なる。デビューから、わずか3年で山下達郎と結婚。子育てをしながら、数多くのアイドルや歌手に楽曲を提供してきた。自分の作品を発表するのは、パートナーである山下達郎の活動が落ち着いたタイミングのみに限定されている。結婚後36年間に行なったライブは3回だけというから驚きだ。彼女の潔い決断、そしてその後の活躍を見ていると、決して、パートナーや子育てのために仕方なく在宅になったのではなく、心地よい空間を追い求めた結果、そうしたスタイルが確立されたのだと伝わってくる。

 山下は在宅で音楽活動を続けてきた妻の活躍を“シンガーソング専業主婦”と名づけ、竹内は「シンガーソング“兼業主婦”でしょ?」と笑って見せる。実際に、竹内はこの在宅活動によって「作家的な視点が養われた」とも語っている。前例がなくとも、“自分らしく”いられるペースを探り、その先にある経験を楽しむこと。“ワークライフバランス”という言葉が世の中に浸透するよりもずっと以前から、竹内は自分のペースで自己実現と家庭を両立させたパイオニアなのかもしれない。

 そんな竹内が誰も切り拓いたことのない道を歩んでこられたのは、彼女の天賦の才はもちろんのこと、圧倒的な“ポジティブさ”にあるように思う。ファンの中で人気の高い「元気を出して」は、失恋した大事な人をなぐさめる楽曲。失恋ソングではあるものの、そのメロディはライトで、悲しみに打ちひしがれたり、誰かを恨んだりはしない。多くの人が、何か壁にぶつかったとき、“自分の何がいけなかったのか”とふさぎ込む中、竹内は“本来あなたが持っている魅力に、もう一度気づいて”と、元気づけるのだ。

 切ないメロディと歌詞で、苦い恋を歌った「駅」でさえも、〈あなたがいなくても こうして 元気で暮らしていることを さり気なく伝えたかったのに……〉と歌う。昔の恋に心がザワザワとなびく情景を描きながらも、その人がいなくても自分なりに人生を歩み進めてきた強さがあるじゃないかと、気づかせてくれる。さらに、不倫ソングとは思えないポップさが特徴の「純愛ラプソディ」では、〈人をこんなに好きになり 優しさと強さ知ったわ それだけで幸せ〉、〈さよならが 永遠の絆に変わることもある〉と、許されない恋や報われない想いも、“人を好きになる幸せ”へと昇華してくれるのだ。

 竹内の楽曲を聴いていると、いつも明るく「大丈夫だよ」と言ってくれる親友と話しているような気持ちになるのは、筆者だけだろうか。泣きたいときには「わかる、わかるよ」と肩を寄せ合い、「でも好きになれるって素敵なことじゃない」と視点を切り替え、いつしか「あなたのいいところは、あなた自身も知っているはずでしょ」と勇気づけられるような……そんな感覚だ。

 若いころの真っ直ぐな想いも、大人としての対応が求められる苦しみも、過去の恋を思い出して人恋しくなってしまう弱さも……全部知ってくれているような心地よさ。一旦、すべてを受け止めてくれるような懐の深さ。そして、喜怒哀楽のある日々こそ、〈毎日がスペシャル〉だと歌ってくれるポジティブさ。まるで、竹内の楽曲そのものが、友だちのように一緒に年齢を重ねていくのかもしれない。

 竹内は、公私共にパートナーである山下の存在を“ベスト・オブ・ベストフレンド=親友”と言い表している。もしかしたら、彼女の中では“愛”という意味で、恋愛と友情も近いものなのかもしれない。不倫ソングや、かつて愛した人と再会した苦しい歌も、どこか爽やかに聴こえるのは、その相手と友だちのように認め合って、親友のようにそばにいられたらいいのに……という願いが叶わなかった寂しさを歌っているからではないか。それは、いつか必ず去ってしまう、永遠の青春を願う切なさに近い。親友と笑ったり泣いたりする時間が、いつの時代も愛しいように、竹内の楽曲もいつだって優しくて少しだけ胸が痛くなる普遍的な魅力を放つのだ。

〈いつかは誰でも この星にさよならを する時が来るけれど〉

 2009年に発表し、卒業式や合唱コンクールなどでも歌われるようになった楽曲「いのちの歌」は、竹内がシンガーとして年輪を刻んできた今だからこそ紡ぐ歌詞が胸に迫る。限りある人生において、絶望する日もあるけれど、それでも誰かと歌えば、かけがえのない喜びを見出すことができるはず、と歌うのだ。私たちもいつか必ず、この星にさよならをする時が来る。だが、その瞬間まで、竹内の楽曲は私たちの「心の親友」として寄り添ってくれるに違いない。そして、命が継がれていくように、竹内の楽曲も世代を越えて歌い継がれていくのだろう。(佐藤結衣)

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