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米津玄師、『馬と鹿』初週売上40万枚超え 収録曲「でしょましょ」をボイスサンプルの観点から分析

リアルサウンド

19/9/21(土) 8:00

参考:2019年9月23日付週間シングルランキング(2019年9月9日~9月15日/https://www.oricon.co.jp/rank/js/w/2019-09-23/)

(関連:米津玄師「馬と鹿」がリスナーに提供するドラマとカタルシス リズムから楽曲を分析

 2019年9月23日付のオリコン週間シングルランキングで首位を飾ったのは嵐『BRAVE』で、推定売上枚数667,615枚。さすがというほかないが、2位につけた米津玄師『馬と鹿』も412,359枚を売り上げている。ソロアーティストが初週の売上で40万枚を超えたのは山下智久『抱いてセニョリータ』(2006年6月12日付)以来、13年3カ月ぶりとのこと。この記録はさまざまなメディアで取り上げられている。ちなみにオリコン合算シングルランキングでもほぼ同様の結果だが、Billboard JAPAN HOT100ではこの2組の順位が逆転しているのが興味深い。CDのみならずラジオやダウンロードの指標の重み付けも強いBillboard JAPANのチャートならではの現象と言える。

 と、チャートにまつわるごたくはそこそこに、今回ピックアップするのは米津玄師『馬と鹿』。収録されている3曲(「馬と鹿」、「海と幽霊」、「でしょましょ」)のうち「でしょましょ」以外の2曲はすでに拙筆によるレビューを掲載している。それでもまだ今回のシングルについて書くのかよ、と思われるかもしれないが、「でしょましょ」も近年の米津の作品を考えると興味深い一曲だ。そういうわけでここに取り上げておく。

 お笑いコンビのガーリィレコードはYouTube上での活動でも大きな人気を誇る。彼らがYouTubeにアップロードするナンセンスなネタ動画のなかには、米津玄師(のモノマネ)が何度か登場している。ガーリィレコードの米津玄師ネタのうち、個人的にもっとも気に入っているのが「ミット持ちする米津玄師」だ。

 いちいち説明するよりは動画を見てもらったほうが早いのだが、「Lemon」に登場する特徴的な「ウェッ」という甲高い声ネタからインスパイアされたネタで、スパーリングのミット持ちをしている米津玄師(というテイのガーリィレコード高井)が蹴りを入れられる度に「ウェッ」と声を上げる(ちなみにネタの後半では蹴りに耐えて歌い続ける)。

 という具合に、あの「ウェッ」は楽曲のなかでもごく些細なパートであるにも関わらず、パロディのネタにされるくらいのインパクトを誇る。同曲が主題歌となった『アンナチュラル』の脚本を手掛けた野木亜紀子との対談でも話題になったほど(参照:https://twitter.com/unnatural_tbs/status/970254691912237056)。異様に耳に残るこの歌ならざる声は解けない謎のようだ。

 さらに続くシングル曲「Flamingo」にも、「ウェッ」を彷彿とさせる歌ならざる声がひしめいている。「Flamingo」リリース当時のインタビューでは、この曲にあふれるボイスサンプルについて「自分の声の肉体性みたいなものを今まで以上に曲に落とし込」んだと述べている(参照:https://natalie.mu/music/pp/yonezukenshi13/page/2)。イントロからカットアップされたボイスサンプルが登場し、笑い声や気の抜けた相槌が散りばめられたとても奇妙な曲だが、そこからまっすぐ伸びた線のうえに「でしょましょ」がある。

 「Flamingo」に登場するボイスサンプルにこめられた意味というか意図については先に引用したインタビューで本人の口から述べられている。そのためあえてふたたび振り返ることはしないが、重要なキーワードである「みっともなさ」は「でしょましょ」にも通じる。「伝えたいこと/歌いたいこと」をはぐらかすかのように修辞的な表現を連ねた「Flamingo」と比べると「でしょましょ」の歌詞は露骨に厭世的で、最小限のビートとギター、ベースで構成されたサウンドもあいまって、親密さとともに息苦しさも感じられる。そこに壁一枚隔てたかのような距離感で響くボイスサンプルは楽曲が醸し出す虚ろさ、やるせなさをこれでもかと強調している。

 タイアップも付き楽曲としてのチャレンジも明確(ポストクラシカル的な弦楽アンサンブルの導入やプリズマイザーのような加工を取り入れた変声)な「馬と鹿」や「海と幽霊」と比べると、「でしょましょ」はより力の抜けたプライベートな色合いが強いように見えるかもしれない。実際シンプルで内省的な詞もサウンドもそうした印象を強化している。しかし、ボイスサンプルの活用という観点で見ると、近年の米津玄師が試みてきた流れのなかに確かに位置する一曲だ。(imdkm)

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