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鍵盤プレイヤーのいるバンドはなぜ増加? 音楽プロデューサー島田昌典に聞く、J-POPにおけるピアノが果たす役割

リアルサウンド

20/3/8(日) 12:00

 Official髭男dism、King Gnu、Suchmos、sumika、Mrs. GREEN APPLE。ここ数年の間にブレイクしたバンドの共通点の一つは、優れた鍵盤プレイヤーがいることだろう。そこでリアルサウンドでは、aiko、Superfly、いきものがかり、秦 基博、back numberなど数々の名曲を手がけるプロデューサーであり、自身もキーボーディストとして活躍する島田昌典氏に「J-POPにおけるピアノが果たす役割」についてインタビュー。ピアノを取り入れたバンドが増えている背景からはじまり、島田氏がアレンジを手がける際に意識していること、ストリーミングの浸透によって生じているポップスの構造の変化、ダンスミュージック全盛だからこそ感じている生楽器の重要性など、興味深い話を聞くことができた。(森朋之)

(関連:米津玄師、King Gnu、Official髭男dism……それぞれの楽曲に含まれた“切なさ”とは何なのか 楽曲/メロディ構成を分析

■ピアノは日本人にとって身近な楽器

ーーOfficial髭男dismI(以下、ヒゲダン)やKing Gnuを筆頭に、ピアノ、鍵盤楽器を取り入れたバンドが人気を得ています。4つ打ちのダンスビートとギターリフを中心にしたバンドが数多く登場した後、現在はポップスとしての魅力を備えたバンドが増えている印象もありますが、島田さんはどのように感じていますか?

島田:確かにそういう印象はありますね。ピアノはもともとクラシックの楽器で、とても表情豊かなんです。抑揚も付けやすし、音域もオーケストラ以上なので、幅広い表現ができるんですよね。

ーーアンサンブルにピアノが入ることで、表現の幅が広がると。

島田:ええ。しかもピアノは、日本人にとって身近な楽器だと思うんですよ。1970年代の高度経済成長期に、アップライトピアノを買うことは中流階級の憧れでしたし、ピアノ教室が流行ったこともり、ピアノを持っている家が急速に増えた。僕も小さい頃にピアノを習っていましたが、我々の子供にあたる世代が、ヒゲダンやsumikaの世代なんですよね。物心ついたときから、なぜかピアノが家にあって、それを弾いてみたことで音楽に興味を持った人も多いんじゃないかなと。まあ、これは勝手な想像ですが(笑)。でも、小さい頃の習い事としてピアノは定番ですし、ストリートピアノが置いてあるとみなさん積極的に演奏されていますよね。学校教育でもピアノは欠かせないものなので、弾いたことがない人でも音色には親しみがある。そう考えると、ギターよりもピアノの方が大衆受けするサウンドだと言えるかもしれません。あと、親世代が聴いていた音楽の影響もあるかもしれませんね。日本だと松任谷由実さん、海外ではキャロル・キング、エルトン・ジョンなどを聴いていた世代の子供たちが、いまバンドをやっているというか。

ーー世代が一回りして、幼少期にオーセンティックなポップスを聴いていた人たちがバンドを組んで世に出てきた、と。

島田:そうですね。彼らの曲を聴くと、ピアノのリフやフレーズなどに、70年代の歌謡曲やポップスの匂いがすることもあるので。あと、いろんなサウンドにマッチするんですよね。たとえばEDMでも、ギターより鍵盤のほうが合うと思うんですよ。バンドであっても、Coldplayなどはそういう要素(ダンスミュージックと鍵盤)を取り入れていて。この前、SHE’Sの曲(第92回センバツ MBS公式テーマソング「Higher」)をプロデュースしたんですが、彼らもバンドとピアノ、エレクトリックなサウンドを融合させてますよね。

ーー島田さんが楽曲のアレンジを手がけるときは、やはりピアノで構築するんでしょうか?

島田:「その人が何の楽器を使って曲を作ったか」が大きいんですが、ピアノを使うことが多いです。特にJ-POPの場合は、コードが複雑な曲が多いですし、テンション系だったり、いろいろな響きのコードを試しながらアプローチするので。

ーーJ-POPは全般的にコード進行が複雑ですからね。

島田:そうですね、洋楽はもっとシンプル。70年代の歌謡曲はAメロ、Bメロ、サビがはっきりしていて、曲のなかに起承転結があって。転調も多いし、ドラマティックなんですよね。それは今のJ-POPにもつながっていると思いますし、そういう展開の曲が好きなリスナーも多いんじゃないかなと。ただ、サブスクが浸透してきたことによる音楽の聴き方の変化の影響もありますけどね。「なるべく早く歌が聴こえてこないとダメ」というか、イントロが30秒くらいあるとリスナーは待ってくれないので。実際、最近の曲はイントロはワンフレーズだけでフックの役割になってることが多いですね。

ーー全体の尺も短くなっている?

島田:5分くらいあると「長い」と感じる人もいるようですが、それも曲によると言いますか。曲の長さよりも「この曲で何を伝えたいか」が大事なんですよね。その曲が持っているものを伝えるために、どういう構成にするかを考えるので。(楽曲の長さに関しては)メディアの変化もありますね。60年代、70年代のポップスは、ドーナツ盤(シングルのアナログレコード)に収録できる時間が決まっていたから、2分、3分の曲が多かった。CDの時代はまた違ったし、いまはスマホで音楽を聴く人が多いですから。最終的なチェックをするとき、iPhoneにもともと付いているイヤホンを使うアーティストもいるので。

ーー音楽の聴かれ方の変化は、楽曲のアレンジにも影響すると。

島田:それがすべてではないですけどね。基本的には、いままで誰もやっていないサウンド、オリジナリティをどう聴かせるか? ということなので。他にはないユニークな部分がリスナーを惹きつけると思うし、そのためにいろいろな実験をしながらアレンジしています。リズム、ハーモニー、音色を含めて、すべての要素が複雑に絡んできますよね、そこには。

ーーなるほど。先ほども話に出ていたSHE’Sの「Higher」の場合はどうだったんですか?

島田:バンドのプロデュースをするときは、その楽曲からメンバーの顔が見える、音が聴こえることを大事にしていて。SHE’Sはボーカルの井上竜馬くんがピアノを弾いて歌っているので、それをしっかり聴かせることが基本。デモの段階でアルペジオの素敵なリフがあって、それを中心にアレンジしました。さらにストリングスがエモーショナルに絡んで、リズムを強く押し出すというイメージですね。高校野球の曲だから、“汗”や“エール”というテーマも意識していました。

ーーなるほど。やはり島田さんがアレンジを担当したSuperflyの「フレア」(NHK連続テレビ小説『スカーレット』主題歌)に関しては?

島田:越智志帆さんご本人がデモを作られていて、それをもとにアレンジしました。陶芸をテーマにしたドラマなので、土のイメージから民族楽器やパーカッションを入れて。たまたまエレキシタールを持っていたので、試しにその音を入れてみたら上手くハマって、ユニークなサウンドになったと思います。

■“切なコード進行”はギターよりもピアノの方が合う

ーー話をピアノに戻したいのですが、島田さんがポップスにおけるピアノの存在を意識したのは、どんな音楽がきっかけだったのですか?

島田:小学校のときに聴いたThe Beatlesですね。僕が知ったときはすでに解散していたので後追いで聴いたのですが、初期の頃はエレキギターが中心で。ライブをやらなくなって、レコーディング・バンドになってからは曲のなかにいろんな楽器が入ってくるようになって。「Lady Madonna」のようにピアノがカッコいい曲もあって、よくマネして弾いていました。エルトン・ジョンも聴いていましたが、ほとんどの曲がピアノが中心になっていて。キャロル・キングなどもそうですが、歌の合間に出てくるピアノのオブリガード、(ボーカルに対する)カウンターメロディが好きだったんですよね。歌い手が手癖で弾いているフレーズが多いんですが、それが歌の合いの手になっていて、印象的な旋律をイントロに持ってきたり、ストリングで奏でていることもあって。そういうアレンジのやり方には影響を受けていますね。

ーーピアノには切ないフレーズが似合うイメージもありますね。

島田:そうかもしれないですね。“切な(い)コード進行”というものがあって、キーがCだとしたら、C→E7→Amとつなげることで切なさを表現できる。このコード進行は、ギターよりもピアノのほうが合うのかなと。歌謡曲やJ-POPでもよく使われているし、日本人に刷り込まれている部分もあると思います。

ーーなるほど。洋楽から受けた影響をJ-POPに落とし込む際に気を付けていることは?

島田:先ほども言いましたが、“誰もやっていないサウンド”は常に目指していますね。まあ、誰もやっていないサウンドはじつはなくて(笑)、レジェンドたちが作ってきた音楽を血肉化して、自分のなかにある音楽とミックスしているというか。自分が聴きたい音楽を作りたいという気持ちもありますね。

ーー自分自身が聴きたい音を追求することがヒットにつながる?

島田:いや、ヒットにつながるかどうかは考えません(笑)。意識しているのは、何回でも聴きたくなるということですね。特に今の時代は、たくさんの人が繰り返し聴いてくれたらヒットしたということになると思うので。

ーーヒゲダン、King Gnuの楽曲にも、何度も聴きたくなる魅力がある?

島田:そうですね。ヒゲダンはまず、メロディラインが印象に残りますよね。日本人好みだし、洋楽的な要素もあって。この先、どんなメロディが出てくるのか楽しみです。King Gnuは1曲のなかの情報量がすごく多い印象があって。メンバー4人が好きなようにやりまくっているし、天才に近いミュージシャンが揃ったバンドだなと。J-POPの枠にとらわれない存在だし、ぜひ海外に出てほしいですね。

ーー2010年代以降EDMの世界的トレンドが続いてきましたが、島田さんはやはり、オーソドックスなポップスを追求したい気持ちが強いんでしょうか?

島田:そうですね。DJが作った音楽も素晴らしいし、EDMはこれからも進化するジャンルだと思います。僕は3~4分の楽曲でリスナーを感動させ、大げさに言えば、その人の人生に入っていけるような音楽を作りたいと思っています。ただ、一般的には音楽の作り方はどんどん変わってますよね。打ち込みが中心になって、生楽器をスタジオで鳴らしてレコーディングをする機会が減っている。バンドでもデータのやり取りで制作するのが普通になっているし、“せーの”で楽器を鳴らした時のアンサンブル、ダイナミクスレンジ、抑揚などを体験したことがないのはかわいそうだなと。最近のバーチャル楽器は本当によくできていますが、やはり楽器本来の音を知っていたほうがいいと思んですよ。僕のスタジオにはいっぱい楽器があるので、プロデュースするときは、その音色を活かしてほしいなと。

ーーピアノもそうですが、本当の生楽器の響きを知ることが楽曲制作面にも影響を与えることになると。

島田:安いピアノであっても、その楽器なりの良い音というのがあるんですよ。楽器本来の響きを知れば、バンドのアンサンブルも変わってくるし、そこから新しいアプローチにつながることもあって。音色もそう。アナログシンセで好みの音を作るのは時間がかかりますけど、それがオリジナリティになっていくので。

ーー島田さんがプライベートスタジオを作ったのも、若いミュージシャンに生音の良さを知ってほしかったからなんですか?

島田:もともとは自分が爆音を鳴らしたいから作ったんですけど(笑)、ユニークな楽器が揃っているし、スタジオに来たミュージシャンはみんなビックリしますね。

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