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トレンディドラマの波は今もなお健在? 柴門ふみ原作がドラマ界にもたらした影響

リアルサウンド

20/10/30(金) 8:00

 金曜ドラマ(TBS系金曜夜10時枠)で放送中の『恋する母たち』は、柴門ふみが『女性セブン』(小学館)で連載している45歳前後の母親たちの不倫を題材にした恋愛漫画を、ドラマ化したものだ。

 主演は木村佳乃、脚本は『セカンドバージン』(NHK)を筆頭とする大人のメロドラマを多数手掛けている大石静。金曜ドラマで大石が執筆するのは、戸田恵梨香、ムロツヨシの共演で話題となった2018年の『大恋愛~僕を忘れる君と』以来。『凪のお暇』や『MIU404』といった作品で、勢いを盛り返しつつある金曜ドラマだけに、どこまで話題になるのか注目されている。

 原作を担当する柴門ふみは、坂元裕二の出世作となった『同・級・生』(フジテレビ系)や『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)、北川悦吏子の出世作となった『あすなろ白書』(フジテレビ系)といった80年代末から90年代にかけてのフジテレビ系の恋愛ドラマ(の原作)にはかかせない存在で、当時は“恋愛の神様”と呼ばれていた。

 この時代は「恋愛こそが世界のすべて」という価値観が席巻しており、消費の中心には常に若い女性たちがいた。昭和の終わりから平成初頭の、バブルは崩壊したが、数年たてば好景気の日本が戻ってくるのではないか? という希望がギリギリ残っていた90年代前半の空気を思い返すと、柴門ふみの漫画を原作とする恋愛ドラマのことを思い出す。

 一方、この時代は、柴門ふみの夫としても知られる漫画家・弘兼憲史が切り開いた『課長島耕作』(講談社)などのサラリーマン漫画の時代でもあった。バブル景気に下支えされた高度消費社会の下で、男は(年功序列と終身雇用がまだ残っていた)昭和型の会社社会で派閥抗争と社内不倫を楽しみ、1986年の男女雇用機会均等法施行以降に社会進出した『東京ラブストーリー』のヒロイン・赤名リカと同世代の女たちは、仕事と恋愛を謳歌しながら、バブルの豊かさに支えられた束の間の自由を謳歌していた。2人の漫画は、そんな豊かな時代の象徴だった。

 1976年生まれの筆者にとって柴門ふみ原作のドラマは、バブル世代のお兄さん、お姉さんの文化という感じで、少し距離感のあるものだった。当時テレビ朝日系で放送されていた『柴門ふみセレクション』というオムニバスドラマで描かれた、思春期の男女の葛藤は高校生の時に観て、それなりに理解できたのだが、会社を舞台にしたラブストーリーは「大人になったらこんな感じかな?」と思いながら楽しんでいた。

 しかし、平成不況が長期化するにつれて、柴門ふみ作品を支えた豊かさを前提とした恋愛至上主義的な世界は、日本から失われていく。それを明確に感じたのが、1998年の春クールに放送されたドラマ『お仕事です!』(フジテレビ系)を観た時だ。本作は大手建設会社に務める女性が食器輸入会社を企業する仕事と恋愛を描いた作品だが、同時期に放送された『ショムニ』(フジテレビ系)と比べると、ズレてるなと思った。

 『ショムニ』は、大企業に務める庶務二課の女性社員たちのチームが、会社の男性社員や秘書課の女性社員たちと戦う姿を描いたドラマで、コミカルなやりとりの背後に見え隠れする切羽詰まったサバイバル感は『お仕事です!』よりも時代の気分を掴んでいた。

 恋愛ドラマの主流が男女の軽妙な駆け引きを描いたものから、難病モノや、恋愛ができない男女の恋愛を青春ドラマが主流となるにつれて、柴門ふみの作品がドラマ化される機会はどんどん減っていく。その意味で一度は忘れられた存在だったのだが、今年に入って柴門ふみ再評価の波が高まっている。

 FOD(フジテレビ・オン・デマンド)とAmazonプライム・ビデオでは、リメイク版『東京ラブストーリー』が配信され、BSテレ東では『女ともだち』が再度ドラマ化された。そして今回の『恋する母たち』である。契機はおそらく2016年の『東京ラブストーリー ~After 25 years~』(小学館)だろう。ビッグコミックスピリッツで読み切りが掲載された後、『女性セブン』で連載された本作では、主人公の永尾完治と赤名リカのその後が描かれたのだが、このあたりで時代が一巡したのを感じる。おそらく、80年代末から90年にかけての豊かだった日本の空気感を、ノスタルジーの対象として日本人が楽しめるようになったのだろう。同時に感じるのは、赤名リカ世代の女性が持つたくましさだ。

 若い時に柴門ふみ原作のドラマを観ていた現在は40代後半から50代となっている世代の女性は今でも元気で、主婦になっても恋と仕事を諦めないタフさがある。そういうファンがいるという確信があるからこそ、『恋する母たち』などの柴門ふみ作品のドラマ化が続いているのだろう。

 『あすなろ白書』を手掛けた北川悦吏子も来年、母親と娘の恋活を描く『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(日本テレビ系)を控えている。かつてはこの世代の持つ元気さに距離を感じたが、今はむしろ、そのバイタリティに憧れを感じる。何歳になっても、恋に仕事に大暴れしてほしい。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
金曜ドラマ『恋する母たち』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:木村佳乃、吉田羊、仲里依紗、小泉孝太郎、磯村勇斗、森田望智、瀧内公美、奥平大兼、宮世琉弥、藤原大祐、渋川清彦、玉置玲央、矢作兼、夏樹陽子、 阿部サダヲ
原作:柴門ふみ『恋する母たち』(小学館 ビックコミックス刊)
脚本:大石静
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:佐藤敦司
演出:福田亮介
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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