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映画館「再開」と映画興行「回復」の間に立ちはだかる、高い壁

リアルサウンド

20/5/14(木) 20:00

 5月4日に特定警戒都道府県以外の34県の知事に通知された5月7日以降の休業要請緩和の検討指示、及び本日(5月14日)決定した39県を対象とする緊急事態宣言解除を受けて、対象地域の映画館が再開、または再開に向けて動き出している。本コラムでもこれまで懸念してきた通り、今のところ再開した映画館でも客足は鈍く、この時期に公開予定だった新作もそのほとんどが公開先送りとなっている。各映画館のプログラムは、公開中のまま休館に入ってしまった新作(『パラサイト 半地下の家族』、『ミッドサマー』、『一度死んでみた』など)の再映を除いて、その多くは旧作が占めている。それ自体は、既に再開していた他国の映画館と同様の対応であり、本格的に新作の公開が始まるのは6月に入ってから、まずはインディペンデント系の配給会社の作品が中心となっていく見込みだ。

参考:ようやく再開に向けて動き始めた映画興行 「平常化」の前に映画ファンができること

 公開作品のタマ不足以外にも問題は山積みだ。多くの映画館では客席と客席の間隔を開けてのチケット販売となり、マスク着用のお願い(義務化)を告知している映画館も少なくない。また、シネコンによってはすべてのスクリーンを開けないところもでてくるだろう。要するに、営業を再開できたとして、(閉館しててもかかる家賃や場所代のほか)開館することによって負担が増える人件費や設備費などをふまえると、まだ営業利益を出すにはほど遠い状況にある。その上、映画館の運営に関わっている人たちには、ウイルス対策のために多大なストレスと労力がかかっているに違いない。映画館「再開」は、決して映画興行「回復」を意味しない。しかし、まずは「再開」しないと何も始まらないというのは、これまで再三述べてきたことだ。

 アメリカから不安なニュースも入ってきた。現在ハリウッドではワーナーが7月17日公開のクリストファー・ノーラン監督新作『TENET テネット』を予定通り公開するかに注目が集まっていて、ノーランは(たとえ映画館の半分の客席しか開放されず、興収で大きなダメージを被るとしても)公開への強い意欲を見せていると伝えられている。しかし、5月12日、ロサンゼルス郡における外出禁止が今後3ヶ月、つまり8月までは延長されるだろうという報道(https://www.latimes.com/california/story/2020-05-12/coronavirus-beaches-reopen-los-angeles-county-move-toward-new-normal)があった。アメリカ国内の映画興行の四大マーケットとされるのはニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、マイアミの4都市。そのうちの一つ、しかもハリウッド・メジャーのお膝元であるロサンゼルスで、7月17日の公開日に外出禁止さえ解かれていないことになれば、ワーナーやノーランの映画興行「回復」(つまりは世界中の映画館の救済)に向けた強い思いが挫かれることにもなりかねない。

 アメリカ国内における映画館再開に向けての動きを複雑にしているのは、外出禁止令が解かれている地域でも、営業しているのが独立系の映画館に限定されていることだ。5月11日の時点で、全米ではまだ100館、400スクリーンが開いているのみ(https://www.indiewire.com/2020/05/tenet-theaters-reopen-summer-movies-chistopher-nolan-box-office-1202230166/)。2大チェーンのAMCとCinemarkの再開は7月以降になる見込みだという。さらに、ロサンゼルスの例からわかるように、州や郡によって外出禁止解除の基準がバラバラなこともその複雑さに拍車をかけている。しかも、その基準は、新型コロナウイルスの感染状況だけでなく、大統領選を控えた各州自治体の政治的判断が大きく影響している。つまり、共和党の強い地域は経済優先で解除への動きが活発で、民主党の強い地域は人命優先で解除への動きが鈍い傾向がはっきりあるということだ。

 経済優先と人命優先、自分はどちらが正しいのかをジャッジできる立場ではない。そもそも、経済も人の生死を大きく左右するし、外出禁止令の延長がどれだけの人命を救うことになるかは誰にもわからない。ただ、新型コロナウイルス感染拡大以降、日本ではここまで多くの政治的失策があったわけだが、少なくとも休業要請緩和の唯一の基準は、各都道府県の感染状況となっている。現在のアメリカの映画館再開をめぐる混乱を見ていると、そのことだけはまだマシに思えてくる。(宇野維正)

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