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峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら

やらなきゃならないことをやるだけさ。だからうまくいくんだよ

毎週連載

第119回

ふと気付いたらもう18年も経ってるけど、僕が一番最初に映画に出たのは『アイデン&ティティ』という作品でした。みうらじゅん原作、田口トモロヲ監督、宮藤官九郎脚本という豪華な映画だったけど、この中で「やらなきゃならないことをやるだけさ。だからうまくいくんだよ」というボブ・ディランの曲の歌詞が引用されます。最近あるライターさんから「あの言葉の意味をずっと考えてるけど、わかんない」と言われたので、今回はここでちょっと解説したいと思います。

これ、受け取る人にとっていろんな解釈があって良いと思うんだけど、「やらなきゃならないことをやるだけさ。だからうまくいくんだよ」っていうのは僕としては「責任」みたいなことかなって思ってる。なんでもそうだけどさ、「これをやってると楽しい」っていう衝動みたいなものがまずあったとしてもそこには別に責任は伴わないじゃん。単にやりたいからやるっていうような感じ。でもさ、ずっと「やりたいこと」をやっていると、いつの間にか同時に「やらなくちゃいけないこと」も出てくるようになるんだ。

僕の場合で言うと、最初に楽器を持って、メンバーと音を合わせた最初の頃はそれ自体が楽しくてやりたいことだから、別に「やらなくちゃいけないこと」はなかった。でもさ、やがてバンドのレコードを色んな人に聴いてもらうようになって、メンバー以外に自分を助けてくれるようなスタッフもつくようになる。銀杏BOYZで言うと、江口くんや芦沢(マネージャー)、軽部くん(ディレクター)とか、それ以外にもいっぱい関わってくれる人がいる。そうなるとさ、最初に「楽しい」「やりたい」だけじゃなくなってくる。どうしても責任が伴ってくるんだよ。

そうなるとさ、単に「やりたい」だけじゃダメで、「やらなくてはいけないこと」も当然うまくやっていかなければいけないんだ。「○月○日までに、○○を作ってください」と言われたときに「それは『やりたい』ことじゃないからやらない」なんて返したら円滑に物事は進まない。もちろん、なんでもかんでもやるわけではないけど、ある程度の柔軟性を持って、自分だけじゃなくて周りの人たちのことも考えて進めるべきこと……それが「やらなくちゃいけないこと」だと僕は思っています。だからうまくいくような気がするんだよね。

でもさ、今はこんなこと言ってるけど、7年前に同時発売した銀杏BOYZのアルバム(『光のなかに立っていてね』、『BEACH』)を出すまでは「やりたい」のほうにこだわっていたのも確かだね。あのときはさ、レコード会社にかなりワガママを言って「長い時間がかかるかもしれない。申し訳ないですけど、のんでください」と言って。結果その2枚のアルバムを作るのに、9年もかかっちゃった。でも、同時にあのアルバムができたときは、本当にスッキリしたな。あのアルバムを出せてからは、すごく気持ち的に楽になったよ。

今でもさ、理想では100メートルを9秒くらいで走りたいんだ。100メートルを9秒で走れるようになること自体は諦めていないけど、今仮に15秒かかるんだったら、14秒、13秒、12秒……と少しずつ9秒に近づけながら、そのときどきの勝負を見せていくべきだよね。

何歳になったら100メートルを9秒で走れるようになるのかはわからないけど、それまでの間は「やらなくてはいけないこと」をやる。僕の場合は、15秒から14秒に縮めたときに作品を発表するってことだけど、だから、うまくいっているように思うんだ。

『アイデン&ティティ』が18年前だなんて、時間の流れは早いですね。

構成・文:松田義人(deco)

プロフィール

峯田 和伸

1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。


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