
人間椅子、30年歩み続けた地獄めぐりの孤高の道 ストイックな生き様を見せつけた豊洲PiT公演
19/8/12(月) 12:00
地獄めぐりの孤高の道を、這いずり回って30年。デビュー30周年記念アルバム『新青年』の好評を受け、各地で最高動員記録を塗り替えてきた人間椅子が、ツアーファイナルの地・豊洲PITへたどり着いた。チケットは当日券も出ない完全ソールドアウト。30年を経て今なお上り坂を往く、日本のヘヴィメタル/ハードロック界が世界に誇る重鎮バンド、威風堂々の帝都凱旋。
裂帛の気合いと共に放たれた1曲目は、アルバムからの「あなたの知らない世界」。激烈な重低音がフロアを揺るがし、変幻自在のテンポチェンジが風を起こす、プログレ感満載の鮮烈な一撃。鈴木研一(Ba/Vo)がリードボーカルを取る「地獄のご馳走」も、中間部にボレロ風のリズムを組み込み、メタル、プログレ、ハードロックを一皿に盛り付けたような、これぞ人間椅子の孤高のロック。興奮のフロアからは大歓声と無数の拳が突き上がる。意気揚々のオープニング。
「みなさまのお陰をもちまして30周年を迎えることができました。今日は新しい曲から古い曲まで、え? という曲もやりますので、最後までよろしくお願いします」
鈴木の挨拶を受け、和嶋慎治(Gt/Vo)が「21枚目にしてオリコンチャートが一番いいんです!」と胸を張る。今日のライブがYouTubeで全世界配信されていることに触れ、「無駄に盛り上がってください!」とはしゃいで見せる。かつて文芸ロックと称されたマニアックなサウンドが、今や世界に誇る日本のヘヴィメタル/ハードロック代表だ。継続は力なり。
アルバムからの「鏡地獄」は、スロー→ファスト→スローのテンポチェンジを効果的に使った、こってり濃厚な味わい。鈴木の「そろそろお腹がすいてきたなあ」という紹介からの「地獄の料理人」は、重戦車の如く王道メタル路線を爆走し、常識外れのパワーで浮世の憂さをばっさばっさとなぎ倒し進む。この爽快感、この異物感、この非日常感、ヘヴィメタルのカタルシスここにあり。
鈴木いわく「人間椅子がもうやらなくなった曲ベストテン」に入るという「盗人讃歌」は、90年代初頭の実に古い曲だが、鈴木が新たに導入した秘密兵器ファズワウエフェクターの力を借りて見事に蘇生。鈴木のお経ボーカル、和嶋の流麗なスライド奏法もばっちりハマった。2006年の「幻色の孤島」の原曲は9分近い大曲だったが、ライブではさらに長くドラマチックに展開し、King Crimsonを思わせる精密なリフの応酬など、狂躁と計算が共存する見事な出来栄え。入口は狭そうに見えて入ればどこまでも奥が深い、京の町屋のような人間椅子の世界。
「無情のスキャット」は、MVのYouTube再生回数がツアー初日に100万回、この日の時点で200万回に達しようかという最新ヒット曲。鯉口シャツが似合いすぎるナカジマノブ(Dr/Vo)がぶっ叩く銅鑼の音を合図に、バンドは一丸となって猪突猛進。ヘヴィメタルに「シャバダバダ~」というスキャットを乗せる前代未聞のアイデア、こんなことができるのは世界でただ一つ、人間椅子だけだろう。続く「太陽黒点」は90年代初頭の古い曲だが、グロウルめいた鈴木のド迫力ボイス、豪放なテンポチェンジ、ザクザク刻むリフの快感が時を超えてみずみずしく響く。「みやびな曲を」と紹介した新作からの「いろはにほへと」は、まさかの“ズッキンドッキン”コーラスで大盛り上がり。このユーモア、このシュール、30年ずっと変わらぬ人間椅子らしさが確かにここにある。
最後の来日公演を控えたKISSのジーン・シモンズに捧げた「瀆神」は、いなたいブギー調のリズムに乗って鈴木と和嶋が掛け合いボーカルを聴かせ、クライマックスではナカジマノブが渾身のツーバス踏みまくり。和嶋がボーカルを取る「今昔聖」の、クリーントーンとディストーションを使い分けるギターが惚れ惚れするほどかっこいい。ライブは三分の二を終え、いよいよ最終章へと突き進む。
マイクを握ったノブが「俺のことをアニキと呼んでくれ!」と叫ぶ。「一緒に歌ってくれるか!」と煽り、曲はもちろん『新青年』から、ナカジマノブ作曲&ボーカルの「地獄小僧」。ファンキーでポップなハードロック調のサウンドに、伸びやかなハイトーンの声がよく似合う。「先に地獄で待ってるMotörheadのレミー(・キルミスター)、エディ(”ファスト” エディ・クラーク )、アニマル(フィルシー “アニマル” テイラー)に捧げます」という、鈴木の紹介もぐっと胸に沁みた「地獄の申し子」はさらに激しくさらにアップテンポに、和嶋と鈴木はステージを動き回ってオーディエンスを煽りにかかる。
「超自然現象」は、Led Zeppelinばりの王道ハードロックスタイルで、渦巻く熱気と肌に当たる音圧がすさまじい。そして本編ラストを締めくくったのは、バンド初期の代表曲にして今も絶大なパワーを放つ怒涛のスラッシュメタル曲「針の山」だ。和嶋が飛び跳ねる。歯でギターを弾きまくる。ノブが親のかたきとばかりにスネアを引っぱたく。鈴木と和嶋が揃いのリフを決める。世界よ、これが人間椅子だ。疾風怒濤のエンディング。
アンコールはしっとりと慈しみ深く、深沢七郎のサスペンス短編からタイトルを取ったという「月のアペニン山」を。和嶋は12弦と6弦のダブルネックギターを爪弾き、ノブはタンバリンやパーカッションで音を紡ぐ、アコースティックなムードの人間椅子もまたいとおかし。一転して鈴木がボーカルを取る「地獄風景」は、ノブがシンバルを叩きっぱなしの高速ハードロックで、中間部に三三七拍子を織り込んでフロアは沸騰。鳴りやまぬ拍手に応えたダブルアンコールで「どっとはらい」を披露して、2時間20分に及ぶツアーファイナル公演は終幕。これにて一件落着。
和嶋はこの日のMCで、「死ぬまでバンドやります」と高らかに宣言した。12月13日、中野サンプラザにて、結成30周年記念ワンマンライブも発表された。過去の曲をも新たな機材や解釈で蘇らせ、人間椅子は未来を目指す。そのストイックな生き様を熱烈支援するファンと共に、同行二人のロック旅はまだまだ続く。
(文=宮本英夫/写真=堀田芳香)