Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

坂元裕二、野木亜紀子らに続く脚本家に? ヤングシナリオ大賞『ココア』14歳・鈴木すみれの実力

リアルサウンド

19/1/8(火) 6:00

 坂元裕二、野島伸司、そして野木亜紀子など有名脚本家を数多く輩出してきたフジテレビヤングシナリオ大賞。若手脚本家の登竜門といわれる同賞を史上最年少の14歳(執筆時点では13歳)でさらったのが、現在、中学2年生の鈴木すみれだ。受賞作『ココア』が1月4日23時30分より放送された。目の肥えた審査員たちをうならせた若き才能のデビュー作はどのようなものだったのか。

 『ココア』は何の接点もない3人の女子高生が主人公。教室にも家庭にも居場所がなく、夜の渋谷を彷徨い歩く黒崎灯(南沙良)。両親が共に不倫をしていることを知りながら、幸せな家族の一員を演じている鈴森香(出口夏希)。クラスメイトと一線を引き、誰にも笑顔を見せない大沢志穂(永瀬莉子)。それぞれ傷を抱える少女たちが、他者との交流を通して少しずつ再生していくさまを同時進行で描き、フィナーレのクリスマスでバラバラだった3人のストーリーがほんの少し交差する。

 3人のストーリーはそれぞれ繊細に描かれていたが、最も作品のコンセプトを明確に打ち出せていたという意味では灯の物語が印象に残った。作品タイトルにもなっている「ココア」。だが、灯が冒頭から手にしているのはビターな「コーヒー」だ。生きることに絶望を抱えている灯には、「ココア」の味は甘ったるすぎる。代わりに「ココア」を愛飲しているのが、夜の渋谷で灯が出会う路上ミュージシャンの雄介(渡辺大知)だ。雄介はいい年をしながら親に仕送りをもらいつつ下手くそなギターを続けている。

 そんなふたりが出会い、少しずつ心境が変化していく。灯は「コーヒー」を手放し、「ココア」を飲むようになり、雄介は「ココア」を卒業し、リクルートスーツに身を包んで「コーヒー」をあおる。灯にとっての「コーヒー」は孤独と拒絶の象徴。誰かに自分の弱さを見透かされるぐらいなら、大人ぶって「コーヒー」を飲んでいる方がマシ。そう心を閉ざしていた灯が、ぬくもりの象徴である「ココア」を手にしたことで、もう一度他者と共に生きる人生を選んだことを表現した。一方の雄介にとっての「ココア」は甘い夢物語。「コーヒー」は苦い現実だ。「ココア」と「コーヒー」を使ってふたりの変化を表したところに、鈴木すみれのセンスが光る。

 秀逸だったのは、自分の名前も素性も隠し、あくまで友人の“灯ちゃん”の話として、自身が受けたいじめや自殺未遂の体験を雄介に話してきた灯が、雄介に“灯ちゃん”が自分自身であることを見破られた後も、「灯じゃないよ」ときっぱり否定したところ。自分の不遇を認めたり、容易く誰かに甘えられたら、10代という季節はもっと楽なはずだ。でも、それができないから10代は苦しい。そんな青春期の潔癖で複雑な心理を、決して痛々しい強がりではなく、16歳の少女の誇りと逞しさとして描けていたところに共感が持てた。

 また、援助交際をしようとする灯を、雄介がミュージシャンらしくバースデーソングを熱唱して引き止めるのもナイスアイデア。クライマックスで再会したふたりが、つながっていない携帯電話越しに近況を語り合うところも、スマホ世代らしい“エモい”描写だろう。

 両親が不倫していることを知っている香が、誕生日プレゼントに何がほしいと聞かれ、「離婚してください」と切り返すのも巧みだ。また、自身がいじめをする側だった志穂の抱える悔恨を化石に見立て、化石を発掘する作業を通じて、自らの奥底に封印していた過ちを告白するというくだりもよく練られている。しかも、掘り起こした化石が偽物で、それを川に放り投げることで、志穂が過去と決別を果たすというのもシンボリックで清々しかった。

 総じて台詞はこなれており、3人のヒロインの心模様をいくつかのモチーフに見立てながら表現する手法の鮮やかさに、作家としての魅力を感じた。

 ひとつだけ残念なことを述べるとすれば、いじめ、不倫、自殺未遂など少女たちを取り囲む題材に目新しさを感じなかったところ。もちろん今もなおこうした問題は女子高生にとって切実で今日的なものなのだろうけど、これまで様々な創作で取り上げられた内容であり、その取り扱い方にもう少しハッとする独自性や先進性がほしかったのが正直なところ。香の両親の不倫の描写については作者の年齢を考慮すれば大人びているとも言えるが、年齢を抜きに考えるとやや古典的でステレオタイプにも見えた。

 だが、見方を変えればそれも伸びしろということ。14歳の鈴木すみれがここからさらに発想力と着眼点を磨き、オリジナリティのある切り口で時代を切り取ったとき、日本のテレビドラマはもっと面白くなるかもしれない。そんな期待を抱かせる新春の1本だった。(文=横川良明)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む