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みきとPが語る、ボカロPを取り巻く現状への違和感「“踏み台”なんていう言い方はよしてほしい」

リアルサウンド

19/3/12(火) 16:00

 バルーン「シャルル」、ナユタン星人「エイリアンエイリアン」、ハチ「砂の惑星 feat.初音ミク」など、ボカロシーンを飛び出して広く世間に浸透する曲が多く登場する昨今、2018年を代表する曲となったのが、みきとPが2018年2月に公開した「ロキ」だろう。

参考:みきとP、2年ぶりワンマン公演で垣間見えた“シンガーソングライターとしての本質”

 今年でボカロPとしての活動10周年を迎えた、みきとP。2018年11月には約6年ぶりの同人アルバム『DAISAN WAVE』をリリースし、12月に行われた『YouTube FanFest』ではVTuberのキズナアイ、ミライアカリとコラボしてmajikoと共に「ロキ」を歌唱。さらにアニメへのタイアップ曲提供や自身でもワンマンライブを開催するなど、ボカロP/アーティスト/音楽作家としての活躍の幅を広げている。

 『DAISAN WAVE』の制作秘話を発端に、“キャッチー”というワードにコンプレックを持っていたという彼自身の音楽観、“ボカロ踏み台論”に感じる違和感、そして10周年の節目を迎える2019年の展望を聞いた。「ロキ」の大ヒット以降もスタンスを変えることなく活動を続けるみきとPが、冷静な眼差しで見据えるボカロシーン/自身の未来とはーー。(編集部)

■「ロキ」の“波”が来ても自分自身に変化はなかった

ーー今回のニューアルバム『DAISAN WAVE』は、みきとPさんによって約6年ぶりの同人アルバムになります。その間に一般流通でいくつかの作品を発表されてきたわけですが、あらためて同人作品に立ち返った理由は?

みきとP:とにかく「ロキ」を早く音源化したかったので、であれば同人で作るのがいちばん早いと思ったんです。それと最近は自分の作品を即売会で売ることがなかったので、その感覚を久しぶりに味わいたくて。即売会とかのイベントはお客さんが直接来てくれるので、そういう人たちに向けて「新しいものが出来たよ」という自分の顔になる作品を作りたかったんです。

ーーでは「ロキ」のヒットがきっかけで、アルバムを作ることに決めたと。

みきとP:それはありますね。あとは、まだ盤にしてないボカロ曲が結構あったので、そういう曲も出し惜しみなしで収録して楽しんでもらえたらと思って作りました。なので全部で16曲、かなりのボリュームになりましたね。

ーーやはり「ロキ」の反響は大きかったんですね。アルバムタイトルの『DAISAN WAVE』は、今がご自身のボカロ活動にとっての“第三の波”という意味を含んでいるとのことですが、「ロキ」のヒットが“第三の波”として、ご自身にとっての“第一の波”“第二の波”というのは?

みきとP:“第一の波”は「いーあるふぁんくらぶ」(2012年)で、“第二の波”はそれを経て『僕は初音ミクとキスをした』(2013年)というボカロアルバムを出した時期ですね。その頃は『ETA』(EXIT TUNES ACADEMY)というイベントにも出演したり、自分の曲がいろんな人に届いてる実感があって、それが(動画再生数などの)数字にも表れた時期だったんです。

ーーそれぞれの波の規模や傾向を自分なりに分析するとしたら、どのような違いがありますか?

みきとP:「いーあるふぁんくらぶ」の波はたしかに大きくて、そこからいろんなものが刷新された感じはあったんですけど、規模で言えば「ロキ」のほうが大きいかもしれないですね。要は自分で感じる波は「いーあるふぁんくらぶ」の波のほうが大きかったけど、外側から見た波の大きさは「ロキ」のほうが大きいというか。

ーーたしかに「ロキ」はいろんな歌い手の方がカバーされてますし、カラオケでも人気とのことで、まだ発表から1年ほどですが波及力は凄まじいものがありますね。

みきとP:自分は反響にあまり左右されない人間だと思ってたんですけど、さすがにここまでくると手ごたえを感じましたね(笑)。ただ、「ロキ」の波が来たことで自分自身が何か変わったかというと、別に何も変わってなくて。「いーあるふぁんくらぶ」のときはすごく変わりましたね。

ーーそれは例えば、音楽制作に対する取り組み方が変わったとか?

みきとP:取り組みは変わらないんですけど……ちょっとあか抜けたのかもしれない。自信がついたんですかね。当時の僕は無名Pとして頑張ってる意識だったんですけど、「いーあるふぁんくらぶ」がバンと跳ねてからは、そういう意識が抜けて、自分の名前が出るのでもっといいものを作ろう、という捉え方に変わってきたというか。それまではまだ同人の入門者みたいなところがあったのが、「自分もこの世界の住人なんだ」と思えるようになった。「いーあるふぁんくらぶ」自体がそういう曲でもあるんですよ。あの曲の歌詞に〈だんだん 君と同じ言葉が使えるね〉という一節があるんですけど、そこは「自分も同人のみんなと一緒だよ」という意味が含まれてるので。

ーー今作の1曲目「DAISAN GENERATION」のタイトルは、みきとPさんが常々自分たちの世代を指しておっしゃっている“ボカロ第三世代”のことだと思うのですが、ここであらためてその言葉をタイトルに持ってきた意図は?

みきとP:『DAISAN WAVE』にもそういう意味を含んでるんですけど、今回は僕にとっての“第三の波”でもあるし、“ボカロ第三世代”のみんなも頑張ってるよ、ということをタイトルに込めたくて……別に自分が第三世代の代表というわけではないですけど(笑)。今回はコンセプトアルバムでもないし、いろんな時代の曲が入ってるので、タイトルをつけるのが難しかったんですよ。なので自分自身を俯瞰的に捉えた言葉をタイトルにしました。

ーーそもそも、みきとPさんの定義する“ボカロ第三世代”とは、どういった人たちのことを指してるのでしょうか?

みきとP:これは僕が勝手に思ってることなんですけど、第三世代はみんな年齢が近いです(笑)。例えばbuzzGさんも同世代ですし、僕の身近にいる人だと、emon(Tes.)さん、てにをはさんも歳が近くて。他にも同世代の人がたくさんいるんですよ。つるんでる人が近いからそう見えるだけという可能性もありますけど(笑)。

ーー世代ごとのカラーを感じたりはしますか?

みきとP:これもあくまで主観ではあるんですけど。第一世代は本当にボカロの黎明期で、「みくみくにしてあげる♪」みたいにキャラクターありきの曲が多かったように思います。第二世代は今アーティスト活動やバンド活動をしてる方が多いですよね。第三世代でシンガーソングライターとかになった人はあまりいなくて、どちらかと言うとツールとしてボカロを使いはじめて、その後は自ら演じるというよりは作る側の仕事をしていく人が多いイメージがあるんです。

ーーたしかに、みきとPさんは過去に本人歌唱によるアルバム『MIKIROKU』(2015年)も発表されてますが、シンガーソングライターとはまた別のポジションにいる印象です。

みきとP:僕はバンド解散をきっかけに自分が演じることよりも、裏方というか、作る側にまわろうということでしたし、ボカロをツールとして使いだしたのは、いつか作曲業を含む“音楽をつくること”で生計をたてれたらいいなという野望をもってのことだったように思います。最近の世代の子は、中高生の頃からすでにボカロが存在していたと思うので、また感覚が違うのかなと思いますけど。まあ世代で分けるなんて、音楽のジャンル分けみたいなもので、そこまで意味のあるものじゃないんですけどね(笑)。

■楽曲の根底にある“言い切らないことの快感”

【みきとP/mikitoP】信じる者は救われない/初音ミク Those who believe shall not be saved/Hatsune miku mikitop
ーー今回のアルバム用に書き下ろされた新曲のうち、マイナー調の疾走感溢れるギターロック「信じる者は救われない」は、〈信じなければ 君は救われる〉というある種の悲観的な希望を書いた曲です。この曲はどんな着想のもと書かれたのでしょうか?

みきとP:この曲に関して聞かれるといつも口が重たくなってしまうんですけど……まあ、自分はちょいちょい人を信用しないところがあるので、それはなぜかというのを突き詰めていったような曲ですね。ただ、この歌詞の内容がそのまま自分の気持ちかと聞かれると「いや、そこまでではないけど」と言いたくなるんですけど(笑)、そこまで振り切った歌詞を書きたくなったんです。それとサウンド的には、自分がよく言われる“みきとP=切なロック”という部分に意識的に取り組んで、今の自分がそれをやるとどうなるかを組み合わせた曲ですね。

ーーこの曲で歌われる「裏切られるのであればいっそ信じないほうがいい」という考え方は、極端ではありますけど、ある意味真理でもあるわけじゃないですか。

みきとP:そうですね。でも、それはもっと軽い話でもよくあることだと思うんです。例えば、恋人同士の関係というのは「あれをやってくれない」という減点方式だとうまくいかないって言うじゃないですか。それは相手がやってくれると期待していたから、やってくれなかったときに傷が深くなるんだと思うんですね。そもそも加点方式なら傷は浅く済むだろうし、信じなければ裏切られることもないっていう。

ーーあるいは、この曲の歌詞は、例えばコミュニケーション不全の人や、思春期の自閉しがちな気持ちにも寄り添える内容だと思うんですよ。言っていることは極端ですけど、わかる部分はあるというか。

みきとP:そういうふうに共感することで、「他にも自分と同じようなことを考えてる人がいるんだな」って救われる部分があると思うんですよ。例えば本や曲の中に、表立っては言いにくい尖った言葉が出てきたとして、それが自分の考えてたことに近いと「あっ、俺が変だったわけじゃなかったんだ」と思えるし。だから、この曲は救われない部分がありつつ、何かそういう共感を得られたらうれしいなと思っていて。

ーーそれに歌詞の最後は〈「人は裏切る生き物だから 誰の事も信じられない」 それが君の正義でも 僕は君を信じるよ〉で締め括られていて、最終的には救いを感じさせる部分があります。

みきとP:他人を信じられないのはなぜかを突き詰めていくと、自分に自信がないからということになると思うんです。それは自分自身に人を信じることができるほどの自信や根拠がないということなのかな、と思っていて。その歌詞に出てくる「僕」というのは「自分」のことで、「自分のことは信じてあげてね」というメッセージを最後に込めたんです。人を信じられなくてもいいんだけど、まずは自分を信じてみよう、ということですね。

ーー本作には、2018年7月に動画が公開されて話題になった「少女レイ」も収録されています。この曲は夏らしいトロピカルで明るい曲調ですけど、歌詞は少し危うさを感じさせる内容で、様々な憶測を呼びました。

みきとP:この曲は『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』という、野島伸司さん脚本のTVドラマをモチーフに書いたもので、元々は夏をテーマにしたボカロコンピ用に書き下ろした曲なんです(『EXIT TUNES PRESENTS Vocaloseasons feat.初音ミク~Summer~』に収録)。『人間・失格』は劇中でセミがずっと鳴いてて、僕の中では夏のイメージが強かったんですね。主人公がいじめに遭って自殺してしまうお話なんですけど、子どものときに観て衝撃を受けて、劇中で流れてた楽曲も鮮烈に覚えてたんです。主題歌はサイモン&ガーファンクルの曲(「A Hazy Shade of Winter(冬の散歩道)」)だったので、「少女レイ」もエレキギターを使わずに全部アコギにしようと思って。

ーー「少女レイ」というタイトルもそうですが、歌詞の最後は〈透明な君は 僕を指差してた—。〉というもので、幽霊のような存在を示唆して終わります。

みきとP:タイトルを「少女レイ」にする前は、自分の中で「大場(誠)(『人間・失格』で自殺する少年の名前)の亡霊」という言葉がずっと頭の中にあったんですよ。ドラマでは大場が自殺したあとに、影山留加という男の子が大場の亡霊に悩まされるんです。彼は大場に振り向いてもらうためにいじめの首謀者になったり、いろんな愛のねじれがあるんですね。だからこの曲の中の子は「ずっと仲良しで友達を超えた相手が自分のせいでいなくなったんじゃないか?」って悩まされてるというか。罪悪感の具現化ということかもしれないですね。

ーーこの曲では思春期の揺らぎの切なさみたいなものがうまく表現されていると思っていて。みきとPさんの楽曲にはそういったモチーフを扱ったものが多いですよね。

みきとP:やっぱりその時代が楽しかったからじゃないですかね。自分自身がその時代に取り残されてるというか、何かにつけてフラッシュバックする時代というか。中高時代は楽しくなかったという人は多いけど、自分は楽しかったから、もしかしたらその檻の中にずっと囚われているのかもしれない。だから度々そういう要素が出てくるんだと思います。

ーー加えて、本作に収録されている「ヨンジュウナナ」「アカイト」の「サリシノハラ」から続く3部作もそうですが、みきとPさんの楽曲には、聴き手に深読みさせる要素がたくさん散りばめれられています。それはご自身の作家性として意識してる部分なのですか?

みきとP:自分はあまり白黒はっきりつけないタイプで、青でもなく赤でもなく紫という性格ではあるのかなと思って。たまに言い切ることもあるんですけど、自分の持ち味としては言い切らないことの快感というのがあるので、そういう意味では少し思わせぶりなことをすることは多いかもしれないです。でも、最近思うのは、白黒はっきりしてないグレーなものに「実はこうでした」って答えても、意外と残念がられないんじゃないかということで。こないだ友人の曲を自分なりの解釈でいい曲だと思って、その人に「あの曲どういう意味なの?」って聞いたら、自分が思ってた内容と全然違ってたんですよ。でも、別にそれがショックではなくて、作った側の思いとは違ってても、自分の解釈で聴くと感動できるし、結局聴き方は変わらなかったんですね。だから自分が作った曲に対して白黒の解釈をつけたからといって、全員に残念がられるかというとそうでもないんだろうなと思うようになって。

ーー聴き手がその曲に自分をどう投影するかが重要ということですね。ちなみに本作収録の「PLATONIC GIRL」や「愛の容器」には、ボカロの音声だけでなくみきとPさんの歌声も入ってますが、それは「ロキ」でのボカロと生声のデュエットスタイルの反響を受けてのこと?

みきとP:「PLATONIC GIRL」はそうかもしれないですね。この曲は元々わーすたさんに書き下ろした曲なので、ボーカリストが複数いる作りなんですよ。それにわーすたさんに提供する際の仮歌を自分で歌ってたので、ボカロ版を作ろうと思ったときに、「ロキ」も受け入れられたことだし自分の歌を入れても面白そうかなと思って。「愛の容器」に関しては、ボカロの歌にユニゾンで自分の歌を重ねるのは元々やったことがあるので、僕の中ではあまり奇をてらったつもりはないんですよ。これは僕と猫の曲なので、まあ自分が出てきてもいいだろう、と。

ーー「愛の容器」は一聴すると恋人同士の共依存的な関係性を描いた曲のように取れますが、みきとPさんと飼い猫のことを書いた曲だったんですね。

みきとP:そうなんです。前に飼ってる猫がふと玄関から飛び出したことがあるんですよ。そのときはその辺にいたんですけど、それ以降、猫が玄関を気にするようになったんですよ。その姿を見て、「この子にとっての幸せは何なんだろう?」って考えるようになったので、それを曲にしようと思って。だからこの曲で歌ってるのは「外は気になるだろうけど危ないし、俺が幸せにするからここにいて」っていうことですね。別に猫は「お腹減ったなあ」ぐらいしか考えてないかもしれないですけど(笑)。

ーーアルバムには、どこかナイアガラ風のポップな「NのONE」という新曲も収録されてますが、これはホンダの軽自動車、N-ONEのことですか?

みきとP:そうです。3カ月ぐらい前に、少し広めのスタジオがある家に引っ越したんですけど、そこは車がないと生活しにくい場所なので、新しく車を買ったんですよ。ちょうどアルバム用に新曲を作らなくちゃと思ってたので、かわいい車で気に入ってるし、今曲を書くなら車の曲かなということで(笑)。あまり余計なことを考えずに、自分で聴きたかった曲という意味では、最近の中でも一番素直に作った曲ですね。

■ボカロ出身=“第二の米津玄師”と括る風潮

ーー初音ミク生誕10周年を記念して制作されたアイリッシュ調の「だいあもんど」や、『マジカルミライ2016』のテーマソング「39みゅーじっく!」も収録されて、みきとPさんの近年のボカロ曲の集大成的なアルバムになりましたが、こうして並べると曲調の多彩さも魅力のひとつとして浮かび上がってきます。そのサウンドの引き出しの多さはどのように培ってこられたのですか?

みきとP:自分はよくジャンルの引き出しが多いように思われてますけど、そんなことはなくて。大前提として楽器の音色が違うと曲調も変わって聴こえるので、それが理由だと思うんですね。あとは二十代中盤にAORを聴きだした頃から、リズムの違いによって起こる曲調の変化というものに着目しだしたので、それである程度幅広く見せられるようになったというか。それと僕は小学生の頃にTHE BOOMというバンドが好きで、彼らはアルバムごとに曲調が全然違うんですけど、いろんなことをやってもTHE BOOMはTHE BOOMだなあと思ってたんです。別にそれを特別意識してるわけじゃないんですけど、その原風景の影響は強いと思います。

ーーTHE BOOMはすごく納得いきました。「少女レイ」のラテンっぽいリズムは、まさに『極東サンバ』(1994年)の頃のTHE BOOMに通じるところがありますし。

みきとP:たしかにその辺りはTHE BOOMを聴いてなかったらわからなかったかもしれないですね。特にジャンル音楽というのはガチでやるとガチすぎちゃうというか、自分のフィルターを通したほうがポップになると思うんですよ。「少女レイ」もサンバっぽいですけど、ガチのサンバになると雰囲気が変わるし、ガチのサンバはやろうと思っても出来ないので。

ーーたしかに「ポップスを作りたい」という気持ちは、みきとPさんの音楽から伝わってきます。

みきとP:経験上、そのほうがいいんじゃないかと思っていて。僕はバンド時代にキャッチーな曲を全然作れなくてコンプレックスだったんですよ。その頃に「もっとキャッチーに」「もっと強いサビを」と言われ続けて、「俺はキャッチーなメロが作れないやつなんだ……」っていてこまされて(笑)。今もそれを引きずってるところがあって、頑張ってキャッチーで届きやすい曲を書こう、という意識になってるんです。だから今でも曲を提出したときに「サビが弱い」と言われるとズキッときます(笑)。

ーー来年にはボカロPとしての活動を始めてから10周年を迎えるわけですが、そこに向けてやっていきたいことはありますか?

みきとP:まだおぼろげながらライブはやりたいと思ってるんですけど、よく考えたら自分以外にも10周年の人がいっぱいいるので(笑)、そこに埋もれないように何かやりたいですね。個人的には何事もなく平穏に過ごすのがいいですね。

みきとPコラボステージ @ YouTube FanFest JAPAN 2018
ーー例えば昨年のイベント『YouTube FanFest 2018』に出演された際、キズナアイ、ミライアカリと映像でコラボレーションしていましたが、昨今ネットシーンで盛り上がっているVTuberについてはどのようにご覧になってますか? 

みきとP:キズナアイチャンネルとかを見ておもしろいなあと思ったりはしてます。鳩羽つぐというVTuberがいるんですけど、その子は気になって追ってたりしてて。彼女はいろんな憶測を呼んでる異色のVTuberで、喫茶店で後ろ向きで何かをしてて、たまに何かポロンと言って終わったりとか、謎の映像を上げてるんですよ。しかもその映像がいい雰囲気で、ぼーっと見て楽しめるというか。

ーー最近はVTuberがアーティストデビューするケースも多いので、作家として楽曲提供してみたいと思ったりは?

みきとP:お話をいただければぜひ何かやりたいですけど、自発的に何かというのは考えてないですね。僕らは依頼があったときに動く立場なので。ただ、めちゃくちゃ好みのVTuberが現れたらわからないですけど(笑)。

ーーまた、近年は先ほど話題に上った米津玄師さんのブレイクもあって、Eveさんやバルーンこと須田景凪さんといったボカロシーン出身のアーティストに注目が集まっています。みきとPさんもご自身で歌も歌いつつボカロPとして活動していますが、現在の盛り上がりをどのように受け止めていますか?

みきとP:自分はアーティスト活動も並行してやってると言えるほどライブ活動も音源も出してないし、シンガーソングライターであるという意識はあんまりないのでそこのカテゴリーには属していないと思います。一つ思うのは、ボカロ出身でアーティスト活動を始めた人たちを総じて「第二の米津玄師」というパワーワードで括るのは、本人たちにとっては本意ではない可能性があるんじゃないかと思います。それに、「もう第二かよ?」とも思いますし。自分は作品至上主義っていうか、結局どんな作品をつくるかに興味があったりするんで、どんな形であれグッドミュージックを作る人達はリスペクトします。

 最近「ボカロ踏み台論」みたいな話題もあがっていますけど「踏み台」なんていう言い方はよしてくれって思いますね。なんともキャッチーな響きなのはいいですけど、どちらかというとネガティブな印象ですよね。それに関して言えば、ボカロがみせてくれた景色が次の世界に繋がっていくということはたくさんあると思います。ただ、だからといって必ず高く飛べるというわけではないし、結局自力が必要になってくるわけです。つまり「踏み台」に登ることは「挑戦」の一つだと思います。

ーーなるほど。

みきとP:それでもその話題が盛り上がるのは、ある種、その界隈への愛の確認(愛していたの? 愛していなかったの? というような)とか、高く飛んだ人へのやっかみ的な話題なのかなと感じました。なぜそう思うかというと、「ボカロを踏み台にしたら成功します」みたいな戦略的な流れも今は感じないし、直接の勝因には結びつかない気がするからです。ボカロ曲を出すのって結構手間暇かかるもんで、なんらかの想いがないと中々難しいことだと思います。その界隈で人のつながりができたり、自分の曲が二次創作されたり、直にコメントをもらえたり、そういう世界の中で、次にやってみたいことが湧いてきたり、次のステージへ挑戦したくなったりすることは、愛とか熱とかなしには起こらないことなのかなと思ったりします。

ーーみきとPさんもかつてはバンドのフロントマンとして、アーティストとしての活動を志していたと思うんです。その当時と今ボカロで作ってる音楽とでは、自分の中で何か線引きがあると思うのですが、アーティスト的な部分に執着しなくなったきっかけは?

みきとP:これは全然ネガティブな話じゃなくて、自分はいわゆるロックアーティストになれるタイプの人種じゃないことに気づいて、それですごく楽になったんですよ。よく芸人さんで、だんだん表舞台に出ていかなくなって、放送作家や構成になる人がいるじゃないですか。自分はそっち側の人間なんじゃないかと思って。それ以降、自分が理想としてたアーティストの姿を追いかけるのは違うなと思って、自分をもっと活かせる別の場所を探し始めたんです。バンドを解散した少しあと、2007年や2008年頃にはそういうことをずっと考えてましたね。それでボカロで曲を作り始めたときに、俺は裏方でいいんだ、と思うことができて。でも、自分がそう思えたことで作れた曲もたくさんあったし、出会えた人もたくさんいるし、それで今の状況があるんだと思います。(北野創)

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